0.5章『——』
冷たい海風がそよぐ。
廃墟と化した倉庫に男と女がいた。
「やぁ、やっと会えたね!愛しの姫君!…元気にしてたかい?」
「…。」
「あらら?もしかして風邪気味?最近冷え込むからね。暖かくしないと。服でもプレゼントしようか?なぁにお金はたくさんある」
「…相変わらずよく喋る口だな」
「だってこれが喋らずにいられるかい?!ずっとずっとずっとずぅううううと待ち侘びていた再開だ!口も胸も躍るとはまさにこのこと!」
男は嬉しそうだが、女は冷たい目、声色で男に返答した。
「御託はいい、さっさと始めよう」
「えぇぇぇ!?ちょっと待って、ストップストップ!せっかくの再開なんだから!もうちょっと、こう!さぁ!ゆっくり話し合おうよ〜…カルピスでも飲みながら。あ、カルピス嫌い?」
「この状況で良くそのふざけた言葉が出てくるな」
男の言い返しに、女は眉を顰めた。
最初から手に握られている拳銃を前にしても、男はまるで動じない。
その態度が、なおさら嫌悪を煽る。
それに——この女が銃口を向ける理由は、もちろんある。
なぜなら、この男は。
「そんな冷たいこといわないでよ、もう!そんな態度とってたら、〝ここにいる〟弟君にも怒られちゃうよ!」
「…人の弟を殺した挙句バラバラにしておいて、よくもこの私にそんな態度をとれるな」
殺したのだ。
双子の、愛しい弟を
それなのに男は、笑っている。
その首を指さしながら、あの言葉を。
…それを一瞥し、女は銃口を持ち上げた。
——そのときだった。
ドォオオオオオオン
遠くで爆発音が聞こえた。
空気がわずかに震えた。
「うわわっ!なに、爆発?!」
「おしゃべりはここまでだ。始めるぞ」
その音に、女の指先がわずかに揺れる。
(もしかしたら船を爆破されたかな?ふふふ、まぁ別に、あの船全部フェイクだから爆発されても何も困らないし)
慌てた声色をしていても、男に焦りは微塵もない。
「…本当にもう!せっかちなんだから!まぁいいよ、お話は舞台が終わった後でもゆっくりできるからね」
男は楽しげに目を細めた。
(この子がここまでくるのに、どんな物語を歩んできたのだろか。おそらく、たくさんの愛を得て、それでも傷つけて——そのたびに、止められてきたのだろうね。)
あぁ——どんな姿を見せてくれるのか。
楽しみだ。
君は、笑えるのかな。
——片割れのいない世界で。
「さぁ、見せておくれ。君という主人公の、美しき舞台を!」
——女の指が、引き金を引く。




