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「朝から元気がないようだが、

大丈夫か?」


次の日、仕事の休憩時間に

変人に声をかけられた


そうか、変人から見たら

元気が無いように見えるんだ……


はぁ……、と溜め息をつくと

変人が心配そうな顔で見ていた


「彼に関して

何か悩みでもあるのか?


誰かに言えば、

悩みは軽くなることもあるぞ?」


変人がそう言うので

昨夜のお見合いについて

変人に相談した


「25までに恋人を作らないと

お見合いされることになって……


嫌だって言ったら

早く作って見せろって言われた


彼に想いを伝えたいけど

ヘタレだからそれもできなくて

どうしたらいいんだろう……」


「勇気を出して

さっさと告ってしまえばいいが

あいつは鈍感だからなぁ……」


変人の答えは

あまりにも真っ直ぐで

それでいて、困難で

悩みを理解してくれる


「そうだなぁ……

今度、あいつの

本気の告白を聞いてみようか


『敵を知り己を知れば』というやつだな

あれは、情報の大切さの念押しで

書かれた言葉だったがな


他には、冗談になるが

仮初めで百合になる

というのは……ダメだよな」


変人が何やら変なことを言い出したので

白い目で睨んでおく


そもそも、百合だなんて

祖母は納得しないだろう

……ちょっとぐらいなら、興味はあるけど

ハマるのが怖いから、やりたくない


恋愛と生活とでは

意味が違うと思うから――


変人に相談してから

数日が経った

ある日の休憩時間に

変人から話しかけてきた


「鈍感なあいつから

恋愛関係について

それなりに質問したが


あいつが本気の告白を

感じ取るのは

直接では難しいだろうな」


変人の言うとおり

彼は鈍感だ

直接想いを伝えたとしても

自分じゃないと思うだろうし

勇気を出しても

白けてしまいそうで怖い


そう考えていると

間を縫うように

変人が話しを続け出した


「直接では難しい

だが、間接的にはどうだろうな?


ネットで軽く調べた程度だが

手紙でも書いてみたらどうだ?


形に残るし、メールだと

すぐに消されてしまう


それに、そもそもあいつは

携帯を持ってもいないしな


ゆえに、ラブレターでも書いて

渡せばいい」


変人は第三者だから

簡単にそう言うけど


好きな人に想いを伝えるのって

それだけでも、心臓が

バクバクと内側から鳴り響いている


「顔が赤いな

彼のことを考えて

赤くなっているのかね?


まぁ、時間をかけて

ゆっくり丁寧に書けばいい


形が残るものを繰り返し読めば

様々な側面が、読み手の心を

捉えるのだから


ふむ、休憩時間もそろそろ終わりか


長々と話してすまんかった


それじゃ」


変人はそう言うと

スタスタと自分の持ち場へ

戻って行った


そして、休憩時間の終わりを告げる

チャイムが鳴り響いた――


その日の晩

変人が言っていた

「ラブレターを書いて、渡す」

という言葉が

頭から離れずにいて


心にある彼への想いに

突き動かされるように


気がつけば、椅子に座り

膝に愛猫を載せて

机に向かって

シャーペンを取り

便箋へと想いを綴っていた


ああ、でもない

こう、でもない


気分転換に愛猫の背を撫でながら

慣れないながらも

拙いながらも

頑張って

想いを言葉にして

ラブレターを描いていく


やがて、便箋いっぱいにまで描ききると

疲れ果ててしまって

睡魔に誘われるかのように

ベットへと

布団の中へと

倒れ込むように

眠ってしまった――


10

ラブレターを描ききった翌朝

昨晩一生懸命に描いたラブレターを

読み直すと

あまりの恥ずかしさに

顔が熱くなってしまったけど

それでも、一生懸命に描いたのは

間違いないものだから

愛おしく抱きしめるように

宝物のように

胸に押し当てた


そして、はたと気づく


このラブレターを

彼に渡さなければならないことに

それで、さらに顔が真っ赤になって

どこか、嬉しく感じて

多分、鏡を見たらニヤニヤと笑っている自分自身が

映るのだろう


それでも、そんな自分すらも

愛おしく思えてきたものだから

心の中で、どこか不思議だと思った――


11

彼と二人きりの時間

他愛のない話をしながら

昨晩、一生懸命に描いたラブレターを


緊張のあまり

ポケットの中で

握りしめている自分がいる


ドクンドクンと

内側から鳴り響くのは

心臓の音


「これ、あげる!

あとでいいから、必ず読んで!

返事、待ってるから!」


近づいて来る時間の終わりに

怖がりながら

勇気を振り絞って

彼にラブレターを渡した


「え、え?

よく分からないけど

分かった、返事する」


我ながら、自分でも驚くほどの

声量で言ってしまった

叫んでいるのと

ほとんど同じ


だけど、彼はそう約束してくれたから


「それじゃ、また明日!」


それだけでも、良かったから

あまりの恥ずかしさに堪えきれず

彼との時間を終わらせて

さっさと家に帰った


このままだと恥ずかしくて

誰であっても

まともに顔を合わせられないから


ある意味、ちょうど良かったかも知れなかった――


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