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15話 妖精の杖と不思議な出会い

 



「シオン、こっちこっちー!」


「フリージア、走ったら危ないよー! ……あれ?」


『妖精の杖』に向かう途中、まるで身を隠すように学園で見る時とは違う、みすぼらしい服装で足早に路地裏へと姿を消すエクレール先生を見て、シオンは首を傾げた。


(エクレール先生だ、なんだろう……。さっきの暴走男の通報で先生達も駆けつけたのかな……? それにしても、もっと良い普段着を着ればいいのに)


「シオン、着いたよ!」


 フリージアの声で我に返ったシオンが顔を上げると、妖精の姿が彫り込まれた木の看板に『妖精の杖』と細い文字で店の名前が書かれている。


「めっっっちゃ、可愛いお店!」


 ツタに覆われているツリーハウスのような外観に、シオンの心は一瞬で奪われた。


 扉を開けるとチリリンと扉につけられていた鐘が店内に鳴り響いた。

 天井から吊られているドライフラワーの隙間、ステンドグラスの窓から差し込む太陽の光が、キラキラと店内を照らしていた。


 店内には花の形をしたライトがあちらこちらに咲き誇っていて、薄暗い店内の内装を引き立てて彩っていた。妖精の森があったとしたらこんな感じだろう。


「いらっしゃい。妖精の杖へようこそ」


 店内を見回していると、奥の方から工房風のエプロンに片眼鏡の初老の女性がシオン達へ話しかけてきた。他に従業員らしき人物も見当たらず、貫禄のある風貌からもこの人が店主なのだろう。


「どんな杖をお求めなんだい?」


「どんなって……考えてないけど、私専用の杖が欲しくて」


 シオンの返答に考える素振りを見せると、店主は奥からガラスの箱を三つ持って戻ってきた。


「わぁぁ、綺麗……。でも、杖は一本だけだけど……」


 ガラスの箱の中には、真っ白でつやつやとした木にダイヤモンドが埋め込まれた杖、ダイヤモンドの指輪がツタのデザインのブレスレットに繋がっているもの、高級そうな真っ黒な羽根にダイヤモンドがついた羽根ペン、と形状は杖だけではないようだ。


「今は杖の形状も色々あるんだ。普段使いするのはコントロールのしやすい杖型を持つ者がほとんどだが、戦闘を前提とした騎士団員なんかは、剣を媒体にして魔法を使ったりもする」


「あ、そっか! シオンは杖型しか知らなかったんだね」


 店主の言葉に、なるほど、とフリージアが手を叩いた。


「フリージアはどんな形の杖を持ってるの?」


「私もジェイドも、今は杖型しか持ってないよ。学校に通ううちは杖型だけでもいいんじゃないかな?」


 フリージアに補足するようにジェイドが言う。


「俺達はまだ個人の魔法がどんなものになるかわからないしね。それがはっきりしてから、魔法に合わせた形状の杖を特注すればいいと思う」


「なるほど……。確かに、操作型なら杖のままでも使いやすそうだけど、フリージアみたいな回復魔法だったら、ブレスレット型で手が空く方が便利そうだもんね」


 シオン達の会話を聞いていた店主が、杖型の中でもカスタマイズは出来るから好きなものを選ぶといい、と言って店の奥へと案内してくれる。


「二人とも、私こーゆーの選ぶのめっちゃ時間かかっちゃうから、その間他のお店見てきていいよ!」


「えっ、付き合うよ!」


「大丈夫、大丈夫! せっかく遊びに来れたんだから、遊んできなって! ……フリージア、ジェイドと二人の時間邪魔しちゃってごめんね?」


「……なっ! シオンってば! もう……」


「じゃあ、二時間後くらいにこのお店の前で合流ね!」


 揶揄うようにシオンがひそひそと耳打ちすると、フリージアは顔を真っ赤に染めて抗議した。

 また後で、と手を振る二人を見送って、シオンは小さな声で呟いた。


「ほんと焦れったいなー、あの二人。どう見たって両想いに決まってるのに、幼なじみってあんなもんなのかな」


 シオンが店内へと戻ってすぐに、チリリンと鐘が鳴ってお店の扉が開くと、一人の青年が店の中へと入ってきた。


「………………店主。注文の品を取りに来たのだが……。すまない、先客か」


 先客がいるからと店を出ようとする青年に、シオンは思わず腕を引っ張って引き止めた。


「さっき助けてくれた人!」


 自分を引き止めるシオンの顔を見て、黒髪の青年、ノワールは驚いたように目を見開いた。


 シオンの紫の瞳が、ノワールの紫の瞳と交差する。


「私、シオン! さっきは助けてくれて、本当にありがとう!」


 裏表のないお礼の言葉に、屈託ない眩しいくらいの笑顔を向けられて、ノワールは困ったように後退りをした。


「………………礼はいらない、あの男が目障りだっただけだ。先客がいるのなら、俺は外で待つとしよう」


 お礼を受け入れようとしないノワールを、シオンは慌てて引き止める。


「待って! お先にどうぞ! 私は選ぶのにまだまだ時間がかかっちゃいそうだから大丈夫」


 実際に店主に聞きながらじっくりと選ぶ予定だった為、その間、外で待っていてもらうのは忍びない。


「……そうか。ならば、その厚意に甘えよう。…………店主」


「注文の品は出来ているよ。持ってくるから奥で待っていておくれ」


「……あぁ、わかった」


 シオン達のやり取りを黙って聞いていた店主が、店の奥へ注文の品とやらを取りに戻って行った。




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