死合わせの音
「カズキ、聞こえるか?着いたぞ、ここだよなあ」
「着いたか。なら、音声じゃなく画面にしてくれないか」
「了解……どうだ?映った?」
「ううん……まあ……いいか、大体映ってるわ」
「しょうがないよ、この公園は電波が良くないみたいだから、まあ、文句は言うな、ハハハ」
「そうだな、高校の時によくお前とこの公園でサッカーするときも集合時間を知らせようと携帯鳴らしたけど中々繋がらなくって、最後に繋がった時には日が暮れてた、なんて事もあったよなあ、ハハハ」
「そうだよな、ハハハ」
「それよりよ、タク、ちょっとスマホで周りを見せてくれないか……あ、やっぱり夜中は暗いなあ」
「何、言ってんだよ!当たり前だろ、カズキ。お前がここに行けと言ったんじゃないかよ。ところでここに公衆電話ボックスなんてあったか?俺には記憶が無いんだけどな」
「俺も記憶が無いんだけど……ただ、書き込みにはこの公園の東奥にあるらしいんだよ。そこの公衆電話ボックスから自分のスマホに電話を掛けると良い音【幸せになる音】がして、その音を聞くと何もかも忘れて幸せになる、って事らしい!」
「おい、カズキ、【らしい】って、この話は本当かよ?」
「まあまあ、タクヤ君、これは単なる都市伝説だから」
「いくら知っている公園でも、この真夜中の公園は怖いぞ!ほら、スマホで周りを見せてやるけど全然周りに人の気配なんかある筈ないし!」
「ハハハ、確かにな!周りには木しか見えないなあ、あとは真っ暗だ」
「カズキ、やっぱりお前も家から近いんだから来いよ!一人だと怖いよ」
「あ、それダメだよ、だって書き込みには『ひとりで』ってなってるから」
「誰だよ、それを書いた奴は!どうせ適当に書いた奴だろ」
「さあ、書かれてたのは……確か……何とか……真理……という名前の漢字だった気がする。まあ、それはどうでもいいか。それより、元はおまえが仕事辞めたい、もう全てを忘れたい!なんて俺に相談したから、俺が色々と調べてやったんだからな、ありがたいだろ、なあ!」
「たけどさ、よりによって都市伝説かよ……え、他は無かったのかよ、まあ、俺の事を心配してくれるんだから、ありがたいけど」
「だろ!だったら怖いくらいは我慢しろよ。いい【幸せになる音】が聞こえるんだからさ!」
「ま、まあな。でも、あるとは思えないんだよなあ、公衆電話なんて記憶無いし。今スマホでライト点けて前を見ているけどなあ、見えるだろ、お前にも」
「ああ、よく見えるよ。でなも、例え公衆電話ボックスが無かったとしても、こんな夜中で散歩することで少しは気が紛れてくるんじゃないか?どう?」
「ま、確かにな。無かったとしてもヨシ!とするべきかな!ハハハ」
「そうそう!それでいいよ。俺も色々あるしなあ、会社を辞めたいくらいだから、一緒だよ!」
「なあ、カズキ、もうちょっと進んで何も無かったら、お前ん家に行ってさ、夜明けまで酒でも飲もうぜ、どうだ?」
「それもいいか!二人で鬱憤を晴らすか!ハハハ」
「じゃあ、この辺りをスマホで周りを見せるぞ、どうだ、公衆電話なんて無かったよな。さあ、お前ん家に行こうかな」
「まあ、所詮は都市伝……、あ、タク!ちょっと待て!さっきの所、もう一度見せてくれないか!」
「え、何だよ!ビビらせるなよ!どこだ?ここの所か」
「あ、そこ!そこ光ってないか!」
「え、どこ?……ああ……確かに小さく何か光ってるなあ」
「そこ、ズームで撮ってくれないか!ほら、そこ!」
「ああ、最大で見ると……あ、ボックスがある!確かに公衆電話……だ。こんな所にあったっけ?」
「……本当に……あるんだ……」
「ちょっと行ってみるわ」
「あ、待て!おい、タク!あ?あれ?急に電波が乱れてきた!繋がらない!おい、タク!なあ……」
「おい、確かに公衆電話があるよ、カズキ!見えるか!なあ、カズキ!え、どうした?あれ、電話が切れてる……一番いいところなのになあ。しょうがないな。まあ、とりあえずボックスに入ってみるか。でも、俺も公衆電話を使ったことが無いからなあ。どうなってんだ、これ?あ、この下にカードが落ちてる……あ、これってテレカってやつ?なんでこんな所に?よく見ると女の子の写真が付いてるな、これって80年代のアイドル?確か……使った分、度数に穴があって……って見ると全く穴が開いてない!未使用だ!誰かが言ってたな、未使用の昔のテレカってメルカリで結構高く売れるって!じゃあ、このまま使わずに売ってしまえば……あ、なんか裏に書いてある。え、なんて薄い字だ、え~と、あ、
【公衆電話から、このテレカを使って自分の携帯電話にダイヤルしてね、マリ】
マリ……女性?この名前、どこかで聞いたような気が……はっきりしないな、まあいいか。じゃあ、この写真のアイドルなのかな?これがカズキの言った都市伝説……なのか?本当に?……あ、ちょっと待てよ!これってカズキが俺を脅かそうとして……なるほどね!あいつも手の込んだ事をして!まあ、それはそれでいいか!俺が落ち込んでいる事を知って少しでも気を紛らわせてくれるんだからな、ありがたい事だな、なあ、カズキ!よし、じゃあ、お前に感謝してお前が言った都市伝説通りに……まずはこのテレカを差し込むぞ。
ピーピピッ!ピーピピッ!
あ、数字が50になってるな。で、まずは俺のスマホの番号を打つか。まあ、これで気が済んだか、カズキ君!まあ、単純に自分の声を自分のスマホで聞くだけだけどなあ。まあ、俺も少し気が紛らせてもらったよ。ハハハ。さあ、受話器を置こうか……、ん?ん、今、微かに声がしたような……外?いや、この受話器から?……え、スマホの画面は……やっぱり「公衆電話」になってるぞ!でも、何か聞こえる……。
『わ……たし……わた……し、分か……る……』
「え?もしもーし……だ、誰?」
『あ、私。私、マリ。ようやく繋がったね』
「え、マリ?……って、このテレカの……マリさん?なぜ、繋がるの?俺のスマホの番号なのに!」
『だって、君がこのテレカを見て電話をしてくれたんだよね、うれしい!』
「い、いや、俺が電話をしたのは俺のスマホの番号で……つまり、自分で自分に電話をしたという事で……」
『そんな事どうでもいいじゃない!ずっと電話を待っていたのよ、フフッ』
「あ、そういう事か!この公衆電話で掛けると混線するんだ!だから、マリさんに繋がる……でも、混線した先がどうしてマリさんなんだ?カズキはこれを知っていたんだ!俺を驚かせて!ハハハ」
『君の名前教えてくれない?』
「ああ、俺はタクヤ」
『そう、タクヤ君なんだ。タクヤ君も嫌な事があったり、もう会社なんて辞めたい、とか、もうこの世から消えたい!なんて悩みがあるの?』
「え、どうして分かるの?」
『だって、私の所に来る内容って、こんな事ばっかりだから』
「いや、ごめんなさい。だって、都市伝説でこの電話にすると【幸せになる音】が聞こえるって話になってるんだよ。でも、混線したマリさんにとっては迷惑な話だよな、ハハハ」
『あ、それ、ほんとよ!』
「え?どういう事?……じゃあ、その音って?」
『あ、そろそろ鳴るんじゃないかな』
ピーピピッ!
「ん?今の音、何?」
『電話機の度数表示を見て』
「え?表示?あ!すごい減っている!あと3になってる!さっきは50なのに!これって通話したら減るんだろ?まだ、4、5分しか話してないけど……もしかしてマリさんって海外にいるの?」
『フフッ、まさか。普通は通話した分だけど、私のは……通話じゃなくて……距離なの!』
「私の?距離?距離って何なの?それって」
『君に……タクヤ君に近づく距離。その単位はメートルだからね、フフッ』
「俺に近づく……?メートル……?……ハハハ!なるほど!これが都市伝説になる理由、分かるわ、マリさん!上手だよ、ほんと!うまくできているよ、これ!」
ピーピピッ!
「え、今度は……1になった……」
『ようやく見えてきたよ、タクヤ君。海外ではなくて、すぐそばに……いるよ』
「じょ、冗談やめてよ、こんな暗い公園で……ほら、周りに誰もいないじゃないか……もう、いいよ、この話は!」
『え、でも、もう消えたいんじゃないの?何もかも忘れて。消えてしまえば楽になるよ、タクヤ君』
「い、いや、俺は、俺は、ただ冗談で……」
ピーピピッ!ピーピピッ!
「あ、この音は……あ、表示が0に!あ、テレカも出てきた……」
『あ!みーつけた!タクヤ君!この音は私が到着した時の音!これで君も楽に、幸せになるよ!』
「え!ど、どこだよ!冗談やめろよ!」
ドンドンドンドン!
「え?ボ、ボックスの扉が揺れて……あっ、うわっ、き、君が……」
『ねえー開けてよー!』
「ようやく繋がったなあ、おい、タク、タクヤ!電話どうしたんだよ?お~い、もしも~し」
『もしもし』
「え?お、女の声……、え、き、君は?」
『私、マリ』
「え、マリ……さん?ど、どこかで聞いたような名前……、え、そこにタクヤはいる?どうして、そこに、その……あなた……マリさんが?」
『タクヤ君はいきましたよ、幸せそうに、フフッ』
「ど、何処へ?幸せに?あなたは……いったい何者?」
『確か……君の名前は……カズキ君!』
「え?ど、どうして俺の名前を……」
『タクヤ君からの伝言。カズキ君、直ぐに来て一緒に飲も!って、フフッ』
「ずっとタクヤのスマホの画面が……電話ボックスっぽい天井が映ってるけど……タクヤはそこにいるの?マリさんの声だけが聞こえるんだけど……」
『うん。だから……カズキ君も来て。カズキ君もきっと幸せになるよ、フフッ』
「タクヤは大丈夫か?タクヤがこうなったのは俺の責任だ……待っててくれ!今から自転車で行くから!」
『うん、待ってるわ。それに、ちゃんとカズキ君の分もテレカ置いておくね……私のテレカ!ちゃんと売らずに使ってね。この音を聞けば悩みや嫌な事、全てを忘れ楽になるよ。ただ……二度と戻れないかも……ね。フフッ』
了




