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霧の予報士  作者: 海堂
3/5

森の守り手

翌朝、ショウタはエルナと共に街外れの森へ向かっていた。行方不明者の捜索隊に加わるという話だ。アルベルトからは「霧が深まる時間帯を予測してほしい」と頼まれている。


「君、怖くないの?」


道中、エルナが突然声をかけてきた。歩きながらも、どこか柔らかい表情をしている。


「いや...正直、怖いよ」


ショウタは苦笑いを浮かべながら答えた。


「でも、怖がってる暇なんてないんだろう?みんなが期待してくれてるみたいだし」


「それだけじゃない」


エルナは立ち止まり、ショウタの顔をじっと見つめる。


「君は、私たちがこの街を守るために必要な人だから」


その言葉に、ショウタは胸が熱くなるのを感じた。自分が必要とされている。そんな実感は、今までの人生で一度もなかったかもしれない。


森の中に入ると、湿気が肌にまとわりつくような感覚がする。深い霧が立ち込め、視界はほとんど効かない。


「気をつけて」


エルナの声が緊張感を帯びる。


「この霧は普通じゃない。何かが潜んでいる気配がする」


しばらく進んだ先、突然ショウタの体が反応した。全身を駆け抜ける悪寒、そして脳裏に浮かぶ「何かが来る」という直感。


「止まって!」


声を張り上げると、エルナたちが立ち止まる。その直後、茂みの奥から異形の影が飛び出してきた。


「くそっ!」


エルナが剣を抜き放ち、一閃。銀色の刃が霧の魔物を斬り裂く。しかし、魔物はかすかな悲鳴を上げたかと思うと、霧の中へと消え去る。


「次、左!三秒後に来る!」


ショウタの叫びに従い、エルナが再び剣を振る。ショウタの予報は次々に的中し、捜索隊は少しずつ優勢に立つことができた。


戦闘が終わり、隊員たちは安堵のため息をついた。


「君の力、本物だな...」


エルナが言葉を漏らす。


「でも...この力、何かが引き寄せられている感じもする」


その言葉に、ショウタは不安を覚える。それでも、今は進むしかない。


暗い森の中を、捜索隊は慎重に進んでいく。木々の間を縫うように立ち込める霧は、通常のものより濃く、ショウタの神経を否応なしに刺激していた。


「行方不明者の最後の目撃場所は、この先です」


エルナの横で、若手騎士のマークが地図を広げながら説明する。額には緊張の汗が浮かんでいる。


「三日前、薬草採りに来ていた老婆が、霧に巻かれたまま消えたと...」


その言葉に、ショウタは眉をひそめた。霧に"巻かれた"というのは、比喩ではないような気がする。確かに、目の前の霧は意思を持ったかのように蠢いている。


「待って」


突然、ショウタの体が強く反応した。まるで全身の細胞が震えるような感覚。今までに感じたことのない強い予感が、彼を捉えて離さない。


「この先...なにか、いる」


言葉にするのも難しい存在感だった。これまでの霧の獣たちとは明らかに違う、より原初的で、より強大な何かが。


エルナは無言で剣を構える。他の騎士たちも、弓や槍を手に、態勢を整えた。


そのとき、前方の霧が渦を巻き始めた。ゆっくりと...しかし確実に、一つの形を作っていく。現れたのは、人の形をした巨大な影。しかし、その姿は霧そのものでできているようで、風に揺らめきながら実体と非実体の間を行き来していた。


「まさか...」


アルベルトが息を呑む。「これが、伝説に記された"霧の守り手"...?」


その言葉が終わらないうち、霧の人影が動いた。一瞬で距離を詰め、巨大な腕を振り下ろす。


「危ない!」


ショウタの警告で全員が散開する。地面を打った霧の腕が、轟音とともに地面に穴を穿った。


「通常の武器は効かないわ!」


エルナの剣が霧を切り裂くが、傷口は瞬時に修復されてしまう。


「あそこ!」


ショウタは叫んだ。霧の人影の中心部に、かすかに青白く光る核のようなものが見える。動きを読んでいるうちに、その存在に気がついた。


「核を狙えば...!」


「了解!」


エルナは即座に理解し、剣を構え直す。


「でも、あの高さまでは...」


「任せて!」


マークが弓を引く。「誘導してください、予報士殿」


これまでにない緊張感が、ショウタの全身を貫く。霧の守り手の次の動きを、必死で予測する。


「三秒後、右から攻撃...その隙に、胸の辺りが開く!」


暗い森の中を、捜索隊は慎重に進んでいく。木々の間を縫うように立ち込める霧は、通常のものより濃く、ショウタの神経を否応なしに刺激していた。


「行方不明者の最後の目撃場所は、この先です」


エルナの横で、若手騎士のマークが地図を広げながら説明する。額には緊張の汗が浮かんでいる。


「三日前、薬草採りに来ていた老婆が、霧に巻かれたまま消えたと...」


その言葉に、ショウタは眉をひそめた。霧に"巻かれた"というのは、比喩ではないような気がする。確かに、目の前の霧は意思を持ったかのように蠢いている。


「待って」


突然、ショウタの体が強く反応した。まるで全身の細胞が震えるような感覚。今までに感じたことのない強い予感が、彼を捉えて離さない。


「この先...なにか、いる」


言葉にするのも難しい存在感だった。これまでの霧の獣たちとは明らかに違う、より原初的で、より強大な何かが。


エルナは無言で剣を構える。他の騎士たちも、弓や槍を手に、態勢を整えた。


そのとき、前方の霧が渦を巻き始めた。ゆっくりと...しかし確実に、一つの形を作っていく。現れたのは、人の形をした巨大な影。しかし、その姿は霧そのものでできているようで、風に揺らめきながら実体と非実体の間を行き来していた。


「まさか...」


アルベルトが息を呑む。「これが、伝説に記された"霧の守り手"...?」


その言葉が終わらないうち、霧の人影が動いた。一瞬で距離を詰め、巨大な腕を振り下ろす。


「危ない!」


ショウタの警告で全員が散開する。地面を打った霧の腕が、轟音とともに地面に穴を穿った。


「通常の武器は効かないわ!」


エルナの剣が霧を切り裂くが、傷口は瞬時に修復されてしまう。


「あそこ!」


ショウタは叫んだ。霧の人影の中心部に、かすかに青白く光る核のようなものが見える。動きを読んでいるうちに、その存在に気がついた。


「核を狙えば...!」


「了解!」


エルナは即座に理解し、剣を構え直す。


「でも、あの高さまでは...」


「任せて!」


マークが弓を引く。「誘導してください、予報士殿」


これまでにない緊張感が、ショウタの全身を貫く。霧の守り手の次の動きを、必死で予測する。


「三秒後、右から攻撃...その隙に、胸の辺りが開く!」


マークの矢が放たれる。しかし霧の守り手は、まるでそれを予期していたかのように体をくねらせ、矢を躱した。


「もう一度...今度は、エルナさんの動きに合わせて!」


ショウタは霧の流れを凝視する。その動きには、かすかな規則性がある。まるで太古からの舞いを踊るような...。


「エルナさん、左から!マークさん、その三秒後...今だ!」


エルナが剣を振るい、霧の守り手の注意を引く。その瞬間、マークの矢が放たれ、青白い光る核を直撃した。


「グォォォォ...」


地鳴りのような唸り声が森中に響き渡る。霧の巨人が大きく揺らめき、その姿が歪み始めた。


「やった...!」


歓声が上がったその時、ショウタの背筋が凍る。霧の守り手の姿は確かに崩れかけている。しかし、その霧が...新たな形を作ろうとしているような。


「逃げて...!」


叫び声と共に、霧が爆発的に膨張した。視界が真っ白になる中、ショウタは咄嗟にエルナの手を掴んで走り出した。


「待って、あっちは...!」


霧の流れが見える。どちらが安全なルートなのか、直感的に分かる。エルナの手を引きながら、必死で仲間たちを誘導する。


爆発的に広がった霧は、まるで追いかけてくるかのように迫ってくる。それでも全員が何とか安全な場所まで退避できた。


霧が晴れていくと、そこには...。


「これは...」


アルベルトが声を震わせる。霧の守り手がいた場所に、古びた石碑が姿を現していた。その表面には、見慣れない文字が刻まれている。


「古代の文字...」


アルベルトが石碑に近づき、文字を確認する。


「これは...驚くべきことが書かれています」


「何だって?」


エルナが尋ねる。アルベルトの表情は、困惑と驚きに満ちていた。


「この街の...いや、この世界の運命を左右するかもしれない」


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