10話 特別
エクレール先生がキラキラと瞳を輝かせて、興奮した様子で教壇に近づいた。何が起こったのか理解が出来ていないシオンが、魔法特性診断キットを覗き込むと、黄色の稲妻が花火のように輝いていた。
「……エクレール先生と、同じ?」
振り返ってシオンが尋ねると、エクレール先生は不思議そうに首を傾げてから、少し悩む素振りで首を横に振った。
「いや、僕の時はもう少しパチパチと電気が弾ける感じだったんだ。……シオンの場合は光の色が黄金というか、白に近い。これは僕の推測に過ぎないけど、魔力の純度が高い……とかなのかな? それに、形状も稲妻に定まってはいないから……変異型かもしれないね」
「それって、めっちゃレアってことですか!」
「そうだね。どんな魔法が使えるようになるか、その時にならないと僕にもわからないってことかな」
「……やったーっ! それってめっちゃ無敵じゃない!? エクレール先生みたいな魔法も使えるかもしれないし、フリージアみたいに回復魔法が使えるかもしれないし!」
「ふふっ。不安はなさそうでよかったよ」
「不安なんてないよ! 何が出るかわからないなんて、そんなの……めっっっちゃ、楽しみじゃん!」
瞳を輝かせて、ぴょんぴょんとジャンプしながら全身で喜びを表現するシオンの頭を、子供を見守るようにエクレール先生がぽんと撫でた。
(突然よくわからない世界に来ちゃって、知り合いもいないし、予言の子なんて言われても本当に魔法が使えるのかすらわからなくて怖かったけど……。魔力も魔法も、特別……なのかな)
魔法オタクのエクレール先生が知らない魔法を自分だけが使える。その事実は、シオンの中に燻っていた異世界への不安を和らげるには十分だった。
(何も出来ない普通の私が予言の子なんて、荷が重いなーって思ってたけど、この世界だったら私ってめっちゃ凄いのかも!? 特別っていうのが、少しだけでも目に見える形で現れてくれて、ちょっと安心したかも……)
『特別』
その言葉は魔法のように、重荷にも優越感にも変わる。
この世界で、本当に特別な存在になれるかもしれない。シオンの不安は期待へと変わり、胸が高鳴った。
期待を胸にキラキラと輝く瞳でスノードームを抱きしめたシオンに、水を差す用に後ろの席からジンガの野次が飛ぶ。
「いつまでそうしているつもりなんだい? ほんの少しばかり魔力が多くて珍しい属性だったからって、舞い上がって見苦しい。まぁ、田舎者の君が持て囃されるなんてこれが最後の機会だろうから、仕方がないことかもしれないけど。感傷に浸っていないで、さっさとどいてくれないかなぁ?」
どうやら、シオンの次はジンガだったようだ。
嫌味たっぷりの台詞を告げた口元に嫌な笑みを浮かべているものの、どこか苛立っているようだった。身体の前で組んだ腕を、落ち着かない様子でトントンと指で叩きながら、ジンガは教壇へ上がった。
ジンガの嫌味な物言いは頭にくるが、後ろに並んでいる人がいるのに独り占めするようにスノードームを抱きしめていた自分にも非はあると、シオンは反論せずに自分の席へと戻っていった。
「凄いよ、シオン! あんなに強い光、初めて見たよ! すっっっごく眩しかった! 絶っ対に凄い魔法が使えるようになるよ!」
「ありがとう、フリージア! 私もフリージアと同じ光属性だったよー!」
「シオンと二人で貴重な回復魔法が使えるようになったら凄いよね!」
「それ、めっちゃいい! 怪我も病気も治し放題じゃん! もう風邪なんて怖くないね!」
「あはは! 回復魔法を風邪に使うなんて贅沢すぎるよ」
きゃいきゃいと手を合わせて喜んでいるシオンとフリージアを交互に見つめて、ジェイドが言った。
「いや、でもあれは本当に凄いよ。あの光り方、光の範囲。冗談抜きに俺なんて比にならないくらい、とんでもない魔力量なんじゃないか?」
「そうなのかな? ジェイドも同じくらいの範囲だったと思うけど……」
「それにエクレール先生もどんな魔法が使えるようになるかわからないって言ってただろ。もしかしたら、シオンは魔法特性診断キットじゃ測れないような、特殊な魔法が使えるのかもしれないな」
「えー、めっちゃドキドキするじゃん! あー、どんな魔法が使えるようになるんだろー! 楽しみすぎるんだけど!」
「まぁ、その為にもしっかり魔法理論も勉強していかないとな」
理論、という勉強を感じさせる言葉に拒否反応を示したシオンは、すっと視線を逸らすとジェイドの言葉を聞こえないふりをした。
「ふんっ! 今こそ僕の方が優れていることを証明してやる! 見ていろ、ジェイド・アルメリア!」
自分に見向きもせずに盛り上がるシオン達を指さして、苛立ちを隠しもせずに教壇の上からジンガが叫んだ。




