38話 最高にクールな飛空挺
「わぁぁあ! 近くで見るとすっごい大きな歯車っ……! 大仏よりでっかいんじゃない!?」
ネージュの弟、ヴォーロを訪ねて、シオン達は工房の巨大なシャッターの前に立っていた。シャッターの隅にある小さな扉の前に立つと、この世界では聞き慣れない機械的な音声が流れる。
『こんにちは。どのようなご用件でしょうか?』
「え、えっと、ヴォーロさん居ますか! いや、居るのは分かってるのか。ヴォーロさんに会わせて下さい!」
扉に向かってシオンが話しかけると、暫く沈黙したのにち、『ヴォーロはお会いしないようです。お引き取り下さい』と無機質な音声で断られた。
「ま、待って待って! ごめん、もっかいやらせて! お姉さんのネージュさんからの紹介でお願いがあって来ました! 中に入れて下さいっ!」
慌ててネージュの名前を出すと、ぶっきらぼうな青年の声で「入れ」と告げられて、扉がしゅわしゅわと消えて自動で開いた。
「おぉ……っ、さっすがシスコン……」
恐る恐る足を踏み入れると、つんと鼻をかすめる油の臭いにシオンは顔をしかめた。配線だらけで歯車や工具、ガラクタに見える機械で溢れ返っており、これがスチームパンクかぁ……とシオンは呑気に考えながら高い天井をきょろきょろと見上げた。
カツン、カツンと四人の足音が響く。
目の前にカーテンのような薄い白い膜が現れて、くぐり抜けると耳をつんざくような騒音が突然四人に襲いかかる。
「……ようこそ。五月蝿くて、臭くて、最高にクールな工房へ」
顔を上げると、そこにはどうしてさっきまで見えていなかったのかと疑うくらいの存在感を放つ、巨大な飛空挺が目の前に広がっていた。
ネージュとお揃いの黒いタートルネックに、青いラインの入ったパーカーみたいなフードのついた灰色のツナギ。真っ青なスニーカーを履いて、真っ青なヘッドホンを首から下げた青年は、けだるそうに後ろで纏めている白い髪をがしがしと乱している。
「あなたが、ヴォーロ?」
「歳上に向かって呼び捨てなんて、いい度胸だな」
「わっ、ごめんなさいっ! その、年上に見えなくって、つい……」
双子というだけあって、ネージュに似た端正な顔つきではあるが、大人の男性にしては少しだけ小柄な体格が実年齢よりも若く感じさせる。
「まぁいい。それで、見たところ普通の学生達が姉貴とどういう関係なんだ? 十中八九、面倒事なんだろうが……ったく、姉貴の紹介じゃなかったら関わるつもりはなかったぜ」
面倒くさそうな態度を隠そうともせずに、ヴォーロはスパナでパシパシと肩を叩く。
「私達の友達をネージュさんに診てもらってるんです! それで、友達の薬を作る為にお兄さんのアムレートさんに会いに行きたくって……」
「シオン。ネージュさんに書いてもらった手紙!」
「あっ、そうだった! これ、読んで下さいっ!」
ジェイドに言われて、すっかり忘れていた手紙を鞄から取り出すとヴォーロに手渡した。
「確かにちょうど明日、兄貴のところに物資を配達する予定だったが、各国を騒がしてる魔力暴走事件の特効薬、ね。面倒事は嫌いなんだ、悪いが他を当たってくれ」
「……っ、そんなっ! 一方的なお願いなのはわかってる。だけど、友達を救いたいの! 大切な……この世界で初めて出来た親友なんだもん! お願いします!」
「俺からも、お願いしますっ! 大切な、幼馴染なんです! 子供の頃から、ずっと一緒に過ごしてきた、大切な人なんです……っ! フリージアを失うなんて、考えられない……。俺が守らなきゃいけなかった人なんです……っ!」
必死に頭を下げるシオンとジェイドの言葉に引っかかるものを感じたのか、ヴォーロが小さな声で呟いた。
「子供の頃から、か。……おい、今度こそお前の命にかえてもそいつのこと守れんのか?」
「……守りますっ! 俺の命なんて、どうなってもいい!」
「分かった、兄貴のところまでつれていってやるよ。けどな、命を引き換えになんて考えてんじゃねぇぞ。お前が一番ひでぇ顔してるぞ。……まぁ、気持ちは分からないでもない。オレも姉貴になんかあったら、今のお前みたいになってんだろうからな」
自覚があるからこそ、肩を掴むヴォーロの鋭い視線に、ジェイドは気まずそうに顔を逸らした。
「飛空挺には乗せてやる。けどな、快適な旅路は期待すんなよ? なんせ、厳重に管理されてるゲートとは違って、空は正式な申請で国を行き来出来ないような奴らが沢山いるからな。覚悟しとけよ?」
そう言うと、ヴォーロはにやりと意地の悪い笑みを浮かべて、シオン達にスパナを向けた。




