表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/24

第二話 美人三姉妹に会いに洋館に行こう

 数日後、ブログに反響があった。

 デジタル一眼レフを買ってしばらくは、目に付くものを端から撮ってブログに掲載するのが楽しかった。けれど、半年もすると撮影テクニックの実験にも飽きてしまい、都内の桜の名所で撮った、雨に濡れたソメイヨシノを最後に、しばらく更新していなかった。

 祖父の写真にはいくつかのコメントが寄せられていたが、ひときわ僕の目を惹いたコメントがあった。

 

「はじめまして。趣味で写真を撮っているクラウドと申します。

 いつも美しい写真を拝見しています。トールさんの作品のファンなのです。

 雨の桜はズームレンズで撮ったとは思えないほど精細で鮮やかでしたね。でも、ここ二ヶ月以上更新がなくて、寂しい思いをしていました。

 お爺様が撮影された洋館の淑女を拝見すると、トールさんの才能のルーツが窺える気がします。

 やはり銀鉛写真は良いですね。デジタルでは出せない雅やかな柔らかさを醸し出しています。

 このポートレートの美しさには、言葉では表現できない魅力を感じます。

 こんな洋館を撮りたいとのこと。

 ここまで美しい建物ではないかも知れませんが、私の祖母が古い洋館を持っています。よろしければ遊びにいらっしゃいませんか」

 

 トールというのは僕のハンドルネームだ。狩屋透でトール。今まで何度もブログの来訪者からコメントをもらっているが、クラウドというのは初めて見るハンドルネームだった。

 僕のブログを気に入ってくれているのは嬉しいが、あまりに突然な内容だったから、あたりさわりのない返事をしておいた。

 

 翌日、今度はメールが送られてきた。

 

「トールさんこんばんは。クラウドです。

 ブログにコメントしようと思いましたが、プライベートな内容を含んでいるのでメールで失礼します。

 面識の無い方に突然、洋館の話をしてしまって驚かれたことでしょう。

 実は、祖母が高齢で洋館の管理が難しくなり、ゆくゆくは取り壊すことになるかも知れません。

 私や妹達はあの洋館をとても気に入っていて、できれば壊さずに済ませたいのですが、私達には難しいことのようです。保存ができなければ、せめて写真だけでも残したいと思っています。

 もしトールさんさえよろしかったら、洋館の写真を撮っていただきたいのです。

 大したお礼もできないのですが、交通費は負担させていただきます。また撮影に時間がかかる場合は、宿泊や食事の手配もさせていただくつもりです。

 どうか、一度うちへおいでいただけたら幸いです」

 

 なるほど、そういうことか。

 単なる社交辞令や、詐欺まがいの話ではなかったようだけど、つまりはアマチュアカメラマンに安価に写真を撮らせようということなのだろう。ブログを作って自分の写真を掲載するようになってから、この手の依頼が時々くるようになった。写真の腕を買われるのは嬉しいが、大抵の場合、彼らが求めているのは単なる安い写真だ。

 そういう依頼を、僕は断ることにしている。

 友達の頼みなら喜んでどこにでも撮りにいくけれど、ネットで知り合っただけの相手にそこまでしてやる気にはなれない。第一、面識もないのにただで写真を撮れだなんて、たとえ相手がアマチュアだとしても失礼な話ではないだろうか。

 

 だが、メールに添付されていた二枚の写真を見て僕の考えは変わった。

 一枚は洋館の外観だった。つい最近撮影されたものらしい、満開の桜をバックにした赤レンガの洒落た洋館が写っている。この写真を見た瞬間、撮りたいという欲求が刺激されたが、もう一枚の写真を見たときに、それはさらに強くなった。

 そこには同じ洋館をバックに、並んで微笑んでいる三人の女性が写っていた。

 左の女性はボブカットでブラウスとパンツ姿、右の女性はロングヘアにキャミソールとデニムパンツ、真中は袖のない真っ白なサマードレスを着ている。でも僕の興味を引いたのは、三人とも非常によく似た美人だったことだ。

 ふと、祖父が残したモノクロ写真を思い出す。あんな写真を撮る絶好のチャンスかも知れない。

 僕はすぐさまクラウドさんに、条件付きで撮影を請け負う旨のメールを送った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ