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第一話 愛人が何人いたのかわからん

 物語に登場する超能力、中でもテレパシーと呼ばれるそれは他人の思考を読んだり、脳に直接話しかけたりする特殊能力として書かれている。時には錯覚を見せたり行動を操ったりもできるかもしれない。

 そんなテレパシー能力の持ち主はテレパスと呼ばれる。

 超能力者達は、突如目覚めたその能力にとまどい翻弄されていく。そう、突如目覚めるんだ。いや、徐々に能力を開花させていくのかもしれないが、少なくとも超能力を持ったまま生まれてくることはない。

 考えてみればわかるだろう。生まれたばかりの超能力者が分別もつかないうちにその能力を披露したら、一体どんなことが起こるのだろう。赤ん坊が意思を伝えるために泣くのと同じように、いや、もっと早く、母親の子宮にいる段階から超能力を使い始めたら。もしサイコキネシスであれば、その力の最初の被害者は母親自身だろうし、テレポーテーションだったら結末は考えるまでもない。それはおそらくヒーローにも救世主にも、そして悪にもなり得ない。

 テレパシーでも同じことだ。生まれながらにその能力を授かったテレパスは、一体どんな存在になるのだろうか。

  

 

 カメラをパソコンにつなぐとすぐに写真データの転送が始まった。一眼レフの写真データは非常に大きく、転送には時間がかかる。

 その代わり、大きくて明るいレンズや大型イメージセンサーのおかげで、コンパクトデジカメでは表現できない美しい写真を撮ることができる。

 フィルムカメラの時代から一眼レフで写真を撮ってきたが、デジタルカメラは撮ったデータをそのままパソコンで扱えるからとても便利だ。

 季節ごとに移り変わる景色や、何気ない街角の風景を切り取ってはブログにアップロードしていると、同じ趣味の仲間が評価やアドバイスをしてくれる。

 

 親のスネをかじる学生の身だけれども、家賃の一部と生活費をアルバイトでまかなっている。収入は生活費を払うとギリギリだから、撮影機材などを買うためにはただでさえささやかな食費から捻出することになる。

 昨年暮れに高級ズームレンズを手に入れた時には、半年ほど卵かけご飯で過ごすことになった。

 自分の部屋のパソコンでしばらく更新していなかったブログを開いたまま、僕は一枚のモノクロ写真を眺めていた。時の流れを感じさせるセピア色に染まった写真には、洋風の部屋を背景に若い女性が写っていた。

 彼女はポニーテイルを大きなリボンで留め、淡い色の振り袖に暗色の袴を着て、アールデコ様式の脚の細い椅子に腰掛けていた。

 その双眸は勝ち気に輝いて、口元は挑戦的に引き結ばれている。表情に合ったりんとした姿勢を裏切るように、しとやかに重ねた細い指先は膝の上に置かれていた。


 僕の父方の祖父は相当な趣味人だったようで、彼の死後に実家の倉庫からテニスやゴルフ、スキーなどのスポーツ用品や猟銃、釣り道具、大量のレコード盤などあらゆる趣味のアイテムが出てきた。その中に古いフィルムカメラと一緒にたくさんの写真が見つかった。親戚には写真に興味がある者が他にいなかったので、僕はそれらを形見として相続した。

 祖父の写真のモチーフはほとんどが風景だ。木々や山、滝や渓流に海岸。それらが時間の経過とともに変化する太陽や天候によって、移り変わっていく様を捉えた作品達だった。風景写真に混ざって美しい女性のポートレートもあった。でも家族の写真なんて一枚もない。

 祖父が彼女達の優美な姿をどうしてフィルムに収めることになったのか、その経緯はわからない。ただ彼女達は姉妹のようによく似ていた。いや、ひょっとしたら姉妹なのかもしれないし、あるいは一人の女性を髪型や化粧を変えて撮影したのかもしれない。どちらにしろ祖父にはもう聞くことはできないし、両親に聞いても同じ答えしか返ってこないだろう。


「愛人が何人いたのかわからん。お前の爺さんはそういう人だったよ」


 僕の父は祖父のことをそんな風にしか言わなかった。

 そんな祖父が残したポートレートを眺めていると、ふと自分のブログで公開しようと思いついた。血のつながった祖父の作品を掲載することも、僕の自己表現につながると考えたのである。

 しかし、本音は僕も祖父のように、美しい女性を撮影したかったのかもしれない。

 ブログにはこう書き添えた。


「亡き祖父が残した写真です。僕も美しい洋館でこんな美人を撮影したいものです」

PIXIVに掲載していた時の1ページを一話に割り振っている都合上、一話の文字数が少なくなっています。その分、頻繁に掲載していきますのでご了承ください。

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