20話 初めての魔法と暴走する、
エクレール先生の声を合図に、ジェイドが杖へと魔力を貯めていく。
魔力特性診断キットの時とは違い、ジェイドの杖の先に風が渦巻くように集まっていくのが見えた。
「……出ろ……っ!」
ジェイドの掛け声で、杖の先に集まった風は人型サイズの竜巻へと姿を変える。
「いいぞ、ジェイド。落ち着いて、その竜巻を移動させてみようか」
エクレール先生の指示に従って、ジェイドが慎重に竜巻を移動させる。コントロールを誤れば簡単に人を傷つけてしまう。それが魔法なのだ。
「そこまで! 初めてにしては、出現させた竜巻のサイズも大きいし、よくコントロールが出来ていたよ」
「……っ、ありがとうございます」
ジェイドの竜巻が霧散する。
「ジェイドの魔法なら、風を操って木を切ったりも出来そうだね」
エクレール先生が手元のノートに何やら書き込んでいく。どうやら、あのノートに試験の結果やアドバイスなどを書き込んでいるようだ。
「よし、次はフリージア。始めようか」
「……はいっ!」
裏返った声で元気よく返事をしたフリージアは、緊張した面持ちで杖に魔力を込めた。柔らかな黄色の光が集まって、杖の先に小さく凝縮されていく。
「……それっ!」
ぽんっ、と可愛らしい音とともに、光の玉が弾ける。弾けた光は花の形に姿を変えて、フリージアの周りに光の花がひらひらと舞い落ちた。
「やったぁ! 出来たっ! けど……これ、何の魔法なんだろう?」
フリージアは嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねると、不思議そうに光の花を掌で受け止めた。光の花は掌に触れると小さく瞬いて消えた。
「うーん、回復魔法の系統だとは思うんだけど……誰か怪我してる人とかいないかな?」
「さっき、紙で指を切ったんですけど……」
エクレール先生の呼び掛けに、クラスメイトが絆創膏を剥がして、光の花に触れた。すると、光の花はしゅるしゅるとツタを伸ばして手に絡みつくと、花は美しく姿を変えて咲き誇った。
その変化に合わせて、クラスメイトの指の傷が跡を残さず消えていく。
「本当に、治った……」
不思議そうに掌を宙にかざしているクラスメイトを見て、エクレール先生は興奮気味に言った。
「凄いよ、フリージア! 傷跡まで綺麗になくなる回復魔法なんて、これは磨けばとんでもない魔法になるかもしれないね!」
フリージアはえへへ、とシオン達に向かってピースサインをすると、照れくさそうに足早でシオン達の元へ戻ってきた。
「よし、次はシオン。始めようか!」
二人に続いて、エクレール先生に呼ばれたシオンが前に出る。
買ったばかりの白い杖に魔力を込めると、あの時と同じか、それ以上に強い白い光がシオンの周りを包んでいった。
「いっけぇええええ!」
シオンの掛け声が、青空を掛ける。
範囲型の魔法だろうか。かなり広範囲に渡る白い光が、辺り一面を覆い尽くす。
「……何も、起こらない…………?」
待てども周囲に変化は見られない。
「もしかして、不発……?」
不安げに呟くシオンに、エクレール先生は安心させるように言った。
「変異型の人が初めて魔法を使う時には結構あることなんだ。どうしても、使うまでは何が起こるのか誰にもわからないからね。目に見えて変わらない魔法だと、なかなか気づいてあげられないんだ」
「……一応、なんですけど、まさか人体に悪影響があったりとかって、しないですよね……?」
「それは心配しなくて大丈夫だよ。学園内には人体に危害が及ぶような魔法が使用された時には、自動で結界内の人を保護する魔法が施されているからね。以前、毒魔法の使い手が現れてからは、より強固になったと聞いているよ」
「そっか、よかった……」
魔法が発動しなかったことよりも、無意識に周りの人に悪い影響が出ていたら、と考えて不安になっていたシオンは、ほっと胸を撫で下ろした。
「シオンの魔法は少しずつ解明するしかなさそうだ。学園でわからなかった時には、探求者の国シャルムの研究者を頼ることも視野に入れないとね」
「探求者の国?」
「機械や魔法の研究、医療だったりと様々な分野の研究者が集う国があるんだ。魔法特性診断キットも、シャルムの研究者が造ったものだね」
「なるほど。私みたいなよく分からない魔法も、凄い頭いい人達に研究して貰えるんですね」
エクレール先生はシオンの言葉に頷くと、ノートに結果を書き込んだ。
「次はジンガ。始めてくれるかな?」
シオンと入れ替わるように、ジンガが前へと歩み出る。シオンには目もくれず、俯いたままぶつぶつと何かを呟いている。
「ねぇ、ジンガの様子……なんか変じゃない?」
フリージア達の元へ戻ってきたシオンがそう言うのと同時に、ジンガの杖へと凄い勢いで魔力が溜まっていき、あっという間に巨大な水の塊が生成される。
「えっ、ジンガってめっちゃ凄いじゃん! 何、あの大きさ!」
「…………いや。いくらジンガの魔力でも、最初からあの威力はおかしい……!」
思わず声を上げたシオンに、ジェイドが眉をひそめて言った。
ジンガの頭上に生成された大きな水の玉が、周りの魔力を取り込んでどんどん膨れ上がっていく。
「……マジ? いや、ちょっと……やばくない?」
瞬きをする間の一瞬で、校舎と同じ高さまで膨れ上がった水球が、周りのことなどお構い無しに木々や植木を飲み込んでいく。
「ジンガ! 威力はもう十分だ。周りのものを巻き込まないようにコントロールに集中するんだ!」
エクレール先生がジンガに向かって叫んだが、その声もジンガの耳には届いていない。
「ねぇ、これってなんかさ……街で会ったあいつみたいじゃ……」
「……くそっ、またかよ! ……魔力が大きすぎる……! 皆、逃げろ!」
肥大化していく魔力の塊のような水球を見てジェイドが叫んだ。
非常事態であることを察して、ジンガの近くにいた生徒にいち早く避難指示を出していたエクレール先生が校舎を振り返る。
「……危ないっ!」
慌てて校舎に駆け込もうとしていた生徒達へ、水球が分裂して襲いかかった。
エクレール先生の杖が光り、身体強化されたエクレール先生が、光の速さで次々と逃げ遅れた生徒達を抱えて避難させていく。
その視線の先にはジンガの魔法から庇う為に、ジェイドが風魔法を使って遠くにいた生徒を浮かせているのが見えた。
「助かったよ、ジェイド!」
精密なコントロールが必要だろう技を、土壇場で成功させる辺りが優等生たる所以だろう。
「ジェイド・アルメリアァァァァアアア!」
エクレール先生に感謝されるジェイドを見て、ジンガが獣のように吼えた。




