24話 羨ましいなら代わってよ!
「……追放か、絶縁か。……僕は、見放されたんだろう」
弱った身体をゆっくり起こして、ジンガが今にも消えてしまいそうな弱々しい声で呟いた。
「…………ジンガ」
「……なんだ、君も僕を馬鹿するつもりかい? ……名門だと、君達とは格が違うと言っておきながら、一族でたった一人だけ火属性に選ばれず、家族に捨てられた。落ちこぼれだと、笑えばいい」
自虐気味にそう言って立ち上がろうとしたジンガは、暴走の後遺症なのか、足に力が入らずにベットから転がり落ちた。
「…………どうしてっ、僕がこんなに惨めな思いをしなければならないんだ……っ」
床に這いつくばったジンガが、悔しそうに顔を歪めるのを見て、シオンは目線を合わせるようにしゃがみ込むと右手を差し出した。
「ねぇ。ジンガは確かに嫌な奴だけどさ、ただの嫌な奴じゃないでしょ。ムカつくけど実力だってあるし、努力だってしてる。……私は、そんなジンガを笑ったりなんてしないよ」
ずっと、認めて貰いたかったんだろう。ジンガの瞳が大きく見開かれて、その瞳にシオンを映した。
「属性なんて、ただの個性でしょ。一族みんながずっと一緒だなんて、それってどんな確率だっていうの? ジンガじゃなくてもそのうち違う属性の子が生まれてたよ。ジンガは何にも悪くないじゃん」
「……僕が、僕が落ちこぼれだから、火属性に選ばれなかったんだ」
「水魔法だって、あんなに綺麗で素敵だもん。ジンガのあの凄い魔力をコントロール出来たら、きっと家族の誰よりも凄い魔法が沢山使えるようになるよ! だって、ジンガは努力出来る人なんだもん!」
同情なんかじゃない。
キラキラと輝く瞳が、太陽が咲いたような微笑みが、シオンの言葉が本心であることを証明していた。
ジンガの表情が今にも泣き出しそうな、呆けたような表情に変わる。ジンガは差し出された手に自身の手を伸ばし、そして、パシッと払い除けた。
「……君に、何がわかる! ……僕が暴走した時、君は見たこともないような魔法をいくつも使っていたじゃないか! ……君だって、心の中では僕を馬鹿にしているんだろう!?」
「だから、そんなこと思ってないって……!」
「そうやって、優しいふりか。星守シオン! ……ハッ! 特別な君は、慈悲の心まで持ち合わせているようで、本当に羨ましいよ!」
バチンッ!
ジンガが言い終わるか否か、シオンが思いっきりジンガの頬をひっぱたいた。
「……っ、何をするっ」
「あんたの気持ちなんて、分かるわけないでしょ! 私はジンガじゃないんだから! ……でも、あんたが言う『特別な魔法』で見ちゃったんだもん。あんたの努力も、あんたの家族も見ちゃったんだもん! それなのに、……馬鹿になんて出来るわけないでしょっ!」
「何を、意味のわからないことを……」
ジンガに言われた『特別』という言葉が、シオンの心を大きく揺らす。
世界を救う予言の子。
見知らぬ世界で背負い込むには重すぎる称号が、特別な魔法の正体だとするのなら、シオンにとって『特別』とは決して嬉しいだけのものではなかった。
不思議な世界に弾む気持ち以外は見ないふりをして、『特別』という言葉に感じる自分が主人公であるかのような高揚感に身を任せ、元の世界へもう二度と戻れないかもしれないという不安と恐怖をシオンはずっと一人で抱えていた。
その不安を打ち明ける家族も、この世界には存在しないのだから。
「ジンガだって、私の気持ちを知らない癖に……。羨ましいなら代わってよ! 私は、特別になんてなりたくなかった! 誰も知らない世界になんて来たくなかった! 世界を救う『特別』なんて、危険と隣合わせの『特別』なんて、怖いだけ! 私は、……私は、魔法も使えない平和な世界で守られていた、ただの普通の女子高生なんだよ……っ」
これは、お互いにただの八つ当たりだ。
けれど、この世界にたった一人で放り込まれたシオンにとって、ずっと蓋をしていた気持ちが溢れだしてしまうには十分だった。
ぺたん、と床にしゃがみこんだシオンが小さな声で呟いた。
「……帰りたい。元の世界に、帰りたいよ……」
シオンの瞳には薄らと涙が滲んでいた。




