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8話 魔法特性診断キット

 



 スノードームのようなものを取り出して教壇へ置くと、エクレール先生は不敵に笑った。


「まずは、君達がどんな魔法を使えるのか調べてみようか」


 そう言って、エクレール先生がスノードームのようなものに手をかざすと、(まばゆ)いくらいの黄色い光が空中へと(はな)たれた。空中で弾けた光の粒がキラキラと輝いて教室に降り注ぐ。

 初めて間近で見る魔法の美しさに、シオンは思わず息を呑んだ。


「この『魔法特性診断キット』に魔力を込めた時の光の色から、魔法の属性がわかるんだ。僕の場合は黄色だから光属性、というようにね」


 コロナウイルス抗原検査キットのような元の世界を感じさせる魔法の世界らしくないネーミングに、シオンは肩の力が抜けた。


「魔力には『属性』と『特性』と呼ばれるものがあるんだ。属性は、火、水、風、光、闇の五つの属性。特性には、操作型、固定型、召喚型、変異型の四つの型がある。この属性と特性の組み合わせを『魔法特性』と呼ぶんだけど……ここまでで質問がある人はいるかな?」


 つらつらと説明されるファンタジー要素に心は弾んでいたが、初めて聞く『属性』と『特性』にシオンは既に混乱していた。


「……めっちゃ頭がパンクしそうなんですけど、その組み合わせって覚えなきゃ駄目ですか?」


 恐る恐る質問したシオンを嘲笑うように、ジンガ・フラーウィスが自慢の髪を撫でつけながら振り返った。


「ふんっ! こんなレベルの話で(つまず)くなんて、君は相当可哀想な頭の持ち主のようだね」


「また……! ちょっと、いちいちそういうこと言うのやめてくれない!」


「『属性』と『特性』の組み合わせは初歩中の初歩。これによって使える魔法の幅が広がるわけで……逆をいえば、その人にしか使えない魔法を開発する事も可能なんだ。まぁ、君のお粗末なその頭では、自分だけの魔法をつくりだすなんて遠い夢だろうね」


 あくまで正論で畳み掛けてくるジンガに、何も言い返せない。腹立たしさを紛らわせようと、シオンは拳を握りしめた。


「ジンガ、内容は正しい。けど、言い方が良くないね。シオンは魔法にあまり触れられない環境で育ったと聞いている。誰もが君と同じスタートラインにいると思ってはいけないよ」


 エクレール先生に(たしな)められると、流石のジンガもまずいと思ったのか、口だけの謝罪をして前を向き直した。


「今すぐに全ての組み合わせを覚える必要はないよ。まずは、自分の組み合わせとその属性、特性の特徴を把握すること。これが大切になるね」


 そう言うと、エクレール先生はスノードームもとい、魔法特性診断キットを教壇の上に見やすいように置き直した。


「この魔法特性診断キットは、五年前に突然現れた天才によって開発されて、運用化されたばかりなんだ」


 このキットが出来るまでは、血液を使った原始的な方法だった為、魔法を使ってみないと自分が何の属性か分からない、ということが多かったようだ。


「この中に属性を除去した魔法鉱石を閉じ込めてあるんだけど、魔力を込めることで魔法鉱石の形が変化して特性がわかるようになっているんだ」


 エクレール先生が魔力を込めると、スノードームの中が黄色く光り、パチパチと電気のような火花が散った。


「僕の特性は固定型。光属性だけど、光を操る感じではなくって、固定型と組み合わさっているから電気のような魔法……雷魔法が得意なんだ」


 この辺の特性の説明が難しいんだけどね、とエクレール先生は両手を上げて困ったような仕草で言った。


「皆に実演してもらいながら説明する方が分かりやすいかもしれないね。とりあえず、属性は色で判断することが多いから、火属性なら赤、水属性は青、風属性は緑、光属性は黄色、闇属性は紫で可視化されるっていうことだけ覚えてくれれば大丈夫だよ」

 

 エクレール先生はそう言うと、魔法特性診断キットを使用させる為に、生徒達を席順で教壇へと促した。


 この世界の魔法は、属性が違うからといって全く他の属性の魔法を使えないという事はないのだという。けれど、運任せで決まってしまう事実にシオンは小さく身震いした。


「まずはジェイドからだね。頑張って!」


「頑張るって言っても、魔力を込めるだけなんだけど……。どの属性がいいとかも俺は別にないし」


 至って冷静な突っ込みをいれながら、ジェイドは教壇に続く列へと並ぶ。


「それじゃあ、ジェイド。心を落ち着けて。ゆっくりでいいよ、魔力を注ぐイメージで……」


 エクレール先生に言われるままに、ジェイドが手を(かざ)すと魔法特性診断キットが淡い緑色に光り出した。


「ジェイドは風属性か!」


 エクレール先生の声は遠く、ジェイドの耳をすり抜けていく。


 優等生と呼ばれ、常に冷静に振る舞っていてもジェイドもただの学生だ。いざ、自分の魔法に向き合えば、大切な人……フリージアを守る為の強い力が欲しいと人並みな欲望に心を乱されてしまう。


「何やってるんだ、俺らしくない。今は邪念を捨てて、落ち着いて魔力を込めることだけに集中しろ……」


 幼い頃、二人で街に出掛けた時に、運悪く暴れていた指名手配犯に遭遇した時のフリージアの泣き顔がジェイドの頭をよぎる。

 自分の無力さを思い知った日のことを思い出して、ジェイドはありったけの魔力を注ぎ込んだ。


「……俺はもう誰も泣かせないように、大切な人を守る為の力が欲しいんだ!」


 凄まじい魔力量に反応して、力強い緑色の光が辺り一面を包み込んだ。

 スノードーム型のガラスの内側には、小さな竜巻が渦巻いていた。


「ジェイド、君は風属性の操作型のようだね。強い攻撃魔法を使うことも、人を傷つけずに制圧することも出来る万能な力だ。君が望んだ、人を守る為の力だよ」


 エクレール先生の言葉に、不安げだったジェイドの表情が明るくなる。


「さっすがジェイド! あんなに光ったの、初めてだよね? やっぱり、ジェイドは格好良いなぁ」


 フリージアからの賞賛を受けて、ジェイドは照れくさそうにそっぽを向いた。




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