37話 四人パーティ「いのちだいじに」
山奥に篭りきって人と連絡を取りたがらないというネージュの兄、アムレートに会う為に、イオンは受け取った検査結果をパラパラとめくり目を通し始めた。
本当に読めているのかと疑う速さでめくっていくが、真剣な横顔が研究者としてのイオンの凄さを物語っていた。
「兄と……私の双子の弟に手紙を書こう」
「ネージュさん、弟いるんですか?」
「あぁ、弟は飛空挺の技術者なんだ」
「えっ、マジ!? あの、開発から操縦まで全部やってるっていう人!? ネージュさん兄弟って、もしかしなくても超ハイスペック一族……?」
「あぁ、イオンから聞いたのか。弟のヴォーロは定期的に必要な荷物を兄の所へ運んでいるんだ。ゲートが使えない場所への移動には、箒で飛ぶという手も勿論あるが……最近は空賊も出ると聞いている。飛空挺の方が安全だろうから遠慮なく頼るといい」
「ありがとう! ……ございます。ネージュさんは一緒には行かないんだよね?」
「私は医療塔の責任者だからな。いつ、患者達の容態に変化が起こるか分からない状態でここを離れる訳にはいかないんだ。……手紙と検査結果、それにイオンも一緒なら大丈夫だろう」
読み終えたらしい検査結果に何やら書き込んでいるイオンへ向けるネージュの眼差しは、心の底からの信頼を含んでいる。
「ヴォーロも、他人に関わるのを避けようとする所はあるが……私の名前を出せば協力してくれるだろう。あれで、面倒見はいい方だからな」
「仲良いんですね」
「私の両親も研究者だったんだ。アムレートも研究者になったばかりで三人とも帰りが遅かったから、子供の頃はヴォーロと二人だけで過ごすことが多くてね。すっかり、私に依存してしまっているんだ」
「依存かぁ……でも分かるかも! 双子って特別な感じしますもんね」
「そうだな。もう一人の自分……として見てしまうところは私もある。が、姉としてはもう少し周りと関わってもらいたいのが本音だよ。友人は要らないと、私がいればそれでいいと言われるのは、嬉しさよりもヴォーロの将来が心配になってしまう」
「お姉ちゃんだからしっかりしなくちゃって思っちゃうよね。私の弟も友達は多い方じゃなかったけど……しょっちゅう遊びに来る親友が一人いたから、上手くやれてるんだなぁって結構安心したかも」
「ヴォーロにもそういう相手が一人でも出来るといいんだが……。よし、手紙は書いたぞ。ヴォーロの作業場へは……あそこに巨大な歯車が見えるだろう、あのシャッター内に居るはずだから訪ねるといい」
「うんっ、ありがとう。ネージュさん! それじゃあ、ジェイド、イオン行こっか!」
兄弟宛の手紙を受け取り振り返ると、イオンも支度が済んでいたようで頷いた。
「……待て。僕も行く」
「……ジンガ!? なんでここに……って、処置して貰ったばっかなんでしょ、安静にしてなきゃダメじゃん!」
「別に……問題はないね。最高峰の回復魔法をかけて貰ったおかげか、寧ろ普段よりも体調が良いくらいだね」
ジンガの言う通り、この国に来る前と比べて、顔色は明らかに良くなっている。
「うーん、廊下なら濡れても大丈夫かな……。ジンガ、試しに魔法を使ってみてくれるかい?」
「……こうですか、うわっ!」
イオンに促されるまま、ジンガが廊下で杖を振ると、腕で抱えられそうな大きさはある水の玉が現れ、弾けて床を濡らした。
「魔力のコントロールはまだ安定していないようだけど、魔力の出力は格段に上がっているね。これは審判の飴の良い効果が残ったと言うべきか……。ジンガは元々の魔力量が多いから、飴への適性は無かったかもしれないけど、効果に適応はしたのかもしれないね」
「飴の効果を打ち消したら、上がった魔力量は元に戻ってしまうんですか?」
「強制的に魔力を司る器官を開いているんだ、鍵は一度開いたら後はそのままだと思うよ。だから、過剰摂取した成分を取り除いてあげれば、君には魔力量の増加という副産物だけが残るだろうね」
「…………この魔力でなら、父様……父を見返せるかもしれない……っ」
全てを諦めきっていたジンガの瞳に生気が宿る。
「無理は禁物だが、普通に動く分には問題ないはずだ。抑えているだけでまだジンガの体内には大量の飴の成分が残っている。兄に直接見てもらえば進展も見込めるだろう」
「……ありがとう、ございます」
「私は医療魔法使いとしての義務を果たしただけだ。但し、さっきの水の玉も一瞬で弾けたところを見ると、魔法のコントロールは普段の何倍も難しい状態になっているはずだ。くれぐれも羽目を外すことはないように気をつけてくれ」
これ以上は医者でもない自分が止めたところで止まるはずもないと、ネージュの忠告に頷くジンガを横目にシオンは告げた。
「わかった、この四人でアムレートさんに会いに行こう。ジンガ、見返してやるなら命大事に、だからね」




