6話:来訪
「智也っ!大変だぁ!!」
ドライブから慌てて帰ってきた親父がリビングに駆け込んで来た。
今日は確か会社の部下の女性と夕食を食べてくると言っていたのにこんなに早く帰ってくるなんて、まさかドライブで何か大失態でもしたのかと残念な考えが脳裏をよぎる。
「俺、再婚することになってしまった!」
「えっ!?」
「押しに押されて、断り切れずO.Kをしてしまったんだ!」
これまで亡き母さんを想って、頑なに再婚をしなかった父親。
なのにいきなりな宣言に俺は青天の霹靂だった。
父親の言った言葉の意味を理解した俺はまずは落ち着けと冷蔵庫から麦茶と間違えて、夕飯で使う為に作っていた出汁を父親に進めていたが飲んだ本人も気付かない程の動転した様子だった。
「それで相手は誰?」
はっきり言って、今日のドライブの相手だと思っているが一応確認のために聞いている。
「相手は今日一緒にドライブした会社の部下だ」
だよね〜。
「どうしてそうなった?相手の名前は?何歳だ?」
まだ親父は動転しているのか矢継ぎ早に問われる質問に一生懸命答えてくれるが……。
「……今日は予定通り、ドライブに行ったんだよ。会社の部下の車好きの女の子とな」
それは聞いている。聞いているが親父も心の整理をする為に自分に言い聞かしているのだろう。
「それで?」
「休憩で道の駅に寄ったんだ。そしたらな……女、女、女!店員も客も全部、女性!」
「……」
これは今日、俺が感じた違和感を親父も感じていたのだと気付く。
「余りに男を見かけないから最初はイベントか何かかと思ったんだ。でもな、警備員まで女性なんだぞ?」
親父は俺を真っ直ぐ見て、震える声で言った。
「俺とお前以外の男を今日は一人も見てない!」
うん、この世界の男女比がおかしいことになってるって、知らずに普段と変わらない感覚で外に出れば、困惑するのは当たり前だ。
だが今はそれよりも親父の再婚の方が俺にとっては一大事だ。
「それについては後で説明するけど、なんで再婚を了承したんだ?」
「その……普段、職場ではそんなことなかったんだが……今日は何故かやたらと押しが強くてな……最初は冗談だと思って、断っていたんだが……2回断ったところで泣かれてしまって……つい了承した」
うん、涙は女の最大の武器とも言うし、親父じゃなくても断るのは困難だったと思う。
「相手は相沢香菜さん。年齢は確か20代後半だったと思う」
親父の年齢は今年で45歳。少なくとも15歳以上離れている年の差カップル。
それにしても俺も親父も落ち着いているようで落ち着いていない。
お互いに出汁を飲み干してしまったのでおかわりする。
「智也、このお茶なんか出汁が効いてるな」
当然である。お茶ではなく出汁なんだから。
だけどそんな簡単なツッコミを入れられないほどに俺達は混乱しているのだ。
だが出汁のおかげで脳に栄養が生き渡ったのか俺は冷静になる。
「そう言えば、親父」
「なんだ?」
「さっき、親父が俺と親父以外に男を見ていないって言ってたけど、どうやら世界が変わったみたいだ」
頭にクエッションマークを浮かべる親父にさっき調べた限りのことをテレビやミーチューブを見せなかまら説明する。
「つまり、俺達は知らない間に男女比が1︰100の世界に来てしまったのか……」
「そうみたいだ」
この信じがたい現実に俺達は腕を組んで考え込む。
そして、すぐに親父は思い当たる節があったようでひとりごとのように呟く。
「男女比が変わったことで女性が優位な立場になったのか……だから普段はそれほど積極的でもない相沢さんがあんなにも強引で押しが凄かったのか……」
親父の呟きを聞いて、あれっ?と思い出す。
今日、俺はキャンプの帰りに女神と会い、連絡先を交換している。
なんなら一緒にキャンプに行く、口約束までした。
この男女比が偏った世界なら立花すずさんと簡単に付き合えるのでないだろうか……。
俺の下心は音速を超えて、軽々と大気圏を突破していく。
ピロロロ!ピロロロ!
そんな妄想に励んでいると親父のスマホが鳴り、現実へと引き戻される。
「あ、相沢さんだ……」
ここが今までの世界とは違うことを聞かされた親父はまだ心の準備が出来ていないのか恐る恐るスマホを取り、通話ボタンを押す。
「え、いや、大丈夫だけど……」
心の動揺が収まっていないのだろう。
いつもの親父とまるで別人のような応答だ。
「え、流石にそれは……いやいや!そんなことはないが…………わかった」
通話時間は1分もなかったが親父の表情には焦りと困惑が浮かんでいた。
「すまん、智也」
「何が?」
親父は物凄く言いづらそうに切り出す。
「さっき言っていた相沢さんだが俺と結婚する訳だから智也にもちゃんと挨拶したいともうすぐ家に来るみたいだ。婚姻届を持って……」
この時、俺達はまだこの世界に生きる女性達のスーパーアグレッシブさを舐めていたことを痛感した。
親父が10歳以上も年下に押し切られる訳だぜ。
ピンポーン!
家のインターホンが鳴り、ハンターが着いたことを告げる。
どうしよう、俺もまだ心の準備が出来ていないのだが合わない訳にはいかない。
「親父、俺着替えてくるから迎え入れておいてくれ」
とりあえず、部屋着では不味いので自室で見られても困らない格好に着替えるのであった。
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