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片割れがいない世界で君は笑う  作者: 愛愛 愛


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第1章『開幕』②



 朝から変わらない、いつもの景色。

通りすがりにある公園では、犬の散歩をする母親とその息子、出勤途中のサリーマン、庭に水をやるおばあちゃん。


そしていつものバス停——のはずだった。





「いや、ひと多っ?!いつもの倍以上いない?!」

「こりゃ、電車が事故ったかなんかしたな」

「…あ、ほんとだ!電車運転見合わせになってる!」





ユズキの言葉に慌てて携帯を取り出して調べ始めるレイ。

家から徒歩二十分ほどの、いつものバス停。

だがそこには、電話をしている人や、電車の話をしている女子高生たち。






「さすがにここから大学まで歩くのはやだなぁ〜…1時間くらいかかるし…」

「待ってりゃいつか乗れんだろ」

「やっぱ、ごうだにバイク借りれば良かった〜」

「それには同意だ」






バス停から歩いても行けなくはない距離だが、朝からそんな体力は使いたくない。

大学に着けばノートパソコンを壊した代償にこき使われるのは目に見えている。




「お。バス来たぞ」

「やったぁ!待ってて正解!」




前の列は長いが、この調子なら次には乗れそうだ。

この時間は本数も多い。

時間にも余裕がある。

約束の時間には間に合いそうだ。




 ピーー…扉が開きますご注意下さい




「……。」

「…うっそぉん…」




外だけじゃなく、バスの中までギッシリなほどの人、人、人。

人が多すぎて、このバス停からは誰も乗れなかった。

列は一ミリも動かない。

「ドアが閉まります、ご注意下さい」という声だけが、やけに耳に響いた。




「おい、走るぞ」

「えぇ、まじ!?」

「嫌なら、遅刻しろ」

「一緒に走ります!」




普段なら遅刻なんて気にしないが、今回ばかりはそうもいかない。

遅刻すれば単位が危うい。

歩けば間に合わないが、走れば間に合う。






「ちくしょー!朝からついてないぃぃ〜!」






レイの叫び声がこだました。

——それは、この場にいた誰もが思っていたことだった。



















「じゃあ、俺も行く。戸締りしっかりな」

「行ってらっしゃいませ、乙さん!」

「私も仕事に行くわ。坂下、車の中に待たせてるし」

「坂下さん、ずっといたんすか!?」

「今日のスケジュールのチェックに、ミーティングのセッティング、会食の予約、書類整理、それにレイを撮るための最新の一眼レフの購入……その他諸々ね」

「いや有能すぎる!」



流石みつかさんのスーパー秘書。

この短期間でこの仕事量。

でも最後のは必要なくないか?と、ごうだは思った。




「僕も会社行かなくちゃ〜…あぁ憂鬱〜…」

「ナオくんは転職考えた方がいいと思います」

「…これが終わったら即刻転職する!」




ナオの職場は、大手の広告代理店。

その中でも、Webメディア部門に所属している。

ただ問題なのは会社ではなく——ナオの顔面だった。

惚れる人間が後を絶たず、職場はカオスと化している。

これが終わったら私の会社に来なさい。というみつかからの慰めのもと泣く泣く鞄を持って仕事に行く準備を始めた。





「そういうごうだは準備しなくていいのか?」

「俺は今日お休みです!アサヒくんは?」

「俺も特に用事ないから、兄貴と弟たちが帰ってくるまでこの家の家事だな」





「行ってきまーす!」とナオの挨拶と同時に、仕事組は出て行った。

さて、俺もちょっと早いけど買い物に出かける準備でもしようかな、と鞄を手に取る。



——重い。



やけに重い。



「ああぁぁぁーー!」

「そんな大声出してどうした?」

「レイさん、俺の鞄と間違えて持っていってる!」

「はぁ?」




中身を確認する。

弁当、ノートパソコン、筆記用具……それに、新品のノートパソコンまで入っている。



……そりゃ重いわけだ。



「俺のと鞄似てるから間違えちゃったんすかね…」

「いや、その前に重さで気づけよ」





確かに、俺の鞄には財布と筆記用具、手帳のみ。

明らかにレイさんの方が重い。

むしろ、軽くてラッキーくらいに思っていたのかもしれない。





「今ならまだ間に合うし、俺レイさんに届けに行ってきます!」

「いいのか?鞄持ったってことは、どこか出かける予定だったんじゃないのか?」

「全然大丈夫ですよ!買い物に行こうと思っただけですし!レイさんに鞄返しながら、ついでにしてきちゃいます!」

「…悪いな。帰ったら説教しておく」

「あはは!気にしないで下さい!じゃあ、俺も外出ますね!」





俺の財布もレイさんが持って行ってるし。

そう思いながら靴を履き、鍵を手に取る。

そのまま外に出て、バイクに跨った。


レイさんたちにバイクを貸さなくてよかった。

貸してたら、さすがに追いつけなかっただろう。



「さて、行こかな」



ヘルメットを被り、エンジンをかけた。























「うわぁーー!今何時何分何秒前!?」

「うるっせぇ!喋った分体力なくなんぞ!」



凄まじい勢いで走る二人。

周りの人たちが不思議そうに目で追う。


そのとき、レイの視界にコンビニが入った。




「あぁ!しまった!ユズキ止まって!」

「ぐっ!この短足!首絞めんじゃねえ!」

「誰が短足だゴラァ!」



襟ぐりをぐいっと引っ張られ、ユズキが軽く咽せる。

そのまま、振り返り睨みつけた。

レイも負けじと睨み返すが、すぐに用件を思い出す。




「って喧嘩してる場合じゃなくて、ちょっとコンビニ寄って!」

「いや何で」

「私、反省文2枚用意しなくちゃなんだよ!一枚は原本で、もう一枚はコピーしたやつ!」

「いや昨日のうちにやっとけよ」




言っていることは正しい。



けど、あの教授のことだ。

きっと仁王立で校門に立って、私たちを持っているに違いない。


この先にコピーできる場所はないし、大学に着いたら即提出を催促されるに決まっている。



「…1分やる。とっとと行ってこい」

「1分はさすがに無理!」



あと30分で学校に着かなきゃいけないが、コピーぐらいなら間に合うだろう。

ユズキはコンビニの入り口で足を止めた。



(ったく、めんどくせぇ……)



携帯を取り出し、今ハマっているゲームで時間を潰すユズキであった。








入口から人が出たり入ったりする。

だが、肝心のレイはなかなか出てこない。


「ちっ……おせぇ」


イライラしながら待つ。

そろそろ置いていこうか、と思い始めたそのとき——



一台の車が目に入った。

車から降りてきた二人の男は、足を揃えてコンビニへ向かう。


車は黒の軽自動車。

別に何でもない、どこにでもありそうな車。


——なのに、引っかかる。


ユズキは、その車をじっと見た。


(…あのナンバー、偽装か?)


よく見ると、文字の塗装が剥げている。

それに番号もおかしい。軽自動車なら5ナンバーが付くはずだ。

どこかの廃車からナンバープレートを剥ぎ取ってきたのだろう。




そこで、ふと朝のニュースが頭をよぎる。


『——ナンバープレートは偽造されており、特定には難しく、現在警察が行方を追っています——』



(…一応、乙さんに連絡しておくか…)



ゲームアプリの画面を閉じ、連絡先を開く。

そこにタイミングよくレイが戻ってきた。



「おい、レイ今——」

「ユズキ大変!鞄が違う!」

「…はぁ?」



何言ってんだこいつ、という顔を向ける。

だが、開いた鞄の中身を見て——理解した。




「…これごうだの鞄じゃね?」

「途中から何か軽いなとは思ってたけど…!」

「その時点で言えよ」

「いや、軽くてラッキーだなとしか思わなくて…。やばい、どうしよう!」

「とりあえずごうだと教授に連絡入れとけ」





レイの慌てた様子を横目に、淡々と話す。

レイが携帯を探している間に、自分も乙さんに連絡しようと再び画面に目を落とした——



 その瞬間だった




  ドンッ




「いってぇな!」

「ごめんなさい!」



レイが誰かとぶつかった。

相手はさっきの黒い軽自動車から降りてきた二人組の片方だ。


黒のトップスに帽子。

もう一人も、似たような格好をしている。



「詫びだけで済むと思ってんのか!」

「あ、じゃあさっき買ったガリガリ君食べます?いっぱい買ったんで、お一つどうぞ!」

「いるかぁ!」

(何で今から学校行くやつがアイス買ってんだよ)



ガリガリ君を片手に差し出すレイ。

当然、余計に怒らせただけだった。



(しかもあいつ、絶対コピー機に行く前にガリガリ君買っただろ……。だから、遅かったのか)



「お、おい。もういいから行くぞ」



もう一人が、催促するように声をかける。

「チッ」と舌打ちして、男はその場を離れた。


ひとまず、収まったらしい。


ほっと息をついた、そのとき。

ふと足元に目がいく。


封筒が落ちていた。


……さっきの男の人のかな?


レイはそれを拾い、そのまま背中を追った。




「あの、すみません!封筒落としましたよ!」

「あぁ?!落としてねぇよ!」

「え、でもさっきぶつかった時に」

「落としてねぇって言ってんだろ!しつけぇんだよ!」

「お、おい。あんまり大声出すなって」




今にも車に乗り込もうとする二人。

それでもレイは引かず、近いていく。


——これ以上はやばいな。


一触即発の空気の中——レイに声をかけようと、その後を追う。




「おい、レイ。もうその辺で」

















「たすけて。」
















小さく、そう、聞こえた。


いや、実際には聞こえなかったのかもしれない。

たとえ声が聞こえていたとしても、別の言葉だったのかもしれない。


確証がないのに動けばこちらが不利。

このまま、相手に引いてもらった方がいい。


私たちも、このまま学校に向かえばいい。

余計なトラブルに巻き込まれずに済む。



そう、わたしが、あいつが。




——かすかに映る小さな手に気づかなければ。












「待てぇっ!!!!」




声と同時に車は急発進した。


あいつが、気づかないわけがない。

レイは反射的に叫び、そのまま走り出した。


走り出したレイの背中を見て思う。


いくらあいつでも、車に追いつくことはできないだろう。

かと言って、レイに待て。と言ったところで待つ訳がない。

そもそもわたしの足ではあいつに追いつけない。



「(さて、どうすっか)」



携帯で助けを呼ぶか?

呼ぶとしたら誰を呼ぶ?

やっぱここは、乙さんか?

いや、すぐにきて来れる保証はない。


今すぐ連絡して動けそうなやつは——




「あっ!ユズキさん!さっきレイさんがすごい勢いで走ってたの見たんすけど、何かあったんですか?!」





だよな。

ユズキは細く微笑んだ。



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