55話 飴みたいに甘くてムカつく
「あっぶなーい♪ 咄嗟に避けたけど……光の玉に触れた剣、ちょっと溶けちゃってる〜♪ アンジュの魔法に似てるかも♪ ……でもぉ、アンジュの手は無事だったしぃ、人には無害なのかなぁ? ふふっ、優しいシオンちゃんらしいねぇ〜♪」
「アン、ジュ……」
アンジュが見つめるのは、今にも倒れそうなシオンの姿。
「なーんか、シオンちゃんのそういう優しくて、飴みたいに甘ぁいとこ……幸せな子にしか優しい魔法は使えないって言われてるみたいで……ムカつくなぁ♪」
「……いい加減ムカついてんのは、こっちのセリフだっての……ッ!」
シオンは両手を組んで指で銃の形を模すと、周りに漂う白い光の粒を、アンジュに向けて照準を合わせる。
慣れない実戦で魔力を使いすぎたのか、構えた腕が震えている。
「…………なーんて、ね♪ アンジュの武器も壊されちゃったしぃ〜、シオンちゃんもその魔法使ってバテバテみたいだしぃ〜、遊びはここまでかなぁ♪」
「……、逃げるな……っ! 卑怯者……っ!」
「逃げるんじゃなくてぇ、帰ってあげるんだよぉ♪ 早く帰らないと、また藍焔に怒られちゃう〜」
「……っ、待て……ッ!」
「焦らない焦らない〜、シオンちゃん達が審判の飴を潰そうとしてくるなら、またすぐに会えるから♪ あっ、追いかけてこようとしないでねぇ? ゲートの周りにアンジュの毒を撒いちゃったから危ないよ? またねぇ、ばいばーい♪」
指をひとふりすると、アンジュの周りに毒々しい色の霧がかかる。悠々とゲートをくぐるアンジュを追いかけることも出来ず、シオン達はゲートが消えるまでの間、眺めることしか出来なかった。
「兄貴……。……クソッ……!」
ろくな言葉を交わすことなく、あっさりと姿を消した兄の姿を思い浮かべて、ヴォーロが自分の膝へ拳を振り下ろした。
主を失った家は、しん、と静まり返っている。
そんな中で、満身創痍のシオンが口を開く。
「ねぇ……っ! イオン、薬の試作品は……っ!? 無事……っ!?」
「……これみよがしに置いてあるよ。どうやら、アムレートは試作品をフリージアに飲ませたいみたいだからね。ご丁寧に予備まで用意してあるようだよ」
「あんの……クソ兄貴が……ッ! 人間はアイツの玩具じゃねぇ。人をなんだと思って……っ! 姉貴は……、あんな奴でも……っ」
「ヴォーロ……ッ! 家族に裏切られて悔しいのはわかるっ、けど、マジでごめん……ッ! ヴォーロが頼りなの。今はアムレートさんのことより、フリージアの所に。早く行かなくちゃ……ッ!」
「……っ、悪い。すぐに飛空艇を出す。暫くここには戻れるかはわかんねぇ。イオンは急いでありったけの薬と研究資料を積んでくれ。ジェイド、お前も手当り次第運び込め。シオンとジンガは救護室のベットで休んでろ」
我に返ったヴォーロがテキパキと指示を飛ばして、飛空艇の点検に走っていった。
「ごめ……、私も手伝いたいんだけど……めっちゃ身体がダルくて腕が上がんないや……。でも、怪我したわけじゃないし、救護室くらいは自分で行けるから、ジェイドはイオンを手伝ってきて」
「分かった。救護室までついていってあげられなくてごめんな」
「いいの、いいの。今は向こうで何があっても対処出来るように、ありったけの荷物を医療塔に持って帰るのが最優先でしょ。ジンガの容態も、私が見張っておくから大丈夫!」
駆け足でイオンの元へ向かうジェイド。
その背中を見送りながら、シオンとジンガは救護室へと足を運んだ。
「……試作品の副作用があるかもしれないからな、思う存分、僕のことを見張っておくといい」
「なにそれ。……私が無茶して手伝いに行かないようにそう言ってる?」
「ふんっ、考えすぎだ。君たちはどうやら僕を善人にしたいようだけれど、そんな愁傷な心なんて僕にはないね」
「ふーん?」
「人の顔を見てにやにやしないでくれ、……シオン」
「まーだ私のこと名前で呼ぶの、照れてるの?」
「照れてなどいない……っ! ……まぁ、今のところ身体に異変は無い。医療塔にはネージュさんもいる。だから、そんならしくない顔はするな。……安心して構えておけばいいさ」
「……ん、ありがと。……ジンガってさ、……マジで不器用だよね。そういうとこ、私、結構嫌いじゃないよ」
寝たフリをして一言も返さなくなったジンガの耳は、真っ赤に染っていた。




