あの人の死は私の死
ロマネコンティのバースデーヴィンテージ。
あの人と、もう一度会えたら栓を開けるつもりだった。たとえ、生涯あえなくても生きてさえいれば希望があったわ。
でも、それも消えた。
抜栓して、バカラの大ぶりなワイングラスに、注ぐ。
マホガニー色に熟成した美しい液体からアロマが立ち上る。
アロマが花開くのを待つこともなく、注いだ瞬間から、もうすでに豊かな芳香が、鼻をくすぐる。
そしてそれを、あおるように飲む。睡眠薬を飲み下すために。
生きてたってなんになる……。
あの人が死んで、私も死んだ。もう生きてない。ここにいるのは、ぬけがらの私。
抜け殻の身体をあの人のところへ持っていけないから、ここにおいて行くだけ。
私を精神錯乱と決めつけた医者が、処方した薬は、飲んだふりして、ドレッサーの引き出しの中に隠しておいた。
百錠ちかく、睡眠薬も安定剤も、なにも手をつけてない。
こんなことに、役に立つなんて!
全部、パッケージから出して、ザラザラと山のようにする。
それをひとつかみ口にいれて、ロマネコンティで、飲み下す。
致死量って、どれくらいなの?どれだけ飲めばあの人のところへ行けるの?
胃の中に入った薬が溶け出して、意識がもうろうとする。
アルコールも入ってるから、意識を失うまでにもっとたくさん飲まなきゃ……。
もうひとつかみ……口に入れて、飲み下す。
あの人から、引き離され、子供達をとりあげられ、私はそれでも、あの人が生きてるだけで支えられてた。
でも、もういない。
もう、これ以上は無理よ。耐えられない重荷などない?神はいつも、見守ってくださる……?
そんなの嘘だ。
もう十分すぎるほど、苦しんだのに、神が何をしてくれた?
神にできることは、沈黙を守ることだけじゃないの!
薄れゆく意識。
もう、何も感じない。心を引き裂かれる痛みも…、苦しみも……。
なんで恋人が亡くなったかは、モンテカルロ編で。ややこしくて、すみません。