46話 修行だ!必殺技だ!手合わせだ!
「……って言っても、独学で戦闘術なんて修行出来るのかな。あー、こんなことなら何か格闘技とか習っておけばよかったよー……」
「実際に教わったりは難しいかもしれないけど、検索魔法で探してみたら?」
「検索魔法って?」
「ん? あ、そっか。シオンは二年生からの編入生だったから知らないのか」
ジェイドは失念していた、と手を叩くと、何も無い空中に向かって杖を振った。
「検索!」
ジェイドの言葉に反応して杖が光ると、空中にホログラムのような映像が出現した。
「なにこれ!? ってか、なんかめっちゃインターネットって感じじゃん」
「インターネット……はよく分からないけど、機械技術と魔法を融合させた、簡単に言えば何でも答えてくれる持ち運べる辞書みたいなものかな。媒体を持ち歩かなくても、この呪文で誰でも共有出来るように開発した人がいたんだってさ」
「マジで? そんなスマホみたいなのが、この世界にもあったんだ……。いや、そりゃあ、化学っぽい技術もチラホラ見かけてたわけだし、それと魔法が融合したら私の世界より凄いに決まってるよね」
「シオンの世界にもあったんだ? ……これをこうして、例えば知りたいことを……『検索! 棒術!』ってやるとこんな感じで出てくるんだ」
ジェイドの手元をのぞき込むと、動画や画像、文字などで棒術に関係する内容が現れたようで、手をかざした方向にスクロールされていく。
「シオン、出来そう?」
「めっちゃ出来そう! なんか操作方法も懐かしいっていうか、私の世界にあったやつと本当に変わんないから大丈夫! 『Hey Siri! 拳法の達人の動画を見せて!』っと……」
明らかにジェイドの唱えた呪文と違う掛け声でシオンが唱えると、目の前にホログラムで動画が再生される。
「やった! 出来たっ! 言葉より、イメージの共有……呪文に決まりがないって意味、わかった気がする! こんな感じでしっくりくる必殺技名を考えればいいんだよね」
「そうだな。俺の中にある言葉……覚悟を言葉にのせる、か」
「守るだけじゃない。この力で戦うってことは、相手を傷つけるかもしれない。それでも、やらなきゃ大切なものを守れないんだもんね……。ジェイドはさ、空賊と戦った時もそうだったけど、戦う覚悟はもうバッチリって感じだよね」
殴り合いの喧嘩なんてしたことはない。ましてや、暴力なんて、戦闘なんて無縁の世界で生きてきた。そんなシオンにとって、簡単に割り切れる話ではなかった。
空賊を殴った感触が、いつまでも拳に残っている気がして、シオンは掌を握りしめた。
「俺は、覚悟ならずっと前から決めてる。……子供の頃にフリージアを守れなかった時、怖がっているだけじゃ助からない。俺がやらなきゃ、都合のいいヒーローなんて滅多に現れてはくれないって気がついた」
「もう、戦うのは怖くないの?」
「怖くないわけじゃないけどさ、戦わない方がもっと怖い。それで大切な人が傷ついたら……って思うと尚更な。俺は……もっと、強くなりたい」
ジェイドの後悔がひしひしと伝わってくる。
「私も同じ。……アンジュの正体に気がつけなかった、自分が悔しくて堪んない。もっとこうしていればって、寝る前にいつも考えちゃうの。あの時、戦う力があれば逃がさずに済んだのかな、とかさ」
「……あぁ」
「うぅん、フリージアのことだけじゃないの。街で女の子を庇った時、私は抱きしめることしか出来なかった。ノワール……助けてくれた人があの場にいなかったら、あの子も私も死んでたかもしれない。……私にもっと力があれば、私一人で守れたかもしれない」
「……シオン」
「誰も傷つくとこなんて見たくない。……私だって、守れる力が欲しい」
ジェイドとシオンはお互いに同じ気持ちであることを確かめ合い、無言で拳と拳を付き合わせた。
「……強くなるよ、ジェイド」
「……あぁ。シオンには負けないよ」
それぞれの魔法の最大威力での発現、コントロール、自身の魔力の限界。ある時は互いにアドバイスを求め、ある時は黙々と己に向き合い、二人は修行と実験を重ねていった。
「……はぁ、……っは、……今のは危なかった。だけど、シオンの場合は強化魔法だけじゃなくて弱体魔法ももっと気にかけていくべきだな。弱体魔法をかけられた状態だったら避けきれなかった」
「……は、……っふ……。うん! 相手への弱体魔法の発動のタイミングと、……っ、あとは肉弾戦の格闘術を身体に叩き込むよ……っ!」
「……っ、教えてくれる人がいれば、いいんだけどな」
「しょーがないよ! ……っ、棒術だけじゃなくて、剣術や槍術、もう思いつく限りいろんな動画を探してみる! あっ、でもね。さっき気づいたんだけど、強化魔法使ってる時って動体視力とかめっちゃ上がってるみたいで頭もスッキリするし、なんか動きの分析とか? イケそうな気がするんだよね!」
「……っ、本当に? やっぱり、その魔法は凄いな。とりあえず、その方向性で良さそうだし、必殺技名は常に考えるんだぞ」
「ちぇっ、ジェイドはもう思いついたからって他人事なんだもんなぁ〜。うん、でもよし! こんな感じでお互いに鍛錬して、一日の終わりに手合わせでもしよっか。言っとくけど、私が女の子だからって手加減しないでよね!」
「しないよ。そんなの、頑張っているシオンに失礼だろ」
「あははっ! ジェイドのそういうとこ、私めっちゃ好きだよ」
やるべき事を見つけた二人はとてつもない集中力で鍛錬に励んだ。一日の終わりにこなす手合わせも、子供のじゃれ合いのようなものから、次第に真剣な、どちらかが怪我をしそうなレベルへと徐々に変化していった。
進捗の見えない解毒薬の開発にやきもきしながらも、雑念を祓うように修行にのめり込むシオンは、強化魔法で上げられた動体視力と持ち前のセンスで、めきめきと戦闘術を磨いていった。




