21話 ここでやれなきゃ世界なんて救えないっ!
虚ろな目をしながらも自我が残っているのか、ジェイドに対するコンプレックスを刺激されたようだ。口の端から唾液を垂らした姿は、もう正気とは言えなかった。
「……ジンガ、どこを見てるの……?」
暴走するジンガの矛先は、木の陰で怪我をおった生徒に回復魔法を当てていたフリージアへと向けられた。
ジンガが杖を大きく振ると、水球がフリージアを目掛けて勢いよく飛んでいった。
「「フリージア! 危ないっ……!」」
ジェイドとシオンの叫び声が重なる。
逃げられないと悟ったフリージアは、助けていた生徒を庇うように覆いかぶさると、ぎゅっと目を閉じた。
バシャンッッッ!
ジンガの水球が物凄い速さで襲いかかり、フリージアは水球の中に閉じ込められた。もがいても、もがいても、水を掴めずにフリージアの手が空を切る。
「フリージア……ッ!」
フリージアを助けようと、ジェイドが風魔法で水を分裂させようとするが、動揺で上手く狙いが定まらない。
「ジェイド、ダメだよ! それじゃあ、フリージアにも当たっちゃう!」
「……っ、分かってる! けど、このままじゃフリージアが……っ!」
「待って待って待って、私にも出来ること……」
そうこうしている間にも、ジンガの魔法は威力を増していき、手当り次第に近くの物を取り込もうとしている。
「……くそっ……! こっちにまで……!」
逃げ遅れている生徒を避難させるのに手一杯で、エクレール先生も身動きが取れなくなっている。
「エクレール先生の助けは待てない、ジェイドはコントロールが出来なくなってるし、頼れるのは自分だけ! なのに、私は何も出来ずに悲劇のヒロインの席だけが空いている」
「このままじゃ、フリージアが溺れちゃう……っ! 何か、私に出来ることは……」
焦るシオンが使えるものはないかと、きょろきょろと周りを見回した。けれど、魔法には魔法でしか対抗出来ないという事実だけがシオンにのしかかり、産まれたての魔法使いに出来ることなんて、ある訳がなかった。
「私にも魔法が使えたら……。もうっ、不発ってなんなのよ! ここで友達を助けられなかったら、世界なんて救えっこない! 頑張れ、シオン!」
自分を奮い立たせるように、シオンは決意を口に出した。
想いが言霊となって、思考がクリアになる。
焦る心とは裏腹に、シオンは自身が冷静になっていくのを感じた。
フリージアに向けて杖を構えると、シオンはありったけの魔力を込めて解き放つ。
「お願いだから! なんでもいいから、フリージアを助けられる魔法、出てこーーーいっ!!」
シオンを中心に、眩い白い光が周囲を包み込むと、水球はぼこぼこと形を保てずに崩れていく。
魔力による操作を失った水球は、ただの水となって地上へと溢れていき、解放されたフリージアが投げ出された。
「わわっ、と……ととっ」
どさり。
落ちてきたフリージアをシオンが慌ててお姫様抱っこで受け止めよう、として尻もちをついた。
「……っ、……げほっ、……ごほ……っ」
水を飲んでしまっていたフリージアは、真っ青な顔で咳き込んだ。
「……っ、無事で、よかった、フリージア……っ!」
「……いまの、シオン……が?」
駆け寄るシオンに、フリージアがか細い声で呟いた。
「多分、そうだと思う。……だけど、自分でも何をしたのかわからないし、ずっと頑張ってたのはジェイドだから、あとで労ってやってよ」
「……そっか。二人は活躍してたのに私は助けられちゃって情けないなぁ」
「そんなことない! フリージアは自分の魔法がわかって、指示がなくても人を助けようと動けていたんだもん。めっちゃ格好良かったよ!」
「えへへっ……。あり、がと……」
混乱したままシオンにお礼を言うと、フリージアは意識を手放した。
「フリージアは俺が校舎まで運ぶ」
「うん、わかった。私は、さっき何をしたのかわからないけど、役に立てるかもしれないから、先生のところに残るよ……!」
一番巨大な水球を壊したものの、まだ暴走し続けているジンガを見つめて、シオンは強く杖を握った。
「……エクレール先生っ! 私の魔法でジンガを止められないかな!」
「……やってみてくれ!」
「……はいっ! いっけぇぇえ! まっしろしろすけ!」




