64話 一緒に旅する仲間なんだからさ!
「ついたー! ここが陽華商虎かぁ! 建物でっか! ていうか、めっちゃ密集してるし、ザ異国って感じで面白いねっ!」
「シオン……、声が大きい。こんなところで目立つことをするなんて馬鹿じゃないのかい?」
「もう、ジンガはうるさいなぁ! ちょっとくらい、いいじゃん! だって、学園ともエストラルともシャルムとも全っ然違うんだよ! めっちゃテンション上がるじゃん!」
「君は緊張感も維持出来ないのか……」
きょろきょろと縦に連なる建物を見上げるシオンに、ジンガはこれ見よがしに大きくため息をついた。
「まぁまぁ、今はいいんじゃないかな。観光っていう訳にはいかないけれど、少しくらいは楽しみがないとね」
「さっすが、イオン。分かってる〜」
言い合っている二人をイオンがにこやかに仲裁する。特効薬の開発者。意外と年上を敬う傾向があるのか、恩人でもあるイオンに強く言い返せないジンガが、仕方ないな、と相槌をうった。
「ジェイドも学園に戻っちまったし、見るからに相性が悪そうなジンガとシオンのお守りだなんて、お前も大変だな」
「ふふっ、そんなことないよ。意外と相性はいいんじゃないかな、と僕は思っているよ。ジンガもああ見えて気を使う子だからね」
「そうかぁ?」
「うん。その証拠にヴォーロや僕、年長者には適度な距離感で接してくるでしょう? シオンへの態度は……ジンガなりの甘えみたいなものなのかもしれないね」
「あー、なるほどな。……まぁ、困ったことがあったらすぐに呼べよ。飛空艇かっ飛ばして来るからさ」
ヴォーロはイオンの肩をぽん、と叩くと、後ろに見えている飛空艇を親指で指した。
「……ふふっ」
「なんだよ、何がおかしいんだ?」
「……いや、ヴォーロなら本当に飛空艇飛ばして駆けつけてくれそうだなって思って」
「当たり前だろ。ただでさえ、身内が迷惑かけてんだ。本当なら俺が後始末するべきことなんだ。俺に出来ることならなんでもする」
そう言ったヴォーロは、世界を敵に回す集団に所属しているかもしれないアムレートを思い浮かべて苦々しい顔をした。
「……君やネージュだけの為じゃないよ。同じ研究者として、アムレートは超えてはいけない一線を超えた。……けれど、僕と彼にあまり違いはないと思うんだ」
「お前は兄貴とは違うだろ。こうやって俺や姉貴を気にかけてくれる。だけど、あいつは俺たちのことなんかなんとも思っちゃいないだろ」
「そうだけど……それはほんの少し、僕が人の優しさを受け入れることが出来ていて、その優しさを僕も返せるようにと思っているだけだよ。優しいふりをしてるんだ、僕は人間でありたいからね」
「……研究者ってのは、そんな小難しいことばっか考えてんのか? 優しいふりだろうが、優しくされてる側からすりゃ良い奴ってことだけだろ」
「ふふっ、そうだね。本当はそんなシンプルなことなんだろうね。感情を切り離して考えてしまうからこそ、僕らは呆気ないくらい簡単に一線を飛び越えてしまうんだ」
もしもの自分をアムレートに重ね合わせてしまうからこそ、イオンはアムレートを止めるのは自分の役割だと直感していた。
「兄貴が迷惑かけて悪いな。足取りが分かったら俺にも教えてくれ、頼む」
「分かった。ここまで送ってくれて助かったよ。それじゃあ、また」
「おう。シオン、ジンガ、無茶はするんじゃねぇぞ。あと、あんまりイオンを困らすんじゃねぇぞ!」
ヴォーロが踵を返して、飛空艇に戻っていく。
「もう! 子供じゃないんだから、困らせたりなんかしないよ!」
「ははっ、十分子供だっつーの。……まぁ、気をつけろよ!」
ぶっきらぼうに片手をあげるヴォーロに、シオンが手を振り返した。
赤い提灯が連なる建物の間を抜けて、飛空艇が遠ざかっていく。
あっという間に飛空艇が見えなくなった空を三人は見上げ続けていた。ざわめく人々の声が聞こえる中で、シオン達の間に流れる静けさが、三人だけになってしまったことを自覚させる。
(フリージアも目が覚めて……ちょっと前はあれだけ賑やかだったのに……)
ふいに襲い来る心細さと寂しさを振り払うように、シオンは声を上げた。
「ねぇっ、水餃子! 私、水餃子が食べたいっ!」
「僕も実際に来たのは初めてだから……。本当に中華みたいな料理はあるのかな」
「これだけ中華感ある街並みなんだもん、絶対あるでしょ! クルクル回るテーブル回したいっ!」
「ふふっ、そうだね。それじゃあ、まずは飲食店を探そうか。ジンガもそれでいいかな?」
ウキウキとテーブルを回す仕草をしてはしゃぐシオン。それを見て微笑むイオンに、ジンガはこくりと頷いた。
「お昼ご飯を食べたら、暫く滞在出来る宿を見つけようか」
「長期滞在の旅人向けの宿屋なら、城下町側にあると思います。……多分、あっちかな。王家の象徴である虎の紋章を掲げる店が並んでる」
「そういえば、この国は王家があるんだったね。ジンガは陽華商虎に詳しいのかい?」
「詳しいといえる程じゃないです。貴族学校にいた時に授業で聞きかじったくらいで……ある程度、他国の情報を覚えているだけなので」
「流石だね。それでも助かるよ。僕もシオンも、この世界には不慣れだから。少しでも情報があるとないとでは全然違うからね」
褒められなれていないのか、イオンに面と向かって褒められると、ジンガは気まずそうに顔を伏せた。
「なになに〜、もしかして照れてるの? 学園にいた時みたいなんでも知ってます! みたいに自慢すればいいじゃん」
「う、うるさいな! あれは……ジェイドに負けたくなかっただけで……本来、貴族としての教養は人に自慢するべきものではないんだよ」
「ふ〜ん。私のこと、散々何も知らないみたいに言ってきてた癖に」
「それはっ! 悪かったと言っているだろう……」
「……ふふ、あははっ。ごめんごめん、からかっただけだって! もう、いーよ! それにしても、あの頃のジンガに聞かせたら驚くだろうなぁ」
軽口を叩き合いながらも、二人の間に出会った頃のような嫌な空気は一切感じられない。
仲の良いやり取りを楽しそうに聞いていたイオンが、少しだけ拗ねたように言う。
「ねぇ、僕にも敬語を辞めて、もっとフランクに接してくれないかな? なんだか、僕だけジンガと仲良くなれていないみたいで寂しいな」
「いや、それは……」
「いいじゃん、いいじゃん。これから一緒に旅する仲間なんだからさ。ほら、イオンって呼び捨てにしてみなよ!」
「君は馴れ馴れしすぎるんだ……。まぁ、一緒に旅をするのにずっと敬語なのはおかしな話だろうし、咄嗟の連携が必要な時に呼びづらいのも良くないからね。……イオン、と呼ばせてもらうよ」
「言い訳なっが!」
「ふふっ、改めて、仲良くしようね。ジンガ、シオン」
少しだけ距離の縮まった三人は、美味しい中華料理を求めて、城下町へと足を踏み入れた。




