初恋
それは私の初恋だった。
二階の図書室の窓から、中庭でバラの世話をしてる彼をのぞきみた。彼は、めざとく私を見つけて、そんなとこから見てるくらいなら、降りてきて手伝えって、言った。
おずおずと、庭に出て行くと
「そんな格好じゃだめだ。もっと、他の服ないのかよ。汚れてもよくて、動きやすい服はよ?」
その頃の私は、着るものは、すべて絹の西洋風のドレスで、木綿といえば、白いレエスのついたのだった。彼の庭仕事を手伝えるような服はもってなかった。
仕方なく、ただ見てた。新しく庭に置いた、三人がけの天蓋付きのブランコに腰かけて。
最初は、ドキドキして、ろくに話せもしなかった私だけど、毎日彼は庭に来て、昔のようにぶっきらぼうな口調で、話すからすぐ慣れた。
ちゃんと、手伝いできる服を買おう。でも、私の世話係の藤野は、もう年をとっちゃって、私の身の回り世話は新参者のメイドにやらせてて、昔みたいに私の服を縫ったりできない。
仕方がないので、うちに出入りしてる百貨店の外商を呼んで、相談した。
「動きやすくて、汚れてもいい服が欲しいの。庭仕事がしたいのよ。」
「では、お嬢様。ジーンズとTシャツをお持ちしましょう。それから、エプロンも。」
日本橋三越の外商が、後日持ってきたジーンズとTシャツを着てみた。リーヴァイスっていうベージュのタグがついてる。
確かに、動きやすい。男の子みたいな格好で、恥ずかしいけど、これなら彼を手伝えそうだわ。
私は、とっても気に入って、1ダースほど、買い込んだ。
でも、とても安くて、私が、いつもあつらえるドレス一枚分にもならなかった。
リーヴァイスとTシャツにエプロンを着けて、庭に出た私を見て、彼はそっぽをむいた。でも、
「いいじゃねえか、それ。その格好なら手伝わせてやらあ。」
って、言った。そっぽを向くのは、昔から彼が、照れくさい時にやる仕草だった。
なんだかうれしくなった。
庭のバラの手入れする彼にくっついて、手伝いをする。
お水をやったり、シャベルを持ってきたり、虫除けの薬を、霧吹きで吹き付けたり、肥料を持ってきたり…そんなことが、時間を忘れるくらい楽しかった。
何もかも昔とおんなじ。
昔と違うのは、おじいさまも、藤野も、私のやることには、口出しができないってこと。
彼の父親の庭師は、仲睦まじく、庭仕事をする私たちを遠くから、優しい眼差しで、見守ってくれていた。
ずっとずっと、そんな穏やかな日々が続いた。
モンテカルロ編は、三十代のヒロインのお話です。こちらは少女時代。ヒロインが産んだ双子の父親とのエピソードです。