第1章『開幕』⑦
パァンッ!
耳の鼓膜に響く爆発音。
それと同時に、一気に煙が立ちこめた。
「ごうだ!?」
凄まじい煙の量に、思わず咽せ返る。
しかもこの煙、喉と目が焼けるように痛い。
催涙弾の類だろうか。
「ごうだ……、ごうだ!」
「待て、レイ!無闇に動くな!」
レイの腕を掴むユズキ。
——その時、かちゃっ、と小さく銃を構える音が聞こえた。
——パンッ!——
「全員車の影に隠れろ!」
——パンッ!——
二発の銃声音が聞こえた。
ヴゥン、と後方でバイクが走り去さる気配がする。
「……!?」
煙が晴れ、徐々に視界が開けていく。
ユズキは周囲を見廻し、状況を確認した。
目に入ったのは、鞄を守るようにうずくまるごうだと、頭を撃ち抜かれた二つの死体。
一つは、先ほど拳銃をつきつけてきた男。
もう一つは、車に残っていたであろう男のものだ。
そして——もう一人の姿は、どこにもいなかった。
「…逃げられたか」
「っゲホ」
ごうだのバイクもない。
あの煙の中で、たった二発。
それも寸分違わず頭を撃ち抜いている。
ここまでくれば明らかだ。
最初から、この結果にするつもりだったんだろう。
どちらにせよ、素人ではないことだけは分かる。
「(クソッタレ)」
苦虫を噛み潰したような顔をするユズキ。
逃げられたことも気に食わねぇが、それ以上に、出し抜かれたことに腹が立つ。
「ごうだと子供!」
レイが一目散に、鞄を抱いてうずくまるごうだの元に駆け寄った。
不安げな表情で声をかける。
「ごうだ?!っ無事!?子供は?!」
「げっほ!俺は大丈夫です!子供も、多分眠らされているだけです!外傷はありません!」
そう言いながら、半分開いたバックを指さした。
ごうだが子供を腹に抱え込み、庇っていたおかげで煙の影響も少なそうだ。
バックの中で眠る子供の寝顔を確認し、レイは安堵の息を漏らした。
「……〜良かった〜!」
「てか、この煙めちゃくちゃ喉と目が痛いんですけど!何すかこれ!」
「確かにちょっとヒリヒリするね」
「全然ちょっとじゃないんですが?!」
体験したことはないが、言うなればデスソースを顔面と喉に遠慮なくぶち込まれたような感覚だ。
それでも平然としているこの人は何なんだ、とごうだは頭を抱える。
本当に頑丈すぎる。
そんなごうだの前に、呆れたような顔をしたユズキが立っていた。
「おい、無事ならとっとと動け。ズラかるぞ」
「全然動けないし、無事じゃないです!あんたたちと一緒にしないで下さい!」
「あぁ?そこの短足はしらねぇが、こっちはいてぇに決まってんだろ。我慢してるだけだ」
「だから短足じゃないってば!平均、平均だよ!」
人が痛がっている横で、ギャアギャアと喧嘩を始める二人。
なんでそんなに元気なんだと、頭が追いつかず、ごうだは泣きそうになる。
その時——
すぐ背後に、気配が落ちた。
「そーだなぁ。てめぇらみたいな軽傷もいりゃ重症もいるからな」
「今、救急車は呼ばせてる。応援もな」
「……で?」
「あれっっっっだけ“勝手に動くな”って言ったよなぁ?」
背筋が凍る。
振り向けば終わる——。
それは俺だけじゃない。
横で喧嘩していた二人も同時に感じ取っていたらしい。
さっきまでの騒ぎが嘘みたいに、ぴたりと止んだ。
「逃すと思ったか、クソガキども」
今日一番であろう冷や汗が流れる。
三人同時に、息をのんだ。
そこに立っていたのは、鬼より怖い顔をした乙さんだった。




