22話 親方!空から女の子が!
全力で放った時とは違って、シオンの杖から小さな白い光の球がいくつも生まれ、ジンガに向かって飛んでいく。
ジンガの操る水球に魔法が当たると、水球の威力が段々と弱まってただの水に戻っていき、ぴしゃっと地面へと落下した。
「もしかして、シオンの魔法は魔力除去魔法か、弱体化魔法なのか……?」
攻撃されたと思ったのか、反射的に攻撃してきたジンガの水魔法がシオンへ迫る。
「……シオン、危ないっ!」
エクレール先生の叫び声に、咄嗟に攻撃を避けようと、シオンが斜め上へと飛び退いた。
「………………えっ?」
人間のジャンプ力じゃ避けきれない。だからこそ、思いっきり土を蹴り上げた後は、祈るように目をつぶっていた。それなのに、背中に理解の出来ない風を感じている。
恐る恐るシオンが目を開くと、校舎の屋上が自分の真下に見えた。
「今度は強化魔法なのか!?」
興奮気味なエクレール先生の声が、空まで響く。
「いや、ちょっ、強化魔法!? ……って何!? 待って待って待って! 私、落下系は無理なんですけど! 高い! 無理! 落ちるぅうう!」
空高く飛び上がったシオンは、叫びながら落ちていった。
「うわぁああああああああ!」
――死んだ。
空から真っ逆さまに落ちるシオンが死を覚悟して目をつぶると、想像よりも小さな衝撃ととも落下が止まった。
恐る恐るシオンが目を開けると、エクレール先生に抱き抱えられて地上へ着地していた。
そっと地面へ降ろされると、腰が抜けたのかシオンはへなへなと地面へ座り込んだ。地面への愛しさが溢れて、思わず地面に頬ずりしてしまいそうなのを堪えると、シオンはエクレール先生にお礼を言う。
「い、生きてる……っ! エクレール先生、マジでありがとうっ……! 本当に、死ぬかと思ったぁ……!」
今にも飛びかかってきそうなジンガから視線を外さないようにして体勢を整えると、シオンはエクレール先生に問いかける。
「ねぇねぇ! 今のも私の魔法なのかな? ……でも、これ何? 凄いジャンプ力と、他の人の魔法の解除?」
「……恐らくだけど、シオンの魔法は強化魔法と弱体化魔法のようだね」
「うーん……それって、私が強くなる魔法と、相手を弱らせる魔法ってこと?」
「簡単に言えば、そういうことだね」
「ふーんっ、そういうことなら、私の魔法で何とか出来るかも……っ!」
散りばめられていた水球がジンガの元へと集まっていく。暴走したまま、最早、意識があるかもわからないジンガは、一つとなった巨大な水球の内側に自身も飲み込まれてしまった。
「あれじゃ、ジンガも溺れちゃうじゃん!」
「もう、自分か他人かも判別がついていないんだろう……。シオン、あれを無力化するイメージは出来る?」
焦りが滲んだエクレール先生の言葉に、シオンが慌てて杖に魔力を込める。
「止めるイメージ……止めるイメージ……」
「大丈夫。目を閉じて……落ち着いて、想像するんだ」
焦りから上手く魔力を込められないシオンの顔を手で覆うと、エクレール先生が落ち着いた声で指示をする。
「……ふぅ。あれはただの水……魔法を抜き取るイメージで……杖に私の魔力を込める……。強くなれ、強くなれ、強くなれ! よしっ、いける気がする!」
閉じていた瞳を開けると、シオンは力強く大地を蹴った。土埃が舞い、シオンが宙を駆け抜ける。
飛び出した勢いのまま、ジンガの閉じ込められた水球へと一直線に飛び込んだ。弱体化魔法で水球の中の魔力の勢いを殺して、シオンは水球の中を突き進んでいく。
パンッ!
水球の中心にいるジンガの元へと辿り着いたシオンが、思いっきりジンガの頬をひっぱたいた。弱体化魔法の効果で、水の抵抗も感じずに勢いよくシオンの掌が振り下ろされる。
一瞬、ジンガが我に返った。その瞬間、水の弾ける音がして、水球がただの水へと戻っていく。
ばしゃばしゃと降り注ぐ水の中で、意識を失ったジンガをシオンが肩で抱き止めた。
「おっとと、」
ジンガの体重を支えきれずによろけたシオンを、いつの間にか隣に移動してきていたエクレール先生が支えて、意識のないジンガを受け取った。
「よかったぁぁ! 止められた……」
ほっと胸を撫で下ろし、安心してへたり込みそうになるシオンの腕を、急いで駆け寄ってきたジェイドが掴む。
「……ほんと、無茶しすぎだよ」
「でも、止められたでしょ?」
ニカッと歯を出して笑うと、ピースサインをしてみせるシオンに、ジェイドは呆れたように大きくため息をついた。




