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貞操観念逆転世界で100分の1の出会い(年上女性と年の差恋愛)  作者: くろのわーる


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15/15

15話︰日付



 その日の昼過ぎ、世間は平日だが大学入学前の俺は家でダラダラと過ごしていた。


 今更、高校など怖くて行けないのだ。


 テーブルの上に置いてあったスマホが小さく震えた。


 心臓が一拍遅れて跳ねる。


 画面を確認する前から、着信音で相手が分かってしまう。


すず︰お疲れさま。お昼、ちゃんと食べてる?


 たったそれだけの一文なのに、胸の奥がじんわりと温かくなる。


 昨日までは「憧れの人」だったはずなのに、今はこうして日常に溶け込んできている。


智也︰お仕事お疲れさま。ちゃんと食べましたよ!すずさんは?


 送信してすぐ、少し間が空いた。その数十秒がやけに長く感じられる。


すず︰私は軽めに済ませちゃった。昨日、ちょっと食べ過ぎたからね


 思い出すのは、レストランで見せたあの表情。


 完璧に見えて、ほんの少しだけ隙があった大人の女性の笑顔。


 昨日は終始、恋愛熱で浮かされていたがそれでも素敵な笑顔だった。


智也︰それなら今度は俺が軽めのお店探しますよ


 勢いで送ってから、しまったと思う。


 今度はなんて言っていいのか?でも、既読はすぐについた。


 しばらくして届いた返信は俺の予想よりずっと柔らかかった。


すず︰ふふ……じゃあ、期待してもいいのかしら


 その一文を見た瞬間、胸の奥で何かが確かに弾けた。


 冗談とも、本気とも取れる絶妙な距離感。でも、拒まれてはいない。


 むしろ、少しだけ扉が開いた気がした。


智也︰はい。今度はちゃんと俺がリードします!


 昨日のすずさんリードのデートを体験して、あんなに良かったデートを自分が出来る自信がなく、指が震えていたけれどもう消さなかった。


 しばらくして、スマホが再び震える。


すず︰頼もしいわね。じゃあ……今週のどこか、空けておくわ


 画面を見つめたまま、思わず息を止めていたことに気づく。


「よっしゃー!」


 今週、まだ確定ではないけれど、約束と呼んでもいい言葉。


 昨日のデートが夢じゃなかった証拠。


 スマホを胸に引き寄せ、天井を見上げる。


 すずさんの笑顔、声、香水の香り。


 そして今度は、自分がどう隣に立つのかを想像する。


「……よし」


 小さく呟いて、俺は立ち上がった。


 昨日は知らない日常に連れていってもらった。


 でも次は俺が守る側で隣に並ぶ番だ。


 まだ大人に成り切れてない俺とは距離はある。経験も余裕も足りない。


 それでもすずさんと同じ景色を同じ目線で見たい。


 その気持ちだけはもうはっきりしていた。


 今の俺ではナンバーワンは難しいけど、オンリーワンなら出来るはず。


 ワクワクする時間は過ぎるのが早く、窓の外では夕方の光が少しずつ色を変えていく。


 昨日の夕焼けとは違う、始まりの色だった。



 その日の夜、ベッドに腰を下ろしてスマホを眺めていると画面が静かに光った。


 心臓が条件反射みたいに跳ねる。


 名前を見なくてももう分かってしまう。


 だって、世界が変わってから俺の連絡帳は片手で足りるまで減っていたから……。


すず︰智也君、今少し大丈夫?


 「少し」なんて嘘だ。


 今、この瞬間のためにずっと待っていた気さえする。


智也︰はい、大丈夫ですよ


 送信してから、変に姿勢を正してしまう自分に苦笑する。


すず︰この前の話なんだけどね、今週の土曜日、空いてるかしら?


 画面を見つめたまま、息を止めてしまう。


 今週の土曜日。


 曖昧だった約束が具体的な「日付」になる。


 それだけで意味がまるで違ってくる。


智也︰空いてます!ぜひ、お願いします!


 即答だよね、考える余地なんていらない。


 少し間があって、またメッセージが届く。


すず︰ふふ、よかった。じゃあ…今度は智也君のおすすめ、聞いてもいい?


 胸の奥が、じわっと熱くなる。


 頭の中で、一生懸命に調べた店の名前や雰囲気が一気に巡る。


 気取らないけど、落ち着いていて、話ができる場所。

 「背伸びしすぎない」けど、「子どもっぽくもない」。


 そして、すずさんになるべく迷惑をかけない場所。


 というのもデートが終わった後、不思議に思ったことがあった。


 それはあまりにも女性に会わなかったこと。


 恐らくだがすずさんは男の俺のことを気付かって、人が少ない場所を選んでくれていたのだと思う。


 見えないところでも守ってくれていた、すずさんの笑顔を思い浮かべながら、ゆっくり文字を打つ。


智也︰実は前から気になってた小さなカフェがあって、静かで長くいられる場所なんです。もしよければ、そこに行きませんか?


 送信。


 返事を待つ数十秒が、やけに長い。


 断られたらどうしよう、なんて今さらな不安が顔を出す。


すず︰いいわね!智也君が選んでくれたなら、行ってみたい!


 思わず、声が漏れた。


「……っ」


 胸の奥で、確かな手応えが生まれる。


 すずさんから、さらに続けてメッセージが届く。


すず︰じゃあ、土曜日の午後。今度は家まで迎えに行ってもいいかしら?


 午後、昼でも夜でもない、ゆっくりと話せる時間帯。


 それが、妙にリアルで嬉しかった。


智也︰はい!すずさんが来るの待ってます!


 送ったあとで気づく。


 「待ってます」なんて、初めて自然に使った気がする。


 すずさんからの返事は、少しだけ間を置いて届いた。


すず︰嬉しいわね!じゃあ…当日はよろしくお願いね!智也君


 その一文を何度も読み返す。


 「よろしくお願いね!」。


 デートの約束として、こんなに大人でこんなに優しい言葉があるだろうか。


 メッセージのやり取りだけでまた恋愛熱に浮かされる。


 スマホを置き、ベッドで寝ながら天井を見上げる。


 ……2回目のデート。


 昨日の余韻の延長じゃない。


 お互いをもう少し知るためのちゃんとした時間。


「……よし」


 再び小さく呟いて、拳を握る。


 今度は隣に立つだけじゃない。


 同じ速さで同じ方向を向いて歩くためのデートだ。


 カレンダーに、土曜日の予定を入れる。


 その日付はもうただの週末じゃなかった。


 少し先の未来が静かにでも確かに形を持ちはじめていた。



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