30話 一緒に行こう
「…………ふんっ。僕には到底理解出来ないね。……そんなふうに心配してくれる友達なんて、僕にはいない。…………少しだけ、君が羨ましいよ。フリージア・エキナセア……」
「……ジンガ、あのさっ、」
「…………僕は、血を分けたはずの家族にすら、見捨てられてしまった。……もう、このまま終わってしまえるのなら、それもいいのかもしれないね」
いつも怒鳴ったり、嫌味を言ったり、憎たらしい面ばかり見えるジンガの、ありのままの寂しがりの子供みたいな顔が見えたような気がして、シオンは思わずジンガに手を伸ばしかけた。
「…………君達もせいぜいスッキリするだろう。自業自得の僕が、身を滅ぼしていくんだからね」
ジンガの心へ手を伸ばしかけたシオンを突き放すように、ジンガは自嘲気味に微笑んだ。その表情が救いではなく、責められることを望んでいるようで、シオンは何も言えずに口を閉じた。
「……確証はないけれど、……あの国なら解決の糸口を見つけられるかもしれない」
顎に手を当てて思考をめぐらせていたエクレール先生が独り言のように呟いた。
「エクレール先生っ! あの国って、どこ!?」
「……様々な分野や、魔法を研究している国があるんだ。その国にいるのは全ての人が何かの研究に特化した研究者で、それぞれ探究したい分野をとことん研究しているんだ。魔法特性診断キットの開発もあの国で行われたものだし、医療分野も最先端のはずだ」
「それじゃあ……」
「……フリージアを連れていけば、解毒方法がわかるかもしれない」
シオンとジェイドは藁にもすがる思いで、顔を見合わせると力強く頷いた。
「「行こう!」」
「待ってくれ、この状態のフリージアを運ぶなんて危険だ。担任として、すぐに許可するわけには……」
そうは言ったものの、助かる為の手がかりがない今、直接フリージアを連れて行って、検査してもらう他ない。
「……わかった。騎士団が使うゲートで、医療の塔に直接怪我人を送る専用ゲートがある。そこを使えるように手配するよ」
「……エクレール先生っ!」
「騎士団長の権限さ。緊急時は申請無しで手配が出来るんだ。今が緊急時だからね」
「ありがとうっ! めっちゃ良い人だったじゃん。本当に疑っちゃってごめんね!」
「いや、時には人を疑うことも大切だからね。特に、こんな事件に巻き込まれているんだ。簡単に人を信じてはいけないよ」
そう言って、手配してくる、と保健室の外へ出ていったエクレール先生からは、騎士団長としての経験値と大人の余裕を感じられた。そして、不安に押しつぶされそうなシオン達にとって、信用出来る大人がいる心強さは、代えがたいものだった。
「ねぇ、ジンガも一緒に行こう?」
「どうして、僕が……」
「だって、意識があって動けるっていっても身体、辛いんでしょ? それに、アンジュのあの言い方、今は大丈夫そうでもジンガだって何かあるかもしれない。……心配なんだよ」
「……父様に認められることを生きがいに、今まで生きてきたんだぞ。家族に馬鹿にされて、見放されて……僕にはもう、必死に生きながらえる目的がない」
「……っ、何、それ。ここまで、一生懸命生きてきたんでしょ!? ジェイドを蹴落としたいって思うくらい、私達に嫌味を言うくらい、必死だったんでしょ!? それなのに、ここで人生を諦めるなんて、見過ごせない。そんなのジンガらしくない!」
「……っ、だから、君に何がわかるんだ。……僕はもう、一生懸命、生きたくないんだよ……。もう、疲れたんだ……」
それは、ジンガの心の底からの本音だった。
シオンに助けを求めたいのに、疲れきった心が、その手を掴むことを拒んでいる。
「……一生懸命じゃなくていいよ。何も考えたくないなら、今は何も考えなくていい。だから、一緒に来て。そうしたら、フリージアを助けるついでに、私が勝手にあんたのことを助けるから。……だから、あんたもさ、私達を利用する、くらいに思えばいいんじゃない? それで心が元気になって……いつものジンガに戻ったら、あんたを見捨てた家族のことなんか見返してやるって鼻で笑ってやればいいんだからっ!」
向日葵みたいににっかりと笑うシオンの言葉に、ジンガの瞳が水を含んで煌めいた。
憑き物が落ちたような表情で、ぼんやりとシオンを見つめるジンガを、ジェイドが呆れたような顔で眺めていた。
「…………お前が欲しかった言葉は、いつもシオンが与えてくれるんじゃないか? フラーウィス」
無言で俯いたままのジンガに、説得が失敗したと思い込んだシオンは、ちらちらとジンガを気にしながらも、すぐにでも出発したいとエクレール先生を呼びに行こうとした。そんなシオンの服の裾を、ジンガがぐいっと引っ張った。
「…………僕も、連れていけ。魔力の高い僕だから、あれだけの飴を食べても意識があるんだろう。それなら、この身体にはまだ飴の成分が残っているはずだ。検査して貰えば、少しは役に立つだろ……」
「…………ジンガ」
「…………勘違いしないでくれないか。君が言ったんだ。せいぜい利用させて貰うよ。僕はこの身体を治して、僕を馬鹿にした奴らを見返さなければいけないからね」
そう言うと、ジンガは少しだけ気まずそうにシオンから顔を背けた。
「話はついたよ。ゲートの使用許可は下りたから、君達の準備さえ出来たらすぐにでも行けるよ」
走って戻ってきたのか、エクレール先生が息を切らして戻ってきた。
「本当は僕もついて行きたいんだけど、ジンクスがあるだろう? 試験に合わせて飴を食べた子が多いみたいでね、学園内でもこれからこういった症状の子がまたまだ増えそうで、僕が学園を留守にするわけにはいかないんだ」
フリージアの引き渡しだけ着いて行った後は、すぐに学園に戻るというエクレール先生に、シオンは元気に返事をした。
「大丈夫。さくっと私達が解決策見つけて戻ってくるから! エクレール先生は、安心して待っていてよ!」
「……本当に、予言の通りになってしまったね」
「うん。……でも、今は世界を救うとかそんな大それたことは考えてないよ。少しでも希望があるなら、何でもする! 大切な友達だから。フリージアを救う為に、私は私に出来ることをするの! まぁ、ついでに世界も救っちゃおうかな? なんてねっ!」
「あははっ、それは凄く頼もしいよ」
「それで、あの国って、なんていう名前の国なの?」
エクレール先生が、保健室の壁に貼ってある地図を指さして言った。
「『探求者の国 シャルム』。探求心に魅入られた研究者達の知識の結晶の国さ」
小さな地図には、雪や歯車、高くそびえ立つ塔の絵が描かれていた。
「よしっ、フリージアを助ける為に行こう! 探求者の国、シャルムに!」
ここまでお読み頂きありがとうございます!
1章 学園都市編が完結となります!
よければ、ブックマークや評価で応援して頂けたら、とってもうれしいです!
さて、次回(2章)のシオンさんは!
フリージアを救おう編、シオンの予言の子としての覚悟編、二人目の転移者現れる!の3本でお送り致します!
それでは、2章プロローグは本日中に投稿致します!
ジャン・ケン・ポンッ!うふふふふふふ。




