35話 二人目の転移者
「……そうか。それで君達は同じ世界からやって来たということなのか」
異世界転移をあっさり受け入れて話を進めようとするネージュに、イオンが驚いて問いかける。
「……別の世界から来たなんて話を、信じてくれるのかい?」
「イオン、君の言うことを私が信じないとでも思ったのか? 嘘ではないんだろう? それに、ここは魔法の世界なんだ。別の世界の一つや二つ、どこかにあっても不思議ではないさ」
そう言って笑うネージュと安堵の表情を浮かべるイオンに自分を重ねて、シオンはこの場にいないフリージアに想いを馳せた。
「ふむ。一刻も早くジンガの検査をしたいところだが……同郷同士で積もる話もあるだろう。検査をするだけなら私一人で十分だ。イオン、君はここへ残っていていいぞ」
「あっ、じゃあ俺もついていってもいいですか。フリージアの様子も見ておきたいし……」
「構わない。それでは、我々は失礼するよ」
テキパキと無駄なく動くネージュに連れられて、ジンガとジェイドが研究室を後にした。
「お互いに良い友人に恵まれたみたいだね」
気を利かせて二人きりにしてくれたおかげで、シオンは気兼ねなく転移について情報共有をしようと持ちかけた。
「なるほど……。君は眠っている間に謎の姫に連れられてこちらの世界へ転移した、そして姫の伝言を頼りに残りの予言の子……つまり、僕ともう一人を探している、と」
「うん。あっ、……はい。だから、イオンさんが知ってる事、なんでもいいから教えて欲しいの」
「ふふっ、そんなに畏まらなくてもいいよ。僕のことはイオンって呼んで、君は敬語が苦手みたいだからね。ただ……この世界については君より少し詳しいかもしれないけれど、そのお姫様については君以上の情報は出せないかもしれないな」
「あはは、ありがとう。めっちゃ大人って感じの人なら敬語も使えるんだけど、イオンの見た目が若いからついつい素が出ちゃって……そう言って貰えるとめっちゃ助かる! イオンも姫の姿は見てないってこと?」
「うん。僕の場合はね、この世界に来た時は植物状態だったんだ。突然ゲートに現れた僕をネージュと医療塔の人達が、この世界の魔法と医療で目覚めさせてくれたんだ」
「植物状態……って、元の世界で事故にあった、とか?」
「いや、僕らの世界ではまだ治療方法がない不治の病ってやつだよ。本当ならそのまま僕は死ぬ運命だった」
あっけらかんと言ってのけるイオンは、気を使わないでいいよと微笑んでみせた。
「……なんで、そんな状態だったのにイオンは転移者に選ばれたんだろう……?」
「予言の子の話から推測するに、僕がこの世界に求められているのは、この頭脳なんじゃないかな」
「頭脳?」
「本来、元の世界にいれば僕はとっくに死んでいる。それがこの世界に来たから命を救われて、この世界に存在するはずのなかった魔法特性診断キットを開発した。それ以外にもこの世界についてや魔法について、魔法がなかった世界の知識と視点から研究を進めているんだ」
「つまり、この世界にいるはずのない私が、発覚するはずのなかった暴走事件の原因をイオンのところに持ち込んだ……?」
「そう考えると辻褄が合う。僕がシオンより先にこの世界に来ていたのも、この時の為に魔法に関する知識を得る必要があったから。僕らがいなければ、この時点で審判の飴に対抗する薬を開発する動きもなかったはずだからね。こういうあるはずのなかった転移者の行動の積み重ねが、この世界を救うことに繋がっているんじゃないかな」
「……なんか、お姫様の掌の上で転がされてるみたい」
「否めないね。シオンにとっては理不尽でしかないけれど、僕に限っては幸運だったと思ってるよ。生まれた時から病気で死ぬことが決まっていたのに、魔法なんていう奇跡で救われてしまったからね」
「イオンはさ、元の世界に帰りたいと思わないの?」
「家族に、もう一度会いたいとは思ってるよ。だけど……植物状態だった僕が後遺症もなく過ごせている、それは意識のない僕の命を家族が必死で繋いでくれたからだと分かっているから、僕が帰らない方が今度こそ皆は自分達の人生を生きられるんじゃないかとも考えてる」
「そんなのおかしいよっ! どうしてもイオンに死んで欲しくなかったんだよ? だったら絶対に会いたいって思ってるに決まってるじゃん!」
「ふふっ、だからこそ……だよ。父と母は優しくて、病室から出られない僕の願いを何でも叶えようとしてくれた。おかげで僕は病室にいながら、博士号を取り、研究者として知識の中で生きていられた」
「……うん」
「優しかった兄は、いつも僕の病室に来て本を読んでくれた。それは大人になってからも変わらずで、色んな話をしてくれた。僕はその時間が大好きだったけれど……僕がいなければ兄さんはもっと自由に外で友達と遊べたはずなんだ。だから、皆には僕のことなんて忘れて、自分の人生を生きて欲しい」
「……わかるけど、分かりたくないよ」
「ふふっ、子供じみた僕の我儘さ。愛してくれていたことが分かっているから、僕は一人でも寂しくない。でもね、愛されていたから会いたいのも、悪いことじゃないんだよ。……シオン、誰も知らないこの世界で、一人でよく頑張ったね」
そう言うと、イオンは優しくシオンの頭を撫でた。




