67話 俺が一番嫌いなタイプだ
ジンガの手をぎゅっと握って、シオンが不安そうに問いかける。
「ねぇ。世界を救うなんて、本当に私に出来ると思う?」
「さぁね」
「さぁね、って……。励ましに来てくれたんじゃなかったわけ?」
「……ふんっ、思い上がらないで欲しいな。僕は君みたいな平凡な人間が世界をどうこう出来るなんて思っていないよ」
「何それっ」
「……だから! つまり、そもそも君にどうこう出来る問題かは分からないんだから、もしも救えなくても誰も君を責めたりしないだろう。……もっと、いつもみたいに能天気に気楽にやればいいってことさ」
「……あっそ。あーぁ、ジェイド達ならもっと優しく励ましてくれるのになぁ〜」
ジンガなりの不器用な励まし方に、シオンはわざとらしくため息を吐いてみせる。ちらりとジンガを見ると、失敗した……という表情で俯き、落ち込んでいる。
「……下手くそ」
「……へっ、下手くそ……?」
ぼそっ、とシオンがぶっきらぼうに苦言をこぼす。ジンガが顔を上げると、頬を膨らませたシオンが真っ直ぐ見つめて言った。
「励まし下手過ぎるって言ってんの! マジで分かりづらい!」
驚いて見上げるジンガに、シオンは呆れたように笑う。
「でも……、ジンガらしいっちゃらしいか。ちょっと、ムカつくけど……なんか元気出る。でもさー、もうちょっと上手く言えないの? 私が落ち込んだらどうすんの? まぁ、そういう不器用なとこ、嫌いじゃないけどさ」
暗がりでシオンは気づかなかったが、その言葉にジンガの頬が赤く染まる。
そして、ほんの少しの沈黙が訪れると、ジンガが小さな声で恥ずかしそうに言った。
「…………本当は、君なら出来るんじゃないかとも思ってるよ。……僕の心を救ってくれた君だから」
想像もしていなかったジンガの素直な言葉に、シオンは真っ直ぐな瞳で見つめ返した。
「それに、君は絶対に一人にはならない。最後まで、僕が付き合うよ。……ジェイド達の代わりにはならないかもしれないけど」
「……ジンガ、なんか変なものでも食べた?」
「……このっ、僕が真剣に……っ」
「嘘嘘、ごめん! ちょっと、そんなこと言われるなんて予想外で……なんかこう、気恥しいっていうか心がそわそわして茶化した。ってか、代わりなんて思ってないし。……なんだろ、めっちゃ嬉しいかも」
気恥しさからくるくると横髪をいじりながら、シオンは少しだけ躊躇ってから、おずおずと上目遣いで問いかけた。
「本当に一人にしないでくれるの……?」
心細そうにそう言ったシオンには、いつもの力強さがない。本当は寂しがり屋の癖に、自分のわがままを押し通すことが苦手なのだろう。シオンの手は震えていた。
「……しないよ。僕に帰る家がないのは、君も知っているだろう」
「……ははっ、何その自虐ネタ。ふふっ、ふふふっ!」
冗談で言っているのか、本気で言っているのか分かりづらいジンガの返事に、堪えきれなかったシオンの笑い声が陽華商虎の夜空に響いた。
「笑い過ぎだ」
「あははっ、なーんかジンガにはちょっとかっこ悪いところばっかり見せてるかもしれないなぁ。私、本当はこんなに怒ったり怖がってるとこなんか、見せるキャラじゃないんだよ?」
「……知ってるよ」
楽しいだけの付き合いではなかったが、今はもう、そっぽを向いているジンガが優しい表情を浮かべていることをシオンは知っている。
「僕はジェイドみたく優しくないからね。……君を心配したり甘やかしたりしないから、安心して弱音を吐けばいいさ」
「……うん。ありがと」
すっかり冷めてしまったホットミルクをチビチビと飲みながら、シオンとジンガは眠くなるまで他愛のないことを話し続けた。
重ねた手の体温がどちらのものか分からなくなるくらいの時間は、二人の心の距離を近づけた。
◇ ◇ ◇
「おはよう、二人とも。もうお昼だけどね」
「ふぁぁふ……。ジンガとめっちゃ話し込んじゃったんだよね」
すっかり話し込んでしまって、寝る時間が遅くなってしまったせいで、二人が目を覚ましたのは昼になってからだった。
昨夜の事情を理解しているイオンは、夜更かしについて追求することは無かったが、代わりに有無を言わさない、にこやかな笑顔で二人に告げた。
「僕はもう昼食は済ませてあるから、二人で買い出しに行っておいで?」
イオンの笑顔の圧力に負けた二人は、こくこくと勢い良く頷いて、買い出しへと向かった。
「なんだろ……。怒ってるわけじゃないと思うんだけど、イオンの笑顔の圧……強くなかった?」
「まぁ、流石にこの時間まで寝過ごした訳だからね……」
真上を通り越してしまった太陽を見上げて、二人は目を細めた。
◇ ◇ ◇
そんな二人の様子を路地裏から伺う影が一つあった。
「ふぅん、あれがシオンね。普通のお嬢さんじゃないか」
煙草の煙をくゆらせて、男は壁に寄り掛る。
「……あーあ、やだねぇ。本当に現れるなんて……結局、俺もお嬢さん達も、お姫様の予言通りに動いちゃっているのかねぇ……」
気怠げな男、フジは白い息を吐いた。
「見るからに幸せに生きてきた善人顔。他人の為に動くお人好し……俺が一番嫌いなタイプだ」
眉をひそめて、シオンに鋭い視線を向ける。
フジの茶色の瞳が、一瞬だけ赤く瞬いた。
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