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デリタ

 短く切り揃えた赤い髪に、塗り込まれた化粧。

 ヒールの音を響かせて歩く大柄な姿に、道行く人の視線が集まった。


 朝の大通りを抜けると、校門が遠くに見える。

「お、ゴリラオカマじゃん!」

 騒がしい声に眉を顰める。

 振り返ると、サッカー部の三人組がいた。

 大西が腰に手を当て、くねくねとオカマの真似をする。

「今日も化粧濃いな~!」

「昨日より眉毛太くね?」

「ねえねえ、『ブラの色』教えてよ〜」

 ゲラゲラと笑い声が響く。

「……クソガキ共」

 低い声だった。

「そのナメた口、ガーゼ突っ込んで黙らせてやろうか!?」

 怒声が反響した。

 スカートが捲れることも忘れ、大股で歩み寄る──

「ひえっ! ゴリラ激おこ!」

「逃げろ〜!」

 三人は悲鳴を上げ、バタバタと駆けていった。

 肩で息をしながら、その背中を見送る。

 踵を返しかけたとき──スカートが捲れているのに気付いた。

「やだっ……!」

 頬がカッと熱くなり、慌てて裾を直す。

 通り過ぎる生徒たちの視線を感じながら、足早に校門へ向かった。


 生徒達の楽し気なざわめきが遠く、保健室まで届く。

 デスクに荷物を置くと、ゆっくりと腰を落とした。

 落ち着ける体勢を探し、何度も座り直す。息を吐いた。

 憂鬱な気分で窓の外を見やる。

 生徒達が遅刻ぎりぎりで駆け込む、その中で、とりわけ目を惹く女生徒たち。

 ただ、そこにいるだけで女でいられる存在……――

 羨ましい。

 言葉が胸に浮かんだ瞬間、慌てて視線を逸らす。

 小さく首を振り、鞄から書類を取り出した。


 デリタの仕事は、主に怪我や病気の処置と、資料作成。

 学校行事のために職員室へ呼び出されることもあったが、基本的に保健室から出ることはない。

 暫く資料を作成していると、突然、大きな音を立てて扉が開いた。

「剛田~。ちょっと休ませてくれ」

「海道……さん」

 その顔を見て、静かに怖気が走った。

 海道浩司……医療器具の営業であり、中学の時の先輩。

「用が無いのなら帰って下さい……」

 睨みつける。

 しかし彼は気にした様子もなく、飄々とした足取りでベッドに座った。

「ブラックがいい」

 ……益々追い出したくなる。

 それに堪えて、給湯スペースでコーヒーを淹れた。

 側の机に置くと、海道は砂糖を入れて掻き回す。

「……用件はなによ?」

 彼はニヤリと笑い、

「言っただろ? 仮眠取らせてくれ」

 スーツの上着を脱ぎ始めた。

「あんた……本当にただ休みに来たの……!?」

 思わず声を荒げてしまうが、海道はそのままネクタイを緩める。

「いいだろう。俺たちの仲じゃないか」

「俺たちの仲……?」

 鳥肌が立つ。

「……どの口がそんなこと……!」

 声が震えた。

「おいおい。 良い仲だったじゃないか、そんなに怒って……気を引きたいのか?」

「なっ……!」

 開いた口が塞がらない。

 その横を、海道は通り抜けた。

「悪いけど……今のお前じゃちょっと、な」

 足早に扉へ向かいながら、呟く。

「でかすぎる」

 ヘラリと笑うと、出て行った。

 保健室が静寂に包まれる。

 握りしめた拳をゆっくり開き、深く……深く息をついた。

(あの人、変わってない……)

 唇を噛み締め、視線を下に向ける。

 ベッドのシーツがくしゃくしゃになっているのに気づき、掴む。

 手早く整えていった。


 その後は苛立ちが収まらず、生徒達に冷たい態度を取ってしまった。

 気まずそうに保健室を出て行ったその姿に、後悔が広がる。

 平静を取り戻そうとすると、今度はデータを消去してしまう。更にミスが続き、

 心配する小堺先生から逃げるように保健室に戻った。

 ようやく一日を終えた頃には、全身が疲労で重い。

 いつもより時間をかけて荷物をまとめ、保健室を後にする。

 のろのろと足を動かし、賑やかな校舎を進んでいった。


 マンションのエントランスを通り抜け、エレベーターへ

 ゆっくりと上昇していく箱の中で、ぼんやりと考える。

(今日……あの人が来るかも知れない……)

 その姿を思い浮かべ、ゆっくりとガラスを見る。

 写り込んだ顔は汗でテカリ、角張った輪郭が強調されていた。

 眉を顰め、緩慢な動作で手鏡を取り出す。

 丁寧にファンデーションを塗り込んでいった。


 自宅の玄関にたどり着くと、中を伺うように扉を押す。

 廊下の先、リビングが暗闇の中、ぼんやりと浮かび上がる。

 中は締め切った部屋独特の湿気が漂っていた。

 僅かに肩の力を抜き、廊下を進む。

 ダイニングは朝のまま椅子が傾き、ベランダに続く扉は閉じられている。

(誰も、いない)

 小さく息を吐く。

 コートを椅子にかけ、ふらふらと寝室へ向かう。

 ベッドに倒れ込んだ。

 化粧をしたまま布団に包まり、枕を抱きしめる。

「今日はダメ……何もしたくない……」

 小さな呟きは、布団の中に消えていった。


 デリタが眠るマンションの15階は、繁華街と隣接していた。

 賑やかなネオンは高層階まで届き、照明を落とした天井を微かに照らす。

 流し台には水に浸した食器がそのまま置かれ、テーブルには使い終えたマグカップが一つ。

 誰もいない暗闇の中、静寂を破るように窓がカラカラと音を立てて開いた。

 冷たい夜風が部屋の中に流れ込む。

 月明かりが照らす床を黒の影がよぎった。


 寝室に冷たい風が流れ込んだ。

 ベッドに眠る体は、僅かに唸ると、全身を布団で覆い隠す。

 そこに、影が差した。

 黒い輪郭寝室に踏み入れ、枕の横に、ギシリ……と手を付く。

 身を屈め、唇を動かした。

 すると布団からくぐもった呻き声が上がる。

 枕から離れながら、体を丸めた。

 遠ざかった体を、男は見下ろす。

 深淵の中に沈む瞳に、長い睫毛が影を落としていた。

 やがて、衣擦れの音も立てず、ベッドから離れる。

 リビングを進みながら、全身が暗闇のなか溶け込む。

 ベランダの手前でその姿が消え、開いた窓から冷たい風が流れ込んだ。

手書き+AIのべりすと

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