9話 なんか、めっちゃ光ったんだけど!
「あっ、そろそろ私の番だ! 行ってくるねー!」
軽いノリで椅子から飛び降りると、フリージアは教壇の方へと小走りで駆けていった。
「大切な人を守る為の力、か……。それって、きっとお姉ちゃんのことだよね……」
フリージアは五つ年の離れた自慢の姉を思い浮かべて自嘲気味に笑った。容姿端麗、お淑やかで性格も成績も良い姉と優等生で優しいジェイドはあまりにもお似合いだ。
「お姉ちゃんとわたしなんかじゃ、勝ち目なんてありっこないよね……」
ネガティブな心の声とは裏腹に、簡単に諦められるほど長年の片想いを拗らせてはいない。
(――ジェイドのこと、一番大好きなのはわたしだもん。……だから、わたしだってジェイドの横に並び立てるようになりたい! ほんのちょっとでも自分のことを好きになれたら、胸を張って、ジェイドに大好きだって伝えたい!)
フリージアが魔力を込めると、淡い光が溢れ出して教室を包み込んだ。
それは、ジェイドの時のような強烈な眩しい光ではなく、あたたかくて柔らかな光だった。
「光の花びら……?」
黄色の光が小さな花に姿を変えて、ひらひらと宙を舞った。
「これは……フリージアは光属性の、変異型のようだね」
エクレール先生は驚いたようにそう言うと、手のひらでそっと光の花をすくいとった。
「変異型の能力は個人差が激しすぎて、僕もあまり分からないんだけど……この優しい感じは回復魔法かもしれないね」
「回復、魔法」
「変異型は特に本人の心が深く関わってると言われているんだ。この力は、傷ついて欲しくないっていう、フリージアの優しい心そのものなんじゃないかな」
「……これが私の魔法。えへへっ、これからよろしくね」
フリージアは嬉しそうに光の花を指先でつついた。
「フリージア、凄いよ! キラキラしててめっちゃ綺麗だし、変異型って珍しいんでしょ! 回復魔法なんて、絶対にレアだよ! 最強だよ!」
光の花の美しさと回復魔法という特異な魔法を目にしたシオンが、興奮気味にフリージアへ抱きついた。
「……フリージアらしくていいんじゃないか」
あっさりした感想を告げるジェイドに、『もっと褒めてくれてもいいんだよ?』と茶化すように詰め寄ると、フリージアは嬉しそうに微笑んだ。
「ねぇ、シオン。わたし決めたよ! 回復魔法でどんな傷でも治せるようにたっくさん練習する! それでね、目の前で傷つく人は絶対に救えるような魔法使いになりたい!」
「うん! フリージアらしくってめっちゃいいと思う!」
「シオンもわたしのことたっくさん頼ってね! あっ、でも怪我はなるべくしないでね!」
慌ててフリージアが訂正すると、二人はおかしくなって、顔を見合せて笑い合った。
「次は私の番、だね。あー、めっちゃ緊張するんだけどー!」
シオンは不安と期待を胸に叫ぶと、ほんの少し重い足取りで教壇へと歩みを進めた。
「ジェイドもフリージアも守る為の力なんて、めっちゃ二人らしいなぁ。……神社で願い事するみたいに魔力を込めたら、私もなんかいい感じのやつ出ないかな? なーんて」
テストの結果を祈るのと同じで、もう魔力は決まっているんだから無理か、なんて呑気なことを考えながら、これが私だとでも言うようにシオンは教壇に上がるなりすぐにスノードームに手を伸ばした。
「まっ、なるようにしかならないでしょ!」
情緒の欠片もなかったが、ファンタジーで自分とは無縁だった魔法を使えるという事実に、シオンの心は弾んでいた。
シオンは舌でぺろりと唇を舐めると、力いっぱい魔力を込めた。
「うわっ! これは……っ!?」
エクレール先生が声を上げた。魔法特性診断キットが強烈な黄色の光を放ち、目も開けていられないくらいの光は、最早黄色というよりも真っ白な太陽の光のようだった。
室内だけではなく、どこまで広がっていたのかわからない程に巨大な、ジェイドの時とも違う鮮烈な光がゆっくりと収束していった。
「……凄いっ! 凄いよ、シオン! こんな魔力量は見たことがない……っ!」




