12話 ポッピングキャンディ
「悪い、大丈夫か?」
慌てて謝りに行くジェイドにくっついて女の子に駆け寄ると、シオンとフリージアも頭を下げた。
ちらり、と女の子の足元を見ると、くしゅくしゅのルーズソックスに夢可愛い系の薄いピンクと紫のスニーカーを履いていて、シオンは思わず顔を上げた。
ふわふわとボリュームのあるツインテールを揺らして、紫のインナーカラーが映える編み込みが可愛らしい。
フリージアの桜のような淡い桃色の髪とは違い、女児向けアニメに出てくるようなピンク色の髪に、派手なネイル、天使の羽根のピアスといい、いかにも原宿系な風貌をしていた。
(めっちゃ可愛い! なんか、懐かしいなぁ。こっちの世界にもこういう子いるんだ!)
元の世界の友達と似た雰囲気に親近感を覚えてまじまじと見つめていたシオンを、ジェイドがそっと腕で小突いた。
「シオン、見すぎ」
「あっ、ごめん。つい……」
ちらりと少女の様子を伺うと、機嫌を損ねた様子はなく、にこにこと微笑んでいた。
「めっちゃ可愛いから、じろじろ見ちゃった。ごめん、いきなり嫌だったよね」
「可愛いって思ってくれたんでしょ〜? それなら大丈夫だよぉ〜。アンジュはいっつも可愛いから、見つめられるのは、大・大・大歓迎♪」
「よかったー! 友達がこういう格好好きだったから、可愛いなーってついつい見とれちゃった」
「えへへ〜。褒められるのチョー嬉し〜♪ アンジュ、ご機嫌だから飴ちゃん上げちゃう♪」
そう言うと、自分のことをアンジュと呼んでいる少女は、三人にチュッポチョップスのような飴を手渡した。余程その飴がお気に入りなのか、今もずっと口にくわえている。
「これって、ポッピングキャンディだよね! 嬉しい、食べてみたかったんだ!」
「フリージア、ポッピングキャンディって?」
シオンの疑問に飴を受け取ったフリージアが嬉しそうに解説をする。
「住宅街の方では、まだ手に入らないんだよ! 空と雲を閉じ込めたみたいな可愛い見た目に、しゅわしゅわしたラムネみたいな味が、学生に今大人気なんだよ!」
「へぇぇ、詳しいんだね〜♪ じゃあ、学園で人気のジンクスも知ってる〜?」
「ジンクスっていうと……能力適性テストの?」
「そうそう♪ 入学して暫くすると能力適性テストっていう個人の魔法を見るテストがあるんだけど〜、この飴を舐めた時にパチパチって弾けるといい点が出るっていうジンクスがあるの♪」
話についていけないシオンに向けて、アンジュが自慢げに指を振りながら教えてくれた。
「パチパチするのが当たりってこと?」
「そうだよ〜♪ 普通はしゅわしゅわするだけなんだけど、たま〜にパチパチ弾ける飴があるんだって〜」
「あー、そういう願掛けみたいなの、私の学校でも流行ってたなぁ」
元の世界でも受験前にキットカッツにメッセージを添えたり、カツ丼を食べさせられたなぁ、なんて思い出しながら、シオンはお礼を言って飴をポケットへとしまった。
「それじゃ、アンジュはもう行くね。アンジュはテストはもう関係ないけど、皆は新入生でしょ? テスト、頑張ってね〜♪」
「えっ、先輩だったの!?」
「そだよ? でもアンジュ敬語とか全然いらないよ〜? 可愛くないもん。じゃ、またね♪」
嵐のように去っていったアンジュを見つめて、ジェイドが不思議そうに渡された飴を見つめていた。
「小石がぶつかったことを謝るつもりが、なんで俺達は飴を貰っているんだ……?」
「まぁ、怒られなかったからいいんじゃない?」
「それもそうか」
「なんか、先輩っぽくない気さくな子だったねー」
シオンとジェイドが話している横で、フリージアがいそいそと飴の包み紙を開けている。
「よかったな、フリージア。ずっとそれ、食べてみたかったんだろ」
「うん! 当たりが出ますよーに! っと」
パクッ、と勢いよく飴を頬張ると、フリージアはコロコロと口の中で転がした。口の中にしゅわしゅわと微炭酸なラムネ味が拡がっていく。
「おいし〜! けど残念! パチパチしなかったー。何個くらいの確率なんだろー?」
「ジンクスになるくらいなんだから、相当少ないんじゃないか?」
「そうだよねー……」
「ほら、俺の飴も上げるから。落ち込むなよ」
「ありがとう! ジェイド大好きーっ!」
「……っ! どう、いたしまして」
ジェイドは自分の貰った分の飴をフリージアに手渡すと、抱きつこうとするフリージアを躱しながら、照れているのを隠そうと顔を背けた。
「……なんだよ、シオン」
「いや、べっつにー? フリージアとジェイドは本当に仲良いなぁって思ってただけだよ?」
揶揄うように、にやにやとした視線を向けるシオンを、ジェイドはじっとりと睨みつけた。
飴を貰って上機嫌になったフリージアが鼻歌混じりで道を歩いていると、学園の上級生らしい制服を着た男にわざと肩をぶつけられて、フリージアは尻もちをついた。
「いっ、たた……。今日はなんかよくぶつかるなぁ」
相手がわざとぶつかったことに気づいていないフリージアが、尻もちをつきながら笑ってみせた。
「すみません、ぶつかっちゃって……」
立ち上がりながらぶつかったことを謝るフリージアを見て、上級生の男は舌打ちをしながら、今度は明らかにわざとフリージアのことを突き飛ばした。




