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物語としては蛇足みたいな結婚式です。
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彼と恋人になってから
数日が経ったある日
祖母に彼を紹介した
「あんたが孫の恋人かい
見たところ
いい感じじゃないかい
孫は飼い猫を溺愛するほど
抱きしめている大の猫好きだが
根は素直な良い子だから
末永く頼むよ
ああそれと
孫を泣かせたりしたら
ただじゃ置かないからね」
祖母は彼を
ギロリと睨みながら
そう言い切ると
「お見合いの断りの電話をかけてくるよ」
と言って
席を立った
祖母のあの反応を見た限り
彼のことを
認めてくれたみたいで
嬉しかった
「オレ、覚悟できてるから」
彼はそう手を握って
耳打ちするように呟いた
覚悟の意味を悟ると
仄かに顔が赤くなったのを感じていた――
18
彼と恋人になってから
数年の時が経った
早いようで遅いような
それでいて
愛おしい時間
そして、その時間を
愛する彼と一緒にいるため
それをずっと続かせる儀式を
行い、証しするために
結婚式を挙げる
神父さんの前で誓いをし
約束の指輪を
互いの指に嵌めて
みんなの前でキスをする
そして、会場にいるみんなに
彼との仲を取り持ってくれたみんなから
盛大な拍手を浴びながら
祝福を受け
花が降り舞うなか
彼と手を繋いで歩くのだ
照れくさくて
恥ずかしくて
嬉しくて
でも、生涯の夢が叶う
この瞬間に
主役としていられて
心から楽しい
彼のほうを見ると
彼も自分を見つめていて
目が合うと
二人で微笑み合った
これから、彼と夫婦になる……
そう考えると
胸がドクンドクンと鳴って
顔に熱さを感じた
その様子を彼は
「大丈夫だよ」と
耳打ちして
抱きしめてくれた――
19
結婚式から数日後の昼
自分は彼と一緒に
便箋に文字を
走らせていた
送る相手は
自分たちを繋いでくれた
恩人でもある変人にだ
変人が勇気を
くれなかったら
変人が彼に質問を
しなかったら
変人が自分の背を
押してくれなかったら
自分たちは今ここに
夫婦としてはいなくて
すれ違っていたままに
なっていたと思うから
彼と一緒に感謝の言葉を
手紙にて変人に伝えよう
「オレと彼女を、自分と彼を
繋いでくれて、ありがとう
変人も幸せに
人生を過ごしてください」と――
《終》
これで今作は終わりです。
お読みいただきありがとうございました。