42話 姉貴からの預かり物だよ
「ヴォーロ! あっちは終わったよ!」
「見てたからな、分かってる。よく頑張ったな、お前ら」
「えっへん! パワーアップして戦えるシオンちゃんになったのですっ!」
「ははっ、調子に乗りすぎ、だっ。まだまだ危なっかしいギリギリの戦いだったじゃねーか」
シオンのおでこを小突いて、ヴォーロが笑う。
「ヴォーロはいつも空賊と戦ってるの?」
「まぁな。……そんな心配そうな顔するな。魔道具だって沢山積んでるし、一人で戦うのも慣れちまった。飛空挺にはオレの人生が詰まってんだ。人生かけて飛空挺に搭載し続けてきた魔法が、今度はオレを助けてくれる。だから、飛空挺は墜ちない。大丈夫だ」
当たり前のように人生をかけると言って笑うヴォーロの強さが、シオンは少しだけ羨ましかった。
「それにしても、シオンは凄かったよ。俺はまだ風魔法に頼りっきりだけど、シオンは自分で身体を動かして戦ってたんだもんな。この様子だと接近戦寄りの戦闘スタイルになりそうだな」
「うーん……でも接近戦、それも拳で戦うなんて全っ然可愛くないし、めっちゃ怖いし、せっかく魔法の世界なんだから私も魔法で戦いたいなぁ」
「まぁな。でもさ、騎士見習いだって最初の戦闘は思うように動けないっていうんだから、怖くても戦ったシオンはやっぱり凄いよ」
「強化魔法のおかげ! 意外と動けるなってなったから、弟が朝見てたヒーローの動き真似してみたら意外とイケちゃった! なーんて、あはっ、ジェイドが褒めすぎるから調子乗っちゃうよ?」
「調子に乗ってもいいんじゃない? 俺はまだまだ未熟だったからさ……風魔法だけじゃなくて、エクレール先生みたいに魔法を組み込んだ剣技を磨きたいな。……早く、強い騎士になって、大切な人を守れるようになりたい」
真剣な眼差しで遠くを見据えるジェイドに、シオンは優しく問いかけた。
「……大切な人って、フリージア?」
「……あぁ」
「……じゃあ、強くならなくちゃだね」
「……勿論、それだけじゃないけどな。シオンのことも、俺が守れるようになるよ」
「…………ジェイド。ふふっ、私も二人のこと守れるように強くなるね。そうすれば、守りあって私達は無敵だもん。そうだっ、一緒に特訓とかしようよ! 私もなんかいい武器ないかな〜」
「イオンさんは戦闘中もずっと冷静だったし、俺達に指示を出す余裕もあった。シオンの戦闘スタイルに合う武器、イオンさんに選んで貰ったらいいんじゃないか?」
「それ、めっちゃいいっ! よし、後で早速聞いてみよーっと!」
ジェイドとの会話でやる気になったシオンが、拳を高く突き上げる。
「お前らー、そろそろ着陸準備しろよ。兄貴の家に着いたぞ」
ヴォーロの呼び掛けで着陸に備えて体勢を整える。
窓の外を見ると、木々に囲まれた小さな家がぽつんと一軒だけ佇んでいた。飛空挺の到着に気がついたのか、家の中から黒いローブを着た長身の男が顔を覗かせた。
「よう、兄貴。頼まれてた物を持ってきたぜ」
「薬草の数、魔道具の数……問題無し、と。謝礼はいつもの所に置いてある」
積荷とともに地面に転がされた空賊には目もくれず、弟を心配する素振りもない。兄弟らしい心温まるやり取りもなく、テキパキと荷物を降ろして事務的に作業をこなす兄弟を眺めていると、アムレートが一瞬だけシオン達に視線を移して、すぐにヴォーロに向き直る。
「今回は配達に来るのが早かったようだか、この部外者達と何か関係が?」
無造作に伸ばされた白い長髪、血の気のない真っ白な肌に目の下の隈が目立つ。切れ長の瞳も、容姿の美しさから鋭さと冷たさが際立ち、シオンは蛇に睨まれた蛙のように縮こまった。
「姉貴からの預かり物だよ。詳しくは……そこのシオンに聞いてくれ。未知の解毒薬を造るのに、兄貴の知識が必要なんだってさ」
「ほう……。私の知識が、ね」
着るものに無頓着なのか、黒いローブの上に羽織っている白衣がずり落ちて地面についているのも気にせず、引きずりながらシオンに一歩近づいた。




