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11話 劣等感

 



 ジンガが魔法特性診断キットに魔力を込めると、ジェイドと同じくらいの範囲に、ジンガ本人からは想像出来ないくらい綺麗な淡い水色の光が拡がっていった。

 スノードームの中で、水の球体が泡のようにふわふわと(ただよ)っている。


「なんだ。ジンガの魔法、めっちゃ綺麗じゃん」


(やばっ! こんなこと言ったら、当たり前だろう! とか聞きたくもない自慢されるだけじゃん)


 思わず心の声が洩れたシオンが慌てて口を塞いでジンガの様子を伺うと、予想に反してジンガは青ざめた顔に、今にも死にそうな表情を浮かべて立ちすくんでいた。


「………………馬鹿な、どうして、僕が…………」


 誰にも聞こえないような(かす)れた声でジンガが呟いた。


「ジンガを褒めるのは嫌だけどめっちゃ綺麗だったし、魔力だってショボイわけでもないじゃん? ジェイドに自慢出来るくらいの魔力量もあったのに、なんであんな真っ青になってるんだろう?」


 不思議そうに首を傾げるシオンの疑問に、人差し指を口元に当てて考える素振りをしながらフリージアが答えた。


「んーとね、私達みたいな庶民にはわからない感覚なんだけど……。ジンガの家、フラーウィス家は火属性のエリート一家なんだって」


「火属性のエリート一家……。それって、家族全員がってこと?」


「うん。現当主も兄弟もご先祖さまも皆、火属性らしいよ。攻撃力が高いとされる火属性こそが至高だ! って思ってるから、反対属性の水属性は……ね」


 フリージアが少しだけ気の毒そうにジンガを横目で見た。そういう事情があるなら、家族の中で自分だけが火属性と相性の悪い水属性だなんて、顔面蒼白にもなるというものだ。


 魔法に優劣は無い。そんなこの世界ですら、プライドだとか一族の誇りなんて面倒なものに縛られているジンガに、ご愁傷様ですとシオンは心の中で手を合わせた。


「……こんな。こんなこと、あっていいわけがない……っ。父様や兄様に知られたら、なんて言われるか……」


 シオン達を気にする余裕もなく、暗い表情でブツブツと呟きながら自分の席へと戻っていくジンガを横目に、次々と様々な色の光や形状を見せていくクラスメイト達の魔法に、シオンは瞳を輝かせていた。


「よし、これで全員の魔法特性診断が終了したかな。本日の授業はここまでにしようか」


 エクレール先生の挨拶を合図に、生徒達がバラバラと帰路につく。


「ねぇねぇ。授業も終わったことだし、寮生活の準備も兼ねて学園都市を見て回ろうと思ってるんだけど、シオンはこの後時間とかってある?」


「あるあるっ! めっちゃある! 私も一緒に行ってもいいの?」


「勿論だよ! 私とジェイドは学園都市出身だから、少しは案内も出来ると思うよ!」


「そうなの? 授業で使う物とかも揃えたかったから、めっちゃ助かるー!」


「えへへっ、任せてよ! ……って言っても、私達が住んでたのは住宅街だったから、学園近くのメイン通りはあんまり詳しくはないんだけどね」


 フリージアの話では、学園都市には住宅街やお店で働く人用の施設がまとまっている住宅エリアと、学園の近くのお店やいろんな施設がまとまっているメイン通りがあるのだという。


 学園から出て、徒歩五分もかからないくらいで、カラフルなお店の並ぶ大通りへと出た。


「うわぁぁ、凄いっ! 街並みもカラフルで可愛いし、どのお店もめっちゃお洒落!」


 学園と同様に季節が入り乱れているカラフルな花壇に、綺麗な色の蝶々が飛んでいる。

 ローファーを踏み鳴らすたびにコツコツと小気味よい音のなるレンガ造りの道にシオンの気分も上がっていく。

 ヴィンテージを感じる赤レンガやカラフルな壁が、行ったこともないのに、お洒落な街ブルックリンを彷彿(ほうふつ)とさせられた。


 全てに魔法が使われている街並みは、どこを見ても夢の国のようで、明るい時間なのに噴水の水はキラキラと光っていたり、レンガを踏むと街灯の色が変わったりと楽しい仕掛けが沢山あって目移りしてしまう。


「まぁ、住宅エリアの中だけでも十分普通に暮らせるからな。俺は殆ど来たことがなかったから、こんなにじっくりとメイン通りを歩くのは初めてだけど、どの魔法も凄いな」


「でしょでしょ! 可愛いお店も多いし、お小遣いを貯めて遊びに来たことはあっても一日じゃ全部は回れないし、ほんっとにずっと憧れてたんだよね!」


「なんでフリージアが自慢げなんだ……」


「お洒落なお店や観光スポットは、ジェイドより詳しいからね。他の国の友達が出来たら案内してあげられるように、予習しておいたのです! ……なんて言っても結局のところ、この学園に通っている子は学園都市出身の子が多そうだよね」


 フリージアがそう言うと、ジェイドが顎に手を当てて、何かを考える素振りをして言った。


「そうだな。そう考えるとフラーウィスは珍しいタイプだな」


「ジンガが?」


「フラーウィスが家柄に(こだわ)るのも当たり前といえば当たり前なんだ。フラーウィス家は、水中都市エストラルの由緒正しい貴族だから」


 水中都市の貴族ということは、あの美しい水中にある豪邸のどれかがジンガの家なのだろう。セバスチャンの待つ御屋敷のご近所さんだったら嫌だな、と考えてシオンが眉をひそめた。


「貴族の子供とか、ある程度育ちのいい人なんかは、だいたい水中都市出身だからな。基本的には水中都市にある貴族の学校に通うだろうし、わざわざ学園都市にまで来る人っていうのは、魔法に重きを置いてる家柄なんだ」


「あぁ見えて血統書付きの本物のお坊ちゃんってことね。貴族の学校で優雅に過ごすことも出来るのに、魔法重視で別の国に学びに来てるなんて、ジンガも意外と苦労してるのかもね」


「……そうだな。まぁ、俺に突っかかってくるのは辞めてもらいたいけどなっ!」


 そう言って、ジェイドは苦笑いをすると足元の小石を蹴飛ばした。


「わわっ! ……っと。びっくりしたぁ〜」


 ジェイドの蹴った小石が運悪く跳ね上がって、前から歩いてきた女の子の足に当たってしまった。




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