29話 諦めない、フリージアを助けたいのっ!
シオンの悲痛な叫びにアンジュは振り返ると、顎に指を当てて不思議そうに言った。
「んーとねぇ、大丈夫かは分かんないけどぉ、魔力が低いならその子、危ないかも? 暴走を引き起こしておいて、意識もあって動けるジンガくんがタフ過ぎるっていうか〜、やっぱり元々の魔力量が大きいと耐性もあるのかも?」
アンジュの言う通り、暴走したはずのジンガは睡眠不足から隈が酷く、身体に不調を抱えながらも、意識が戻らないフリージアと違って一人で動くことも出来る状態だ。
「ジンガくんの首の後ろにも、その子の首の後ろにも痣が出来てるでしょ。それ、飴に適性がなかった人に出てくるんだよね〜。それにしても……アンジュがあげた飴をたった一個食べただけでも駄目なんて、魔力がない子って可哀想だねぇ♪」
ジェイドが慌ててフリージアの側へと駆け寄って、フリージアの首の後ろを見ると、確かに天秤のような模様の痣が浮かび上がっていた。
「このままだと、その子……衰弱しちゃってそのままサヨナラ、かもねぇ」
「な……っ! ねぇ、どうすれば助けられるの!?」
「んーとねえ……、アンジュ、知らな〜い」
「……っ! ふざけないでっ!」
「ふざけてなんかいないよぉ……、アンジュも可哀想だなぁって思うもん」
意識のないフリージアに憐れんだ視線を送るアンジュに、藍焔が厳しく言い放つ。
「いつまで話し込むつもりですか。無闇に情報をばら撒くのはやめてください。さっさと行きますよ」
「はぁ〜い」
何か言いたげだったアンジュだったが、言葉を飲み込むと、藍焔に連れらるまま、スキップをしながら保健室を後にしようとする。
「ねぇっ、お願いっ! 待って!」
引き留めようとするシオンの声を遮るように、隙を伺っていたエクレール先生に鋭い視線を向けて、藍焔が言い放つ。
「隙なんて見せませんよ。くれぐれも追ってきたりしないで下さいね。貴方は腕がたつのでしょうけど、ここで我々が戦ったら……可愛い生徒達は生きていられませんよ」
「……それは脅しか」
「お好きに捉えて頂いて構いませんよ。……それに、私達を追ってくる時間なんてないんじゃないですか? そちらの痣の出た生徒達のこと、早くなんとかしないと手遅れになりますよ?」
じりじりと牽制しあっていた藍焔の忠告に、エクレール先生が悔しそうに唇を噛んだ。
明らかに実力のあるだろう相手から、この場にいる全員を守りながら戦うことは出来ない。その上、敵は二人でこちら側には動けないフリージアとジンガもいる。それが分かっているからこそ、迂闊には動けなかった。
「では、我々はこれで。失礼しますね」
シオン達が攻撃してこないことがわかると、藍焔は恭しくお辞儀をして、アンジュとともに黒い霧のようなゲートの中へと消えていった。
突然現れた黒い霧のゲートは、二人が通ると跡形もなく霧散した。
戦うことも、引き留めることも出来なかったシオン達は、自分の無力さをひしひしと感じながら、いつまでも二人が消えた方向を見つめていた。
◇ ◇ ◇
「エクレール先生! どうしよう! このままじゃフリージアが……っ!」
フリージアの目が覚めないのは、暴走に巻き込まれて気を失っていたせいではなかった。その事実にシオンの顔に焦りが滲む。
「…………俺が、俺の分の飴をフリージアにあげたりしたから……!」
ドンッ、とジェイドが壁を殴る。
たった一本の飴でこんなことになるなんて、と言ったアンジュの言葉を聞いたジェイドは、自分の分の飴をフリージアに渡したことが原因だと、自分を責めていた。
「そんなこと……っ、知らなかったんだから、ジェイドのせいじゃないでしょ! 自分を責めるのは後! 今は落ち込んでる場合じゃないよ。一刻も早くフリージアを助ける方法を考えなくちゃ……っ!」
「……シオン」
フリージアが意識を取り戻さない原因のきっかけを作ってしまったジェイドが、後悔するのは痛いほどわかる。けれど、シオンはその場にいる誰よりも前を向いていた。ここで動かなければ、フリージアを救うことが出来ないと分かっていた。
「事態は一刻を争う。だけど、原因もたった今、発覚したばかりだ……。手がかりのあの飴も、特殊なルートでしか手に入れられないんだよ。僕たち教師も学園内で怪しい動きがないか気をつけてはいたんだけど……恐らく、さっきの少女……アンジュが上手く躱していたんだろう」
エクレール先生が神妙な顔で呟いた。
そもそも、世界各国で魔法の暴走事件が起きているのだという。その事件が全て、あの審判の飴が原因なのだとしたら、アンジュの仕業だとしたら、途方もない規模を巻き込んだ悪事なのだ。
その大規模な事件の犯人が、原因が飴だと気づいたのが、まだこの場にいるシオン達だけだったとしたら、そんな短期間で解毒方法が見つけるなんて絶望的だ。
手立てが無い。
ジェイドの顔から血の気が引いていく。
フリージアを案じるジェイドは、動揺を表に出さないようにと必死に押し殺しているようだった。
「それでもっ! どれだけ、無謀なことだったとしても私達が見つけなきゃ! じゃなきゃ……、じゃなきゃ、フリージアはどうなるの……?」
強気で前向きな発言とは裏腹に、問いかけるようなシオンの語尾がか細くしぼんでいく。
「……絶対に、解決策を探さなくちゃ……!」
強く拳を握りしめるシオンを、ジンガが鼻で笑う。
「……ふんっ。魔法もろくに使えない、ただの学生に何が出来るっていうんだい? 事件の真相を知ったのは、ただの偶然だろう。解毒方法も、解決策も、存在してないものを探すなんて、無駄に決まってる……」
「無駄じゃない……っ! 友達の命が懸かってるんだよ!? 諦められない! どんなに無謀で、どんなに無駄に見えたって、諦めるなんて出来るはずがない!」




