4話:違和感
キャンプの帰り、立ち寄ったコンビニで俺は女神に出会った。そう思った。
それぐらい彼女は綺麗だった。
目が合ったまま、お互いに何も言わない時間が続く。息をすることすら忘れていたかもしれない。
だけど、このままではいけないと勇気を振り絞って話し掛ける。
「お、俺、大好きで憧れていたんです!」
「……えっ!?こ、告白?!」
しまった!焦って主語が抜けてしまった。
「あっ!?バ、バイクです。それでつい見惚れていました」
「バ、バイクの話だったのね……そ、そうよね…」
場に気不味い空気が立ち込める。
俺自身、コミュ症でもないし女性に対して、不慣れということもないと思っていたが、この人の前では上手く話せないし、今ではバイクよりも彼女のことの方が気になり始めている。
これはもしや……一目惚れしたか?だとしたら、せめて連絡先を交換まではしたい。
「き、今日はツーリングですか?」
「は、はい!ツーリングのついでにか、会社の部下達がバーベキューを開いてくれて……」
恥ずかしいのか顔を真っ赤にしながらも、答えてくれる彼女が可愛いと思ってしまう。
「お、おにーさんもこれから、ど、何処かに行くの?」
「じ、自分はキャンプの帰りで……立ち寄ったところです」
「えっ?!ひ、1人でっ?!」
1人がそんなに珍しいのか、いや友達がいない淋しい奴って思われたのかもしれない。
せっかく会話に成り掛けていたのに何とか挽回しなければ!
「と、友達がいないわけじゃないですよ!ソロキャンプしてみたくて!」
「え〜!?お、男の子が1人でキャ、キャンプ?!」
あれ〜?1人でキャンプってそんなに珍しいことなのか?
「へ、変ですかね?」
「ぜ、全然!良いと思います!む、むしろ私もキャンプしてみたいです!」
会話が何か変だがこれはチャンスなんじゃないか?意を決して勝負にでる。
「じゃ、じゃあ、良かったら今度、一緒にキャンプしてみますか?……なんちゃって」
「ぜひっ!!お願いしますっ!!」
まさかの食い気味なOKに驚きを隠せないが成功したみたいだ。
「じゃあ、連絡先交換しますか?」
「は、はいぃ!!」
お互いに震える手でメッセージアプリを交換して、ある事に気付く。
そう自己紹介をしていないことに。
「あ、あの俺、『白石 智也』って言います」
「わ、私は『立花 すず』です」
今更の自己紹介にまた変な空気になる。
居た堪れなくなった俺は目的は達成したし退散することにする。
「今度、連絡しますね」
「ま、待ってます!」
「それじゃあ、ツーリングとバーベキュー楽しんできてください」
「は、はい!ととととともや君も気をつけてね!」
いきなり下の名前を呼ばれた恥ずかしさを隠すようにヘルメットを被るとバイクに跨がり、エンジンを掛ける。
隣では見送ってくれるのか待ってくれているので「それじゃあ」と一言告げて、ヘルメットのシールドを下げると発進する。
この時、気恥ずかしさから後ろを振り返ることが出来なかった。
▼▼▼
麓のコンビニからバイクで走ること1時間。
無事に自宅に着いた俺はまだそわそわしていた。
メッセージアプリでメッセージを送りたいが相手は仲間とのバーベキューで、盛り上がっているかもと考えると水を差しては悪いと思い、なかなか送ることが出来なかった。
親父は今日、会社の部下で車好きな女性とドライブに行くと、言っていたのでまだまだ帰ってこないだろう。
悶々とする中、親父の車がないことが幸いとガレージの駐車スペースにキャンプで使った道具を広げて、洗浄や手入れを行う。
キャンプから帰ってきたら、まず道具の片付けをするのが親父との決め事だった。
これまでは2人でやっていたことを1人でやると、当然のように倍の時間が掛かるが没頭出来ることがあることは良いことだ。
片付けが終わる頃には冷静さを取り戻したが、彼女との拙い会話を思い出すと、再び気恥ずかしさが込み上げてくる。
火照る顔を誤魔化すようにシャワーを浴び、スッキリした後は自室に戻ると、リュックからカメラを取り出しパソコンにデータを移す。
時刻はまだ昼前、これからキャンプ動画の編集を行う。
編集といってもたいした編集はしない。
基本的に長い動画でもカットと倍速再生を使い、15分か30分で収まるようにするだけだ。
それでも収まらない動画は個別にしたりするが、俺の動画では滅多にあることじゃない。
編集を終え、ミーチューブにアップしようとしたがアカウントがない。
嫌な予感がする。BANされるような動画は上げていないはずなんだが……。
考えてもないものはない。幸いなのはこれまでに撮った親父との動画のデータはパソコンに残っている。
面倒だが新しくアカウントを取得し、動画を上げるのは今度にしよう。
チャンネル名は変わらずに『Wともの部屋』にする。
垢抜けないチャンネル名だが今まで登録してくれていた人達にまた登録してもらいたいと思ってだ。
ちなみに親父の名前は智貴でダブルともの部屋だ。
色々とやっていたら昼を過ぎていた。
冷蔵庫の残りで簡単に調理し、リビングでテレビを観ながら食べる。
何気なくつけたワイドショーを観ているのだが物凄い違和感を感じる。
『それでは本日のニュースです』
初めて見る女性アナウンサーが話し出す。
『昨日、都内で20代女性が50代男性に抱き着くなどの痴漢行為を行ったとし逮捕されました。女性は男性を見たら我慢出来なかったとして容疑を認めています』
「……」
たまにはそんな女性もいるかも知れない。
『◯◯県☓☓市で昨夜、40代男性に対して自身の裸を見せつけるなどの公然わいせつ罪及び男性保護条例違反で20代女性が逮捕されました。女性は自身の欲望を抑えることが出来なかったとして容疑を認めています』
「はぁ!?」
女性が痴漢とかで捕まる事件は無くはないだろう。だけど、こんなにも頻繁に起こるだろうか…。
何よりテレビには女性しか出てこない。それに男性保護条例とはいったい?
俺は気になってテレビのチャンネルを変えるが画面に映るのは女、女、女……。
どの番組を見ても女性しか映らない。
途中、お笑い芸人なのか上半身裸で乳房を揺らしながらのネタには見入ってしまった。
実は俺が知らないだけで今日は『女性しか映ってはいけない日』みたいな祝日が設けられたのかと思い、スマホでニュースサイトをいくつも確認する。
スマホでの確認を終えると、すでに時刻は18時をまわっていた。
俺は力なく、ソファにもたれ掛かり脱力する。
「俺はパラレルワールドに迷い込んだのか……」
ニュースサイトやミーチューブ、果てはエロサイトも確認したが出てくるのは女、女、女……。
確認の割合は1:1:8。
エロサイトでは同性愛で検索したが女性同士の動画しか出てこなかった。
ボンヤリと天井を眺めながら考える。
女性が多い世界、不都合はないのではないか?男の俺は大勝利なのでは?とそこで明後日から大学が始まることを思い出す。
慌てて大学のサイトを開き、学生IDを打ち込む。
「良かった〜」
4月から新入生として登録されていることに安堵する。
これでフリーターにならなくて済む。
よく分からない安堵を覚えていると玄関の扉が乱暴に開けられ、廊下を走ってくる音が聞こえた。
ドタッドタッドタッ!!!
「智也っ!大変だぁ!!」
ドライブから慌てて帰ってきた親父がリビングに駆け込んで来たのであった。
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