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4話 学園都市と予言の子

 



「私が世界を救う鍵だって言うんなら……ついでに世界くらい救ってあげる!」


「シオン様……!」


 シオンが虚勢を張っていることは、震える拳からも一目瞭然(いちもくりょうぜん)だ。

 それでも、弱い所を表に見せないようにするシオンの気持ちを()んで、セバスチャンは気づかないふりをした。


「私も精一杯、シオン様に仕えさせて頂きます」


「ありがとう、セバスチャン! ……って言っても、この世界のこと何にも知らないし、世界を救うってことはやっぱり魔法を使えるようになった方がいいんだよね?」


 まずは自分自身を守る術を手に入れなければ、と告げたシオンに丁度いいとばかりにセバスチャンが提案した。


「そうですね……。でしたら、学園に通ってみるのはいかがでしょうか?」


「学園?」


 冒険とは程遠い言葉に拍子抜けしていると、セバスチャンは言った。


「この国は()()()と呼ばれる転移装置で、繋がっている国同士を簡単に行き来することが出来るのです。その国の一つに、学園都市と呼ばれる国があるのです」


 世界規模のかくれんぼだ。これから、いくつもの国を旅しなければいけないのだから、最初に選ぶ国として()()()()は最適だ。


「どうせ片っ端から行かなきゃだもんね。最初にこの世界のこと知っておけるのはめっちゃいいかも! よし、そこにしよう!」


 やる気に満ちたシオンを見つめて微笑むと、セバスチャンが世界地図を広げて一つの国を指差した。


「ここが、学園都市ぺスカアプランドルでございます」


「学園都市……。私にとってはめっちゃ助かるけど、別の国に行くとか学園に入学とか、そんな簡単に出来るものなの?」


「この御屋敷は()()ですからね」


 シオンの質問にセバスチャンがパチンとウインクをしながら得意げに答える。

 予言のあった九百年前。この御屋敷の主人は国の創設にも関わっていた人物のようで、その時点から転移者を保護する目的で建てられたこの御屋敷は特別な立場にあるのだという。


(私がいつ現れるのかも分からないのに、この人達(セバスチャン達)は予言を信じて、いつか来る世界の危機にずっと備えていたんだ――)


 より一層、気が引き締まる想いで唇をかみ締めたシオンを気遣ってか、どうか私どもの為にと気負わないで下さいね、とセバスチャンが困ったように微笑んだ。


 例え予言の子だとしても、勝手に故郷から引き離された何も知らない少女に全ての責任を背負わせるのは、セバスチャンにとって本意ではない。

 自分が傍にいる時は少しでも穏やかな時間を過ごして欲しい、その気持ちでセバスチャンは紅茶をカップに注ぎ込んだ。


「シオン様、アフタヌーンティーはいかがでしょうか」


「ありがとう。……私、この世界で最初に出会えたのがセバスチャンで本当によかった!」


 予言の子としてではなく、目の前の自分を案じてくれるセバスチャンの心遣いが嬉しくて、シオンは目の前に並べられた焼きたてのスコーンを頬張った。


「それで学園都市の、なんだっけ」


「学園都市ぺスカアプランドルでございます」


「そう、それ! 学園都市っていうけど、国なんだよね。どういうところなの?」


「その名の通り、国がまるごと学園施設で、住宅街エリアに学生寮、商業施設、娯楽施設と全てが一つに(まと)まった魔法を学ぶ生徒が生活する活気溢れる国ですよ」


 シンボルの巨大な魔法樹が学園の中心にそびえ立ち、端が見えないほど大きな門まで続く並木道には、常に満開の桜が舞い踊っているのだという。


「桜が常に満開ってことは、それも魔法を使ってるの?」


「えぇ、魔法学園ですからね。気候も過ごしやすいよう常に一定を保っておりますし、本来ならば季節に左右される花も関係なく多彩な種類の花が咲き乱れている為、美しい色の蝶々が飛び交う姿が見られるそうですよ」


「そんなの……めっちゃ()えるじゃん」


「映える、とは……?」


「んーとね、めっちゃ綺麗じゃんってこと!」


「勉強になります。……そうですね。(いた)る所に魔法を使用して、まるで春という季節を詰め込んだような美しい景観から、花の都とも呼ばれております。きっと、シオン様も気に入るはずですよ」


「うん! なんか、めっちゃ楽しみになってきた!」


 キラキラと瞳を輝かせるシオンをにこやかに見つめて、セバスチャンは(ふところ)から取り出した杖を小さく振った。

 すると、シュガーポットの蓋が勝手に開いて、ふわふわと角砂糖が宙へと浮かんだ。


「……わっ! 凄い! 本物の魔法だ!」


「このように、私達が魔法を使用する際は杖や指輪など、『魔法鉱石』が付けられている媒体(ばいたい)を使用しなければなりません。私の懐中時計のように、特殊な形状の杖も存在しますが……魔法鉱石が必要という点では同じですね」


 セバスチャンが杖をしまい、魔法鉱石が埋め込まれた懐中時計を見せてくれた。


「魔法鉱石って、そのダイヤモンドみたいな石のこと?」


「はい。魔力量や魔力の特性は個人によって違いますが、魔法鉱石がなければ魔力を引き出すことが出来ません。大抵の杖には、多彩な魔法に対応出来る万能なダイヤモンドが埋め込まれております」


 詳しくは魔法学園で学んで下さい、と言うとセバスチャンは本題の『混沌へと導く者』について語り始めた。


「現在の世界の状況についてですが、各国で魔法を暴走させる事件が急増しているのです。……それも、シオン様が現れてからは活発になってきているので、我々は予言に記された『混沌へと導く者』がこの事件を裏で糸を引いていると疑っております」


 魔法の暴走の原因は分かっていないようで確信はないが、この世界規模で起こっている事件こそ、予言が指していると見て間違いないだろうと、セバスチャンが深刻な表情で言った。


「魔法の暴走事件……」


 ナイフを持った犯人が暴れるよりも、簡単に人の命を奪うであろう魔法の暴走をただの女子高生の自分が止められるのか。シオンは不安を忘れようと握った(てのひら)に再び力を入れた。


「シオン様、あくまでシオン様にやって頂きたいのは人探しです。貴女に危険が及ばないよう、私どもも全力でサポート致しますので、ご安心なさって下さい」


 見透かされたように告げられるセバスチャンの言葉に、シオンの指の震えが(おさ)まった。


「ありがとう、セバスチャン。大丈夫! こう見えても私、度胸はある方なんだから!」


 明るく返事をするシオンにほっと胸を撫で下ろすと、セバスチャンはテキパキとティーセットを片付けて、「すぐにゲートの使用が出来るように手配をしてきます」と言って部屋を出て行った。



 仕事の出来る男、セバスチャンにより、たったの三日でゲート使用の許可が降りると聞いて、シオンは慌ただしく学園生活の準備に勤しんだ。

 あっという間に三日が過ぎて、シオンは学園の制服に身を包むと、学園都市へと繋がるゲートへと足を運んだ。


「学園内へはお供が出来ず、申し訳ございません。何かあれば、すぐにご連絡下さい。どこへなりと駆けつけますので」


「そんなに心配しなくて大丈夫! なんとか上手くやるからさ! せっかくだから、魔法学園を楽しんでくるよ!」


 たった数日間の付き合いだが、すっかり使用人達とも打ち解けたシオンを、御屋敷の前まで使用人が総出で見送ってくれた。

 何も知らない世界で新しい家族が出来たような、離れ難い気持ちでいたシオンにセバスチャンは優しく語りかけた。


「シオン様。我々はいつでも、貴女様のお帰りをここでお待ちしておりますよ」


 ゲートについてからも、心配そうに何度も持ち物を確認しているセバスチャンに、元の世界の母親の姿を重ねてシオンは笑みをこぼした。セバスチャンを安心させるように笑顔で手を振ると、シオンは学園都市へと繋がるゲートをくぐり抜ける。


 振り返ると、セバスチャンは最後まで深々とお辞儀をしていて、シオンの姿が見えなくなるまで見送ってくれていた。




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