40話 格の違いってやつを見せてやるよ
ヴォーロの言い終わる前に、轟音とともに船体が横に揺れる。
「何……っ!?」
「大砲で撃たれただけだ……っ!」
「撃たれただけって……、大丈夫なの……っ?」
「大丈夫だ、防御魔法もオレ特製の最高級品だ。けど、あの野郎……オレが廃棄したジャンク品をご丁寧に再利用しやがって……。そんなガラクタを素人が繋ぎ合わせて太刀打ち出来るわけねぇだろ、本物を舐めてんじゃねぇぞ……っ!」
ヴォーロが乱暴にレバーを握ると、飛空挺の側面の壁が消えて、複数の大砲が現れた。
本体の飛空挺と、小型の飛空挺に乗り換えてこちらに来ようとしている空賊に向けて、魔法弾を放つ。追尾ミサイルのように飛んでいく魔法弾は、目標にぶつかると派手に爆発した。
「大砲を乗っけただけで満足してるんじゃ、オレの飛空挺を沈めることなんか出来ねぇよ。格の違いってやつを見せてやるよ」
「さっすが、飛空挺の生みの親……。あれだけの衝撃でもこっちの飛空挺は無傷で、あっちはボロボロ……」
「空の上じゃ、こんなの日常茶飯事だからな。こんなのでいちいち飛空挺が壊れてたら、ろくに移動も出来ねぇよ」
「にしても……威力めっちゃヤバいじゃん、あの人達死んでないよね……?」
「問題ない、ぶつかった瞬間に人感センサーで気絶程度の威力になる保護魔法付きの優しい弾丸だ。オレだって人殺しにはなりたくねぇからな、姉貴が悲しむ顔は見たくない」
「めっちゃ親切設計じゃん……。ってか、そこもネージュさんの為なんだ……」
馬鹿と天才は紙一重とは、このことか。
平然と言ってのけるヴォーロを眺めるシオンの呆れたような渇いた笑いが操縦室に響いた。
「……が、奴らも馬鹿じゃねぇ。恐らくあの砲撃は囮で、この隙に別働隊が入り込んでくるはずだ。どうせ雑魚だろうが命をかけたやり取りだ、実践練習だと思ってお前らも乗り込んで来たやつはそれぞれ対処しろよ」
軽く言い放たれたヴォーロの言葉を合図にするように、操縦室の扉がガラの悪い男達によって蹴破られた。
「お前ら、散れ……っ! 敵は飛空挺の後方から入って来てる。穴は塞いでおくから、さっさと倒せよー」
いつの間にか敵の位置を確認していたようで、操縦パネルの横に監視カメラらしき画面が並んでいる。
画面をトントンと指で叩いてシオン達に指示を出すと、ヴォーロはスパナ型の杖を空賊達へと向けて不敵に笑った。
「こいつはまだ飛空挺に搭載していない武器なんだが……お前ら、新作の実験に付き合ってくれるよな?」
◇ ◇ ◇
「いやいやいや、覚悟出来てるとかちょっと見栄張っちゃったけど普通にめっちゃ怖いし、撃たれるのとか初めてだし、人間相手に戦うってどうすればいいの……っ!?」
ドタバタとヴォーロの指示に従って後方へと移動する最中に、シオンは頭を抱えながらジェイドに向かって叫んだ。
「騎士になりたいんだから、人を守る為に人を傷つける覚悟は出来てる……とは言っても、戦闘経験なんて俺もないから怖いよ。だけど……戦闘ならフラーウィスとの時みたいにやればいいんじゃないか?」
「いや、全っ然違うでしょ!? あれはジンガの暴走であって、とにかく止めなくちゃ! って感じだったけど、今はガチのマジで悪いやつが私達のこと殺そうとして向かってくるわけでしょ! 向けられる殺意が全然違うよ!」
後方から乱暴な足音が聞こえてくる。
シオン達はびくり、と肩を震わせた。唯一、落ち着いた様子のイオンが、ジェスチャーで三人に向かって扉の裏に隠れるように合図した。シオン達の間に緊張がはしる。
「僕が囮になって飛び出すから、ジェイドは風魔法で敵を分断して。その後は、それぞれ相手の意識を奪う事にだけ集中して」
小声で作戦を伝えると、イオンは三人に小さな小瓶を手渡した。
「敵を怯ませたらこの睡眠魔法薬を顔面にぶつけて。そうすれば、一瞬で意識を失うから。落ち着いてやれば君たちなら大丈夫、行くよ。戦えるね?」
お守りのように小瓶を握りしめて、シオン達はこくりと頷いた。
「こんにちは、良い子はお昼寝の時間だよ」
「飛空挺の乗員かっ!? お前ら、やれっ!!」
物陰からイオンが飛び出すと、十人はいるだろう空賊が刃物を向けて束になって襲いかかる。
空賊をギリギリまで引きつけてから、ひらりと躱すと、イオンは空賊に向けて黄色の粉をばらまいた。
黒い手袋をつけた右手を掲げて、パチンと指を鳴らす。
「今だよ、ジェイド……ッ!」
閃光が先頭にいた空賊を包み、目が見えなくなって身をかがめる空賊達に、イオンが小瓶をぶつける。すると、イオンの宣言通りに意識を失ってその場に倒れていく。
「撃ち漏らしは三人、か。やるぞ、シオン! フラーウィス!」
ジェイドの風魔法が空賊を分断して、シオンとジンガ、ジェイドの三人の前に運ぶ。
「「この……っ、よくも、ガキ共が……っ!」」
ジェイドとジンガの目の前に運ばれた空賊が、剣を構えて襲いかかる。
「……嫌ッ!」
自分よりも大きく粗雑な男の勢いに、シオンは悲鳴をあげながら頭を抱えると目を閉じてしゃがみこんだ。シオンの身体を光が包み込み、空賊の剣を弾き飛ばす。
「目を逸らしてる場合じゃないぞ、星守シオン……ッ!」
シオンが目を開けると、剣を弾かれたのも構わずシオンに掴みかかろうとした空賊が、ジンガの水魔法の水球に閉じ込められ、溺れながら水の中でもがいていた。
「……ジンガ……ッ!」
「この程度、僕の相手では無いからね。震えているだけならば、僕の後ろに隠れているといい」
「……ごめん。ありがと……」
「……ふんっ、足手まといになられても迷惑なだけだからね。……君も、背後をとろうとしているのが見えているよ」
背後から忍び寄ろうとしていた男に向けて、ジンガが水魔法を飛ばす。すると、それを先に放たれていたジェイドの風魔法が弾き返してしまった。
「しまった……っ!」
「……くっ、どこを見ているんだい。僕の邪魔をするなよ、ジェイド・アルメリア!」
「悪い……っ! けど、後からぶつけてきたのは、フラーウィスの方で……。こいつは俺がやるから、フラーウィスはあいつをやってくれ!」
「……いつから僕に指図出来るようになったんだい? この程度、僕一人で三人相手に出来る……ッ!」
狙うタイミングが完璧なせいで、お互いの魔法を相殺してしまう。ジェイドの風魔法を打ち消してしまい、フリーになった空賊が真っ直ぐ二人の間に炎をまとった剣を振り下ろす。
「二人とも危ない……っ!」




