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勇者の召喚と魔王討伐の時代は終わった。CEOの俺が女神から課された試練は異世界創業だった ~だけど世界の全ては“魔王”に繋がっていた~  作者: スアップ
1章

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第3話 異世界創業(ファウンディング)

ピピピッ、ピピピッ。


強烈な魔導音響が脳内に響き渡り、俺はパッと目を開けた。

激しい落下の衝撃に身を構えていたが、足に触れたのは硬い石畳の感触だった。


【創真(CEO)】

「うおっ……! 落ちた、のか……?」


見上げると、そこは天を突くほど巨大な石造りの城壁の前だった。中世ヨーロッパの要塞を思わせるその門の上には、見たこともない文字で街の名が刻まれている。

周囲を行き交う人々は、中世のローブを纏った者、鎧を響かせる戦士、あるいは人間ではない獣の耳を持つ亜人たち。


【レイ(CTO)】

「(自分のスマホを凝視し、バックライトに照らされながらボソッと)……女神のログ、同期を確認。……ハッタリじゃない。失敗したら、僕たちリアルに消される」


レイが突き出してきた画面の視界の端に、突如として半透明のシステムメッセージがポップアップした。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【神からのPre-Seed出資通知】

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

・受取人:神崎 創真、氷華、レイ

・調達資金:1,000,000 Gold(個人ウォレットへデポジット済)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

⚠ 【生存デッドライン:残り14日】

14日以内に「創業ギルド」にて法人登記を行い、最初の外部資金調達【シードラウンド(投資家ギルド)】または【エンジェルラウンド(エンジェルギルド)】を完了させてください。

期限内にいずれかの調達に失敗した場合、契約不履行により【全員死亡】となります。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【創真(CEO)】

「あはは……! 逆に言えば、最初の2週間で一回でも金を引っ張れれば、神様のクソゲーからはおさらばってわけだ。資金がショートしたら死ぬなんて、元の世界と何も変わらないな! 最高にスリリングじゃないか!」


【氷華(CFO)】

「……創真. 笑い事じゃないわ。いい? 私は死んでも破産だけはしたくないの。2週間以内に、私の財務管理(CFO)としての意地で、絶対に『黒字化の未来(生き残る数字)』を叩き出してあげるわ。死にたくなかったら、きっちり私の指示に従いなさい、CEO?」


氷華はすでにパニックを通り越し、いつもの冷徹なCFOの目で、自分のアップグレードされたノートPCの画面に映る「1,000,000 Gold」の残高を確認していた。


【創真(CEO)】

「分かってる。まずは軍資金(Pre-Seed)の100万ゴールドが本当にあるか、そして俺たちの武器が使えるか確かめよう。その足で、まずは法人登記だ。一刻も早くスタートラインに立つぞ」



俺たちは人混みをかき分け、街の中央にそびえ立つ「創業ギルド」へと向かった。


見上げて、圧倒された。

そこは役所というより、巨大な銀行か神殿のようだった。大理石の太い柱が何本も立ち並び、天井は気が遠くなるほど高い。床は磨き抜かれ、靴音がコツコツと不気味に反響する。

並んでいるのは、いかにも羽振りの良さそうな毛皮を着た大商人や、武装したお抱えの騎士を従えた貴族ばかり。Tシャツとパーカー姿の俺たちは、明らかに浮き上がっていた。


「次の方、どうぞ」


冷淡な声に呼ばれ、重厚なカウンターの前に進む。

窓口に座っているのは、仕立ての良い衣服を着たエルフの男性職員だった。彼は俺たちの貧相な身なりを一瞥すると、隠そうともしない侮蔑の視線を向けた。


「新規の法人登記ですね。……申請書を。それから、この街で商売を行うための『一級商議員ライセンス』の取得が必須となります」


氷華が冷徹な手つきで、羊皮紙の書類を差し出す。会社名は――【ネクサスフラット(NexusFlat)】。


エルフの職員は書類を手に取ると、ペン先でトントンと叩きながら、事務的な、しかし容赦のない声を響かせた。


「では、登記手数料とライセンス取得料、合わせて80万ゴールドになります。本日、現受でのみ受け付けます。払えない場合は、即座にお引き取りを」


80万。1ゴールドが約1円のこの世界において、80万円という大金。

隣でレイがノートPCのキーを叩き、画面を俺たちに見せる。そこには、この街の物価データが並んでいた。


【氷華(CFO)】

「(画面を睨みながら、声を低くして)……やっぱりね。新参者がこの世界で経済活動を行うための、巨大商会が仕掛けた完璧な『参入障壁』ね。……創真、これを払えば、私たちの手元に残る自由に使える検証費用ランウェイは、わずか20万ゴールド(約20万円)。宿代と食費、最低限の通信魔導具の維持費を引いたら、14日間で文字通り完全に口座がカラになるわ」


20万円。スタートアップが市場調査をすることすらままならない、文字通りの極限状態。


【創真(CEO)】

「(エルフの職員を真っ直ぐに見据え、不敵に笑う)――払うさ。資本金がいくらあろうが、初期費用に殺されるビジネスなんて元の世界でも腐るほど見てきた。ここでビビってちゃ起業家ファウンダーなんてやってられないからな」


創真が懐から、神に与えられた魔導財布を取り出し、カウンターへ叩きつけるように置いた。

カラン、カラン、カラン……!

重厚な金貨の音が響き、財布から引かれた「800,000」の数字が虚空に消えていく。手元の残高は、一瞬で一握りの20万ゴールドへと削り取られた。


エルフの職員は、まさかこの若者たちがこれほどの大金を即金で支払うとは思っていなかったのだろう。わずかに目を見張ったが、すぐにまた冷徹な鉄仮面に戻り、カウンターの下から取り出した薄い水晶の板に、魔導インクのスタンプをパチンと叩きつけた。


「……確かに。ネクサスフラット、一級ライセンスの登録を完了しました。次回の更新手続きは1年後となります」


手渡されたのは、冷たい魔力の光を放つ、透明な水晶製の「創業許可証」だった。


それを創真が受け取った瞬間、許可証の魔力が俺たちの脳内のシステム(女神のログ)と共鳴し、視界の端にパッと半透明の【会社ステータス画面】がポップアップした。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【ネクサスフラット(NexusFlat)】

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

・ステータス:法人登記完了(一級ライセンス有効)

・ポストマネー評価額バリュエーション:1,000,000 Gold

手元資金キャッシュ:200,000 Gold(バーンレート:危険水域)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

⚠ 【生存デッドライン:残り14日 】

※外部調達(Seed/Angel)が未完了のため、カウントダウンは継続中。ゼロになった時点で契約不履行(死亡)となります。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━


脳内に直接響く、リアルな残高減少とデッドラインの数字。お役所仕事を終えた充実感など一瞬で吹き飛ぶほどの、本物のプレッシャーが俺たちの胃をきりきりと締め付ける。


(第3話・了)

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