11話︰夕陽と記憶
アウトドアショップを出た時、空はまだ明るく、夕方には少し早かった。
両手には紙袋。中身は今日のアドバイザーである俺がすずさんのために選んだ小物でテントやタープなどの大物ギアは結局、見送ることにした。
「思ったより長居しちゃったわね」
すずはそう言いながらも、ここまでほぼ完璧に予定をこなせているのでどこか満足そうだ。
「はい。でも……俺ばっかり楽しんでいました」
「そんなことないわよ」
車に戻り、エンジンをかけると街中を流すような法定速度で走る。
「この後、なんだけど」
すずはハンドルを握ったまま、さらっと言った。
「ディナー、予約してあるの」
「……ですよね」
「当然みたいに言うじゃない」
何だか自分の行動や考えが読まれているように感じるが嫌悪感なく、受け入れてくれる智也により親近感が湧く。
「だって、すずさんですし」
智也はそうは言ったが半分本当で半分は嘘である。
最初から誘われなかったら、自分から誘う気でいたのだ。
すずは智也の発言で一瞬だけ口元を緩めた。
「時間まで、少し余裕があるわ」
ナビに表示された現在時刻と予約時間。その間には確かにぽっかりと空白があった。
「どこか寄ります?」
「ううん。……ただ、走ろうかな」
カーナビに目的地を入れずに、すずは車を流すように走らす。
車は住宅街を抜けてから、少し開けた川沿いの道へ。
窓の外では夕陽が水面に反射して、オレンジ色に揺れている。
「静かですね」
「うん。この時間好きなの」
会話が少なくても、気まずくならない沈黙。
それが予定になかった“デートの後半戦”に入った合図みたいだった。
信号で止まった時、すずがふとこちらを見る。
「智也君、今日ここまでどうだった?」
「どう、とは」
「初デート」
ストレートな物言いに一瞬、言葉を探す。
「……まだ緊張はしてます。でも」
俺は正直な気持ちを選ぶ。
「また、すずさんとデートしたいです」
信号が青に変わる。
「もう約束したじゃない」
その一言が胸に残る。
川沿いの小さな公園に車を停め、少しだけ歩くことにした。
ベンチに並んで座る。昼とは違って、風が少し冷たい。
「寒くない?」
「平気ですよ」
そう答えた直後、すずが自分のジャケットを肩に掛けてくる。
「……平気って言いましたよ」
「知ってる。でもこれは、私のしたいこと」
男前か女前かわからないが格好良過ぎて、反論できないが男としての矜持から少しだけ反抗はする。
俺は立ち上がると自分が着ていたスプリングコートを脱いで、すずさんの肩に掛ける。
「二番煎じだけど、これは俺がしたいこと」
「ふふ、ありがと」
隣に座る距離は、触れないけど近い。
沈む夕陽を並んで眺めながら、すずがぽつりと言った。
「ねえ、智也君……一緒に写真、撮らない?」
「え、ここでですか?」
「うん。今日の記念に……ツーショットで」
少し照れながらも、スマホを取り出す。
二人で肩を寄せ合い、オレンジ色に染まる水面を背景に一枚。
「ふふ、いい思い出になりそうね」
共有した写真を見せ合いながら、二人の頬が少し赤くなる。
ささやかな笑顔が交わされ、静かな時間がさらに柔らかく、長く感じられた。
「こういう時間ってね」
「はい」
「ランチやディナーより、記憶に残ったりするらしいの」
「らしいのって、曖昧ですね」
「ネット情報だから……ふふ」
ネット情報とは言え――その“記憶”に自分が含まれていることが、何だか嬉しかった。
「そろそろ、行きましょうか」
立ち上がるすずに続いて、ベンチを離れる。
空はすっかり夕暮れ色。
この後に待っているディナーがただの食事じゃないことをもう分かっていた。
男女比が変わった世界での初デートはまだ終わらない。
ブックマーク、★評価よろしくお願いします。
励みになっています。




