猫の伝説
6回目の投稿です。
本日は、猫と水のお話をお送りします。
むか〜しむか〜し
そのまたむか〜し
とお〜いむか〜しの
どこかのとお〜いところのおはな〜し。
上
ある時、ひょんな事から
世界はたくさんの水で
沈みそうになりました。
人間の男とその妻、羊、犬、猫は
たかーいたかいお山に登って
水から生き延びようとしました。
でも水はどんどんどんどん増えてきました。
すると水の中から声がしました。
「我は水の神である。
もし命が惜しいのであれば
我にもふもふした動物を差し出すのだ!」
男と女と羊と犬と猫は悩みました。
暫く沈黙が続くと古風な羊が言いました。
「儂が行こう。儂こそがこの中の動物の中で一番もふもふ…とやらに適しておる。儂が生贄となり皆さんをお救いしよう。」
他の皆は羊を止めませんでした。
何故なら羊の目は本気だったからです。
羊は水の中へと飛び込みました。
少しすると
水の神様の声が聞こえました。
「ふざけるなぁ!紛い者を差し出しおって!もふもふじゃあ!もふもふした動物を差し出せい!」
水の神様は怒ってしまいました。
そしてそのせいで
水はもっともっと増えてしまいました。
男と女と犬と猫は悩みました。
やがて逞しい犬が言いました。
「拙者こそがもふもふの動物である。拙者が生贄となり皆様が助かるのならば喜んでこの命、神に捧げましょうぞ。」
他の皆は犬を止めませんでした。
何故なら犬の口調が本気だったからです。
犬は水の中へと飛び込みました。
また少しすると
水の神様の声が聞こえました。
「なめてんのかぁ!あ”ぁ?このドコがもふもふじゃ!?あぁ…もう次で最後だ!次失敗したらお仕舞いにしてやる!」
男と女と猫は悩みました。
暫くすると可愛い猫が言いました。
「僕はこれでも毛の密度なら先に逝ってしまった彼らより自信があります。そもそも残りの動物は僕だけです。さようなら。」
他の皆は猫をとめはしませんでした。
猫の背中が彼の覚悟を語っていたからです。
猫は水の中へと飛び込みました。
少しすると水の神様の声が聞こえました。
「むほぉ!これじゃ!この艶!この香り!この手触り!まさに我の望んだもふもふである。実に大義であったぞ。約束通り水は引いてやろう。」
水の神様の仰った通り水は引きました。
男とその妻は生贄となってしまった
水の中の動物たちのために祈りました。
「どうか、あの動物たちが
水の底でも幸せでありますように。」
するとあちらこちらの木の影から逝ったはずの
羊と犬と猫が現れました。
猫はその一件で特別に
家の中に入れてもらえるようになりました。
けれども猫は
「もう水はこりごりです。」と
水が苦手になってしまいましたとさ。
つづく。
下
それから世界に大陸が戻り、男と女と羊と犬と猫が平和に暮らしていた時の話。
猫は喉が渇いてしまったので近くの綺麗な池に水を飲みに行きました。猫が綺麗な池に口を付けると突然、綺麗な池から綺麗な女神様が現れました。
猫は驚いた様子で聞きました。
「何て神々しいお方なのでしょう。貴女は一体何者なのですか?」
女神は恥じらった様子で応えました。
「わっ私は…水の神という者です。」
猫はまた驚きました。何故なら先日会ったばかりの苦手な神様だったからです。
「水の神様で御座いましたか。先日は有難う御座いました。」
それでも猫は丁寧に挨拶しました。
水の神様はまた
恥じらった様子で言いました。
「はっはい!先日は大変なご迷惑をお掛けしてしまい申し訳御座いませんでした!」
神様は勢い任せにお辞儀しました。
猫はとんでもないことになったと思い慌てて言いました。
「いえ!滅相も御座いません。誰でも心は乱れ、そして癒しを求めるものです。僕がその癒しになれたのであれば誠に光栄な事で御座います。気にしないでください。」
猫は思っている事をそのまま言いました。水と水の神様は苦手ですが嫌いな訳ではありません。
水の神様は安堵した様子で言いました。
「ありがとうございます!それで…お願いなのですが…」
水の神様は何かを言いたげな様子です。
猫は聞きました。
「何で御座いましょうか?僕にできる事なら何でも申しつけてください。」
猫はこの時のこの一言で将来の全てが変わるとは思いもよりませんでした。
「何でもですか!じゃあ私の……め…なっ…く…さい。え……んに。」
猫は神の言う言葉がよく聞きとれませんできませんでした。そもそも神と猫が話せるだけでも理解し難い状況なのに…
猫は失礼ながら
「失礼ながら今、なんと?」
と、聞き直すことにしました。
もし自分の聞こえた事が正しいとなると一大事な事になります。
それを聞いた水の神様は、
恥ずかしがりながら言いました。
「羞恥プレイですか!まだ返事も貰ってないのに…じゃ、じゃあ言いますよ。」
一拍おいて水の神様はハッキリとこう続けました。
「永遠に私のお嫁になってください!」
猫は驚いき過ぎて飛び上がりました。猫にジャンプ力があるのはこの為です。
猫は少し黙ってからゆっくりと聞きました。
「僕が水の神様のお嫁さんにですか?答える以前に僕は男の子です。」
神は猫が男の娘だったことに驚愕しました。ですがすぐに落ち着きこう言いました。
「神の前では性別なんて関係ありません!お嫁が嫌ならばお婿で構いません!私と一緒に居てください!」
猫は困りました。自分は自分の出来る事なら何でもやると言いました。猫はとても卑怯な手を使ってしまったと思いました。「何でも」と言ったのに「それは自分にはできない」と言えばやらなくて済むからです。猫は自分の発言を後悔しました。そして神に懺悔しました。
「僕は先程『僕にできる事なら何でも申しつけてください。』と言ってしまいました。これは自分ができるかできないかで判断せずにやりたいかやりたくないかで判断されてしまう事になります。誠に申し訳御座いませんでした。」
神はいきなりの懺悔を一言一句逃さずに聞いてあげました。そして言いました。
「許しましょう。私は寛大なのです。猫さんは堅実な方ですね。惚れ直してしまいました。やっぱりおよ…お婿になってください!」
猫は考えました。
猫は特に何かの(またはどなたかの)神を信仰している訳でもありませんから神の言う事を盲従する事はありません。
だから考えました。
まず猫は女の猫と仲良くなったり恋い焦がれたりした事はありません。猫はそろそろその様な事に興味が湧く年でした。ですからそろそろお嫁が欲しいところでした。ですが他に当てがないから神様と結婚するのは失礼です。猫は神を信仰してはいませんでしたが、とても礼儀正しい猫でした。
次に猫は考えました。
自分は神の婿になるに値するか。神という存在は猫という存在よりずっと高貴で格が違いすぎます。そして神はとても美しい容姿で地味な色の猫とは相応しくありません。ですから猫はこの有難い機会を断ろうとしました。
「水の神様、私は貴女様ほどに高貴でもなければ美しくもありません。その有難いお話、断らせていただきます。」
それを聞いた水の神は猫に
こう問いました。
「それは貴方がそうしたいと
思ったからですか?」
猫は慌てて応えました。
「いえ。違います。そんな事はありません。」
水の神は再び問いました。
「では何故、断ったのですか?」
猫は今度は落ち着いて答えました。
「それは、水の神様と私が釣り合わないからです。」
水の神はまた問いました。
「それはどこのどなたが決めた事でしょうか?」
猫は今、自分と話している相手が
何者であるのかを
改めて、いや初めて気付きました。
そして猫は言いました。
「それは…それは私には分かりません。水の神様、一つよろしいでしょうか。」
水の神は応えました。
「良いですよ。」
許しを得た猫は、こう言いました。
「私の妻になっていただけませんか?」
水の神は少しだけ間をあけてから
答えました。
「はい。喜んで。」
水の神と猫はこうして結ばれ
永遠の様な時を過ごしましたとさ。
おしまい。
いかがだったでしょうか?
あらすじに書いた通り
こちらは南太平洋の猫にまつわる伝説の
二次創作です。
以下、申し訳ありませんが
ネタバレとなっております。
本文を読んでからお楽しみください。
上の流れはその伝説となっております。
(原作では、
洪水になる→毛のみっしり生えた動物を生贄にする→最後に猫の番になる→助かる→猫が家に入れてもらえ水が苦手になる。という流れです。)
下は自分で考えました。
昔の人は凄いと言いますが
今回、凄いと思ってほしいのは
「分からない事に対してそれが
何であるかを考える」という点です。
最近の人間はわからない事があると
すぐにスマホやらで調べてしまい
想像力や予想する力がついていません。
分からない事があっても
自分で考えてみる。
それが今の教育に
必要な事の一つであると思います。
考える事は面白いものですので
猫が何故、水の神を妻としようと思ったか、
水の神はいつから猫に惚れていたのか、
など考えてみてはいかがでしょうか?
私は他にも
お嬢さまと執事の可愛いお話、
シスコン兄の青春、
怪盗のファンタジー、
シュールリアリズムの世界の話など
趣向の違う小説を書いていますので
この作品が気に入らなかった方でも
気に入っていただけた方でも
気が向き次第、読んでみてください。
追記:12月31日に言葉の表記に関する修正を行いました。
それでは皆さん、良い一日を。