1
1
彼を好きになったのは
いつからだろう――
初めは、話していて気のいい人だった
一緒に話して
一方的にからかって
やりすぎたこともあったけど
自然と惹かれていた
彼に恋をしていると
気づいたのは
いつからだったのか
それすらも分からない
でも、気づいたら
彼のことばかり考えていて
考えるたびに
胸が締めつけられて
苦しかったけど
心のどこかで
心地よく感じていた――
2
友人や仲間たちに
「彼のことが好き」と
伝えたら
みんながみんな
「あいつが好きなんだなと
君の行動を見ていて
分かっていた」と
口々に言われた
仕事で有能な人たちにも
話していて面白い人たちにも
からかっていて面白い人たちにも
気の合う友人たちにも
誰からも言われてしまった
気づいていないのは
恋している彼と
その友人である変人だけ
変人には昼食を取りながら伝えたから
実質的に知らないのは
彼一人だけ
みんなに知られながらの恋は
どこかくすぐったく感じて
恥ずかしくも感じていた――
3
みんなが気を利かせたのか
彼と一緒にいる時間が増えた
でも、彼に想いを伝えようとすると
なかなか正直になれなくて
つい、からかってしまう
我ながらヘタレだと思うけど
どうしてもヘタレになってしまう
溜め息をつきながら
愛猫を抱きしめる
愛猫のお腹や肉球をこねくり回しながら
撫でまくっていると
少しは気晴らしになったかな――?
4
昼休みに職場の同僚と
会話を楽しんでいたら
彼についての
良くない噂話を聞いた
男女に関連する悪い噂
どちらかによる二股疑惑
押し寄せる不安
違うという自己暗示による
疑惑へのささやかな抵抗
平気なふりを装って
でも、中は不安で一杯で
真実を知りたくて
知ることが怖くて
仮面を被っているような気持ちが
心の中で根付いていた――
5
心が不安で満ちてから
数日が過ぎてからの昼食時
変人と一緒にとっていたら
会話の流れを縫うように
変人が話を始めた
「彼に関する噂話だが
デマだと言うのが発覚したから
もう不安に駆られんでもいいぞ」
「へっ? どういうこと?」
突然に告げられた言葉に
一瞬分からなかった
「二股疑惑はデマだったと
話しているが?」
変人はそう言うと
「話を聞いているのか?」と
首を傾げるジェスチャーを
一瞬だけ取ると
食事を再開し始める
変人の言った言葉を
理解したその瞬間
心の中を暗闇のように
覆っていた不安が
消え去っていくのを感じた
変人の気遣いは
どこか分かり難いけど
どこか安心してしまう
もう少し分かりやすければいいのにと
心のどこかでそう思っていた――
6
家での食後の団欒の時
祖母が唐突に言った
「あんた、このまま年とって
恋人とかいなかったら
あたしの友達の孫と
お見合いさせるからね」
あまりにも唐突なお見合い話
そのお見合い話を詳しく聞くと
数年経ったら
昔何度か会った
祖母の友達の孫とやらと
結婚させるとのこと
で、相手は了承しているらしい
それは嫌だ、と伝えたら
「あんたが25までに
恋人を作って
家族に見せればいい
25でこのままだったら
本気でお見合いさせるからね
ああそうそう、飼い猫が恋人ですって言ったら
今すぐお見合いの準備をするよ」
祖母は有言実行を宗とするから
お見合いの話は本当だ
25まであと数年
だというのに
サビのようにこびりつく
焦燥感が
心に広がって痛くて
愛猫のお腹を撫でても
焦燥感が拭えなかった――