第1章『開幕』⑧
人気のない駐車場に、一台の車。
運転席のドアを開け、中に入ろうとした瞬間——後部座席からやけにハイテンションな声が飛んできた。
「ハアァロオォー!ご機嫌いかがー!?」
「…たった今最悪になった」
「あらら、かわいそ!あれ、そのかっこいいバイクどったの?」
「借りただけだ」
「あらま、じゃあ後で、サンプルちゃん呼んで回収しないとね!」
運転席に座り、シートベルトを掛ける。
「分解楽しみだなー!」
楽しげに弾む声に、小さく息を吐く。
後ろにいる『それ』は性別は分からない。
高い声で笑ったかと思えば、次の瞬間には低く響く声で話す時がある。
顔は被り物をしているので分からない。
素性は一切不明。
——分かっていることは一つだけ。
この『犯罪』を最初に言い出したのが、こいつだということ。
「それでそれで!?私のかわいいお姫様、レイは元気だったかい!?」
「………元気だったよ」
「ふぅー!!!!!」
さらにハイテンションになる男から視線をはずし、アクセルを踏む。
「(あぁ、ほんとに。元気そうでよかった)」
後頭部で騒ぎ続ける声を聞き流しながら、車を走らせた。
「(……いくらなんでも遅すぎないか?)」
そう思うのも無理はない。
レイに鞄を届けて、買い物に寄ったとしても——もう昼を過ぎ、時刻は十五時になる。
いつもなら、遅くなる時は一言連絡を入れてくるはずのごうだだが、今日は何もない。
「(……昼飯、ラップかけとくか)」
ごうだのことを気にしながら、ソファに腰を下ろす。
何気なくテレビをつけると、画面にはテロップが流れていた。
『速報 逃走していた連続誘拐事件の犯人とみられる男二人組が死亡 自殺か他殺』
「(そーいや、朝からやってたな、このニュース)」
お茶を一口飲みながら、ぼんやりと画面を眺める。
現場の映像が映し出され、アナウンサーが必死に状況を伝えていた。
——その時だった。
ふいに映り込んだ三人組が、目に入る。
見覚えがありすぎるその顔ぶれに、アサヒの目が見開かれた。
「——ぶっ!」
思わず、口に含んでいたお茶を吹き出す。
見間違えるはずがない。
中継に映っているのは——今朝見送った、三人だった。
「何やってんだあいつらーーーーーー!!!」
アサヒの叫びは、家の中どころか外にまで響き渡った。




