23話 信じてもいいんだよね?
「……お疲れ様、シオン」
「うむ、良きにはからいたまえ!」
すっかり普段の調子に戻り、ジェイドと他愛ないやり取りをしていると、シオンの頭に鈍い痛みが走った。
「…………っ、痛っ!」
「シオン!? 大丈夫か……っ!?」
急な痛みにシオンは地面にしゃがんだ。次の瞬間、次々と見たことのない映像が走馬灯のようにシオンの頭に流れ込む。
「なに、これ……。ジンガの……記憶?」
火属性の魔法を何より重んじる名家の中で、唯一、水属性になってしまったジンガの絶望。一族の汚点と呼ばれて、エリートの兄達と比べられる日々。
せめて、試験で良い成績を残さなければと、失敗を許されない状況にまで追い詰められていたジンガの記憶が、映画予告のように、断片的にシオンの頭を駆け巡る。
「……っ、ぅ」
「シオン、どうしたんだ!?」
映像とともに流れ込んでくるジンガの感情に、心を掻き乱されたシオンは一筋の涙を流した。
「ジンガの、記憶が流れ込んでくるの……。私の感情じゃないのに、まるで私が体験したみたいな……、辛くて、苦しいのに、止められない……っ!」
「まさか、精神干渉してるのか……?」
ジェイドが驚いた様子でシオンの背中をさすると、シオンの瞳から、ぼろぼろと大粒の涙が溢れ落ちた。
記憶が止まらないと言うシオンに、ジェイドが困惑しながら訊ねた。
「シオン、何を見ているんだ……?」
「……っ、ジンガが夜が明けてもずっと魔法の練習してる……。何度も嘔吐して……ご飯も食べられなくなってきてるのに、あんな、嫌味な奴が、ジンクスにまで縋って……大量の飴を食べて……」
「……うん、ゆっくりでいい。シオンはジンガじゃない。呑まれないで……」
「ジンクスにすら見放されて……部屋の物を壊してる。それで……」
シオンが言いかけていると、避難した生徒の様子を見に行っていたエクレール先生がシオンの異変に気がついて慌てて駆け寄ってきた。
「シオンッ! どうしたっ、どこか怪我でもしたのかっ!」
エクレール先生が心配そうに泣いているシオンを覗き込んだ。
「……だい、じょうぶです。ちょっと……頭が痛かっただけ……」
「…………シオン?」
訝しむジェイドを横目に、ぐるぐると纏まらない思考がシオンを悩ませる。
(……ねぇ、エクレール先生。この前、校舎裏でジンガと何を話していたの? ジンガの記憶の中で、何度も何度もジンガに薬を渡す先生を見たよ。……私、先生のこと、信じてもいいんだよね……?)
シオンは急に自分を見下ろすエクレール先生の眼差しが、少しだけ怖くなって、そっと視線を逸らした。
◇ ◇ ◇
「シオンの魔法のおかげで本当に助かったよ。最近、生徒が暴走する事件が多発していてね。……生徒を傷つけるわけにもいかないのに、無理矢理気絶させないと止めることが出来なくて困っていたんだ」
気を失ったジンガとフリージアを連れて、シオン達は保健室を訪れていた。エクレール先生に頭を下げられてお礼を言われると、シオンはぶんぶんと両手を振って言った。
「いやっ、たまたま運が良かったんだよ! 私の魔法が何なのか、よく分からないまま使ったわけだし!」
「それでも、ビンタで済んで良かったよ」
「……ジンガは、どうなっちゃうんですか?」
「まぁ、無難に停学……かな。まずは親元へ送り返して、様子が落ち着くまで家族の元で見守ってもらうつもりだよ」
「家族のところに……」
家族の元へ返される。学園側の対応としては妥当だが、ジンガの記憶を覗いてしまったシオンとしては、停学で済んで良かったね、と素直に頷くことは出来なかった。
「ジンガの家族が許してくれるのかな……」
シオンの不安が的中し、ジンガの家族に連絡していた先生が、何やら深刻な雰囲気でエクレール先生を呼び出した。
「どうしたんですか?」
「それが……ジンガの家族は誰も迎えに来る気は無い、と」
ジンガへ向けたエクレール先生の視線が、それ以上に深刻な事態であることを物語っていた。




