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6話 初めての友達と嫌味なアイツ

 



「シオン、心の準備はいいかい?」


 始業のベルが鳴り、シオンはエクレール先生の言葉に頷いた。先生が教室の扉を開けて、中へ入るようにシオンを(うなが)した。


「さぁ、お待ちかねの転入生だ」


 教室の扉をくぐると、まるで大学にあるような長い机が、教卓を囲むように階段状に並べられていた。


「はじめまして! 星守紫苑(ほしもりしおん)です。魔法を習うのは初めてなので……色々教えて貰えると嬉しいです!」


 第一印象は大切だ。

 シオンが微塵(みじん)も緊張を感じさせない笑顔でハキハキと挨拶をすると、教室からまばらに拍手が聞こえてきた。


(――そんなに印象は悪くはないみたいでよかった)


「シオンは二年生からの転入ではあるけど、本人も言う通り魔法について学ぶのは初めてだそうだから、最初は分からない事があっても皆で教えてあげてくれ」


 エクレール先生に空いた席に座るようにと言われて後ろから二番目の机に移動すると、優しそうな雰囲気の淡い桃色のボブヘアーの少女が手招きをした。


「さっきの子!」


「さっきの……? あ、もしかして、中庭での見てたの?」


「あはは……まぁ、そんなとこ」


 しまった、と口を抑えてももう遅い。止めに入りもせずに野次馬していたなんて、あまり良いことだとは言えない。けれど、少女は特別気を悪くしていないようでシオンは安堵した。


「ねぇねぇ! こんな時期から転入なんて大変だね。分からない事があったらなんでも聞いてね! あっ、わたしは勉強苦手だから……勉強の事だったらこっちに座ってるジェイドに聞いてね!」


 少女の横に座っていたジェイドと呼ばれた若草色の髪の青年が軽く会釈(えしゃく)をした。


(さっき、絡まれてた方の人だ……頭良さそう、ってか、さっきの言い合いしてた感じ的にも良い人そうだよね)


「俺はジェイド・アルメリア。こっちの名乗り忘れて喋り続けているのが、フリージア・エキナセア。これからよろしくな、転入生」


「あれ!? わたし、名前言ってなかったっけ? えへへっ、ごめんね。わたしはフリージア。よろしくね!」


 少し天然なのか、気さくな雰囲気のフリージアに、仲良くやっていけそうだとシオンはほっと胸を撫で下ろした。


「よろしくね! ジェイド、フリージア。私の事はシオンって呼んで!」


「よろしくね、シオン! ねぇねぇ、ホシモリシオンって、珍しい名前だね。なんだか、オルテンシアの人みたい!」


「そうなの? 確かに、先生や二人の名前とは違うけど……」


 この世界で出会った人達の中に、日本人風の名前の人はいなかった。異世界では異国風の名前が一般的なのかと思っていたが、()()()()()()という日本のような国が存在しているようだ。


「オルテンシアの人は、ラストネームが先で、ファーストネームが後ろにくるんだよ! シオンもファーストネームがシオンなんでしょ?」


「俺達は学園都市出身だから、身近にいた人はだいたいファーストネームが先なんだ」


 シオンが国の違いに驚いていると、後ろの席に座っていたオレンジの髪の青年が鼻で笑った。


「ふんっ! そんな事も知らないなんて、一体どんな田舎から出てきたのか不思議でならないね。こんなお荷物がクラスメイトだなんて……せいぜい授業では足を引っ張らないで貰いたいね」


(うわぁ……ヤバ。さっきのジェイドに絡んでた人じゃん……)


 まるでお手本のような嫌味な台詞に、相手にする必要は無いとシオンは無視を決め込んだ。しかし、そんな事などお構い無しといった様子で髪をかきあげると、青年の家柄自慢が始まった。


「フラーウィス家は代々続いている魔法貴族で、父様も兄様も火属性のエリート魔法使いなんだ。父様のように立派な魔法使いにならなければいけない僕には、君のようなお荷物に関わってる時間なんて一秒もないからね。……君の存在自体が僕の勉強の妨げになりそうだよ」


「はぁ……いい加減、そういうのはやめろよ。フラーウィス」


「ふんっ! 君達のような田舎の平民に、この重責(じゅうせき)は分からないだろうね」


「……お前が頑張ってるのは分かってるからさ。そうやって、わざわざ敵を増やす必要なんかないだろ」


「――っ! そうやって、いつもいつも善人面して……少しばかり成績がいいからと、僕を馬鹿にしているのか。ジェイド・アルメリア!」


 シオンに嫌味を言っていた事は忘れてしまったのか、フラーウィスと呼ばれた青年はジェイドへと食ってかかる。


「……ジンガっていつも試験で二位でね。こう見えて、ジェイドはずっと首席だったから、ジンガに目の敵にされてるんだ」


 ひそひそとフリージアがシオンへ耳打ちすると、ジンガ・フラーウィスは鬼の形相(ぎょうそう)で睨んできた。


「いいか! 君のように遊び半分でこの学園に来ているような奴が、僕の邪魔だけはするなよ! どうせ、(ろく)な魔法も使えないんだろうからな!」


 ジェイドが(たしな)めるも聞く耳を持とうとせずに、シオンを指差して捨て台詞を吐くと、ジンガは教室を後にした。


「なに、あれ! あんなに清々しいくらいに嫌味な奴、初めてみたんだけど!」


 ああいう奴だから気にするな、とジェイドとフリージアは言うが、腹が立つのだから仕方がない。

 シオンはかつて見た魔法学園映画の小悪党な少年を思い浮かべて、心の中で悪態をついた。


 会ったこともない映画の主人公に思いを()せて、心を落ち着けようと深呼吸をしていると、心配そうなジェイドとフリージアに大丈夫かと声を掛けられた。


「二人ともありがとう、私は全っ然大丈夫だよ。ただ……ちょっと、アイツを見返してやりたいだけだから」


 ジンガへの苛立ちを学ぶ意欲へと変換して、シオンは力強い足取りで初めての授業へと向かった。


「いきなり移動教室って、最初の授業って何の授業なの?」


「えっと……」


 予定表を見て、フリージアの顔色が悪くなる。


「えっとぉ……最初の授業は、座学……かな。寝ちゃわないように頑張ろうねっ、シオン!」


 早くも座学という言葉に拒否反応を示すシオンとフリージアを交互に見ながら、ジェイドは優しく微笑んだ。


「心配しないで。俺が叩き起してあげるから、ね?」




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