異文化コミュニケーション
「お、お前たち!あいつらを殺せ!!」
「「「「「!、キュ、キュィィィィ!」」」」」
「あ」
そうだ。いま四面楚歌状態だった。周りにめっちゃギャラリーいたんだった。
バタンッ!!
ダダダッ
「デストロイ様!一体なにが起こっ……!!、こっ、これはっ!?」
「(あー)」
我らが珍獣軍もさすがに異変に気付いたのだろう。重そうな扉をこじ開けてどっと室内になだれ込んできた。これ、マズイんじゃない?かなりの修羅場なんじゃ……と、ハラハラしていると、ふいに視界の隅で褐色の指が動いた。
スッ
「たった今、034との同盟は解消された。この星の奴らを皆殺しにしろ」
「!!(なっ)」
「「「「「は、はいっ!」」」」」
シャキンッ!
ロイの声に構成員たちが一斉に剣を抜く。え、ヤダ、殺すとか無しにしようよ。そりゃ向こうが最初にロイを抹殺しようとしたワケだから因果応報ってゆうか自業自得かもしれないけど、でもセーフだったじゃん?今生きてるじゃん??って、そうゆう問題じゃないんだろうけど……でもでも、死ねとか殺せとか嫌なんだって!ほら歌にもあるじゃんか、モグラだってイグアナだって、みんなみんな生きているんだって!!
ガシッ
「!!」
「……ふんっ!」
パァァァッ
藁にもすがる思いで私はロイの腕を掴んだ。そして試みた。彼だけが、アジトに飛んでいけるように。
シュンッ
……
「(!、できた!?)」
「!!なっ、デストロイが消えた!?」
「デデッ、デストロイ様!?」
「どうゆうことだ!?」
成功したのかどうか分からないけど、ロイが忽然と姿を消したことで場は騒然となった。……チャンスだ。大将が行方不明では、もう戦どころじゃない――私はチーム・デストロを見渡して、一番強そうな虎っぽい珍獣に向かって叫んだ。
「隊長ー!デストロイ様は我らの星に戻られたのかもしれません!消える間際に、全員すぐにアジトへ……的なことを仰っていました!!」
「なっ、それは誠か!?」
「はい!しかと、この耳で聞きました!」
「くっ、ひとまず戻るか。皆の者、船に向かえ!」
「「「「「はっ!」」」」」
「(よっしゃ!)」
よし、とりあえず戦いは回避できたみたいだ。まあロイのことだから後で何か仕掛けそうだけど、その時はその時だ。全力で阻むとしよう。
バタバタッ
バタンッ、シュゴォォォッ
そんなこんなで、キョトン顔のモグラとイグアナを放置して私たちは砂の星から飛び立った。……ロイ大丈夫かな?ちゃんとイメージした所に飛ばせたかな?初めてやった事だから正直ちょっと心配だ。
数十分後。
ひゅぅぅぅぅ
「貴様、俺に何をした」
「え?なにがですか??」
「……」
不安な気持ちはすぐに吹っ飛んだ。アジトに着いてロイの間を訪れると、彼はすでに椅子にふんぞり返り、細い指を肘掛けにトントンさせていた。
「いやあ、それにしてもビックリしましたよ、突然お消えになるなんて!どこに行ってしまわれたのかなって不安に思ってたんですけど、こちらにいらっしゃってホントよかったです~」
「……」
そして私はカッシーの時と同じく、しらを切ることを決め込んだ。だってバレたら厄介だもの。せっかく楯条約を結んだのに、ふざけんなって解約されそう。なので今回も知らぬ存ぜぬでこの場を切り抜けようと思う。
「……何故あの場所にいた」
「あー!それはですね、もともとデストロイ様の楯になりたいと思ってたので、宇宙船の裏に張り付いてコッソリついて行ってたんです。いや、大変でしたよ!何度も風圧で飛ばされそうになったりしてね。でも、それでも楯になりたかったんで!」
「……」
なんか私ヤバイ奴だな。常軌を逸したストーカーじゃん。だけどテレポートのことは伏せておいた方がいいと思った。だってカッシーがあんなに驚いてたんだから、やっぱりみんながみんな使える技じゃないんだろう。出来る限り、普通の奴でいた方がいい。ただでさえ不死身っていうブッ飛んだ設定持ってんだから。
「……下がれ」
「はっ!」
悪の御曹司はものすごく不服そうな顔をしながらも私を解放した。まあ、そりゃ解せないよね。私が君の立場でもきっと同じ気持ちになるわ。
パタン……
ボロが出てもアレなので速やかにロイの間を出る。……さてと、これからどうするかな?しばらく外出はないんだろうか。だったら追加でシフト出して、こっちの仕事がきた時の為にガッツリ稼いで貯蓄しといた方が……
「あ、アケミくんっ」
「!、アクロス班長」
部屋に背を向けていろいろ考えていると、白衣のドーベルマンに声を掛けられた。って、なぜ班長がここに?そして何か興奮してる?
「あの、どうかしたんですか?」
「ああ、巨大ロボの最終チェックが終わったから、さっそく誰かに惑星017に赴いてもらおうと思ってね。その人選をデストロイ様にお伺いしに来たんだ」
「え」
巨大ロボが地球に……ってことは赤星くんたちと戦うってこと?
「あの、それって誰でも乗れるんですか?」
「?ああ、こちらで用意したIDカードを使えば誰でも搭乗できるが」
「じゃ、立候補します」
「え?」
だって他の奴が行ったら彼らを傷つけかねない。そりゃ最終的にはポリスメンズが勝つんだろうけど、それまでに怪我とか衝突とか、そうゆう辛い思いはさせたくない。
「……では、一緒に来るかね?」
「はい!よろしくお願いします」
その後、私はロイの間に戻り彼の前で立候補演説をした。結果、仮にも地球担当でポリスメンズに一番詳しい私が適役だろうということになり(ほぼ強引に押し切ったカンジだけど)、見事、巨大ロボで地球に行く権利を獲得したのだった。
ズシーン、ズシーン
「おーほほほっ!どうだポリズメンズ!この巨大ロボの前では手も足も出ないでしょうっ!!」
「くそっ!一体どうすれば……!!」
レッド(中の人赤星くん)がダン!とアスファルトを叩く。うわっ、絶対痛いよあれ。今後のホール業務に支障が……とか考えている私は、いま巨大ロボの運転席で絶賛ポリスメンズとバトル中だ。もちろん彼らも街の人たちも傷つけないように、恥ずかしい恰好をしながらも足元には細心の注意を払っている。これ、結構大変だ。悪役っぽく振るまいながら誰にも一撃も与えないって、すごく気を遣う作業だ。早く赤星くんたちもロボ発見してこっちに対抗してくれないかな?
「!、ユウジ!あれを見ろ!!」
「え……、あっ!!」
「(お!?)」
ブルー(中の人、以下略)の声に促されて左側を見ると、曇り空の彼方から光る物体がこちらに向かって飛んでくるのが見えた。あれは、もしかして……
キィィィィィンッ
「!、あれは、宇宙科学庁が開発を続けていた巨大ロボ……コスモマシーンだ!!」
「ホントに、グリーン!?」
「え?」
「あ、いや。な、なにぃぃぃぃ!?」
思わず喜んでグリーン(中のひ、以下略)に問いかけてしまった。ふう~危ない危ない。ここは驚きつつ悔しがっておいた方がいいだろう。巨大ロ……コスモマシーン?は、地に足をつけると白い光を出して赤星くんたちをスゥッと体内に取り込んだ。いいな、ああやって乗り込めるんだ。こっちは原始的に長い梯子をハッチにかけて冷や冷や搭乗したのにさ。
「よっしゃー、現状打破だぜ!覚悟しろ、デストロイザー・アケミ!!」
「くっ、こしゃくな!」
ああ、良かった良かった。これで神経をすり減らす仕事から解放される……。
その後、私はほどよく当たらない攻撃を放ち、もういいかな?というタイミングでギャァァとやられ、最後に覚えてろよ、と悔しがるふりをして迅速にアジトに戻ったのだった。
ザシュッ
そしてロイに処刑されたのだった。いや、効かないけどね。
スタッ
「申し訳ありません、デストロイ様。まさか、あやつらも巨大ロボを所持していたとは……」
「……」
とりあえず片膝をついて、言葉に驚きと反省の色を滲ませてみる。頭を下げてるからロイの表情は見えないけど、殺気らしきものがこちらに向けられていることはさっきからビンビン感じている。そりゃそうだ。自信満々にアピールして巨大ロボに乗ったのに、そのロボを故障させてボロ負けして帰ってきたんだもの。あ、ロボだけにボロ負け……
コンコン……
「デストロイ様、重大なご報告が……」
「……入れ」
「(うん?)」
アクロス班長の声だ……何か暗いな。班長はギィッと慎重に扉を開けると、深刻な表情でロイの間に入ってきた。
「先ほど、巨大ロボの故障した箇所を確認したのですが、一つ大きな問題が……」
「なんだ」
氷のような青い瞳が班長を射抜く。アクロスさんは体を固くしてゴクリと唾を呑み込むと、犬歯の並ぶ口をゆっくり開いた。
「中枢システムの一部が破損したことにより、搭乗者の変更が出来なくなってしまいました……」
「(え!)」
「ほう……」
スッ
!!、またコイツはっ
バッ!
ザシュッ
「!!、アケミ殿!!なぜ私を庇っ」
「不死身だからです」
「どけ」
「!」
……
振り返ると、冷たい瞳が私を見下ろしていた。
「どけと言っている」
「……どきたくありません」
「……どうすればよいのだろうな」
「え?」
ふいにロイが視線を落として呟いた。え、なに?急にどうし……
「どうすれば、貴様の顔を苦しみに歪めることが出来るのか」
「!!」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。でもその意味を理解した途端、体中の細胞がギュッと小さくなった気がした。
「……」
「……」
なんでよ……。なんでそんなこと真剣な顔で言うのよ。そりゃロイにとって気に食わないこといっぱいしてきたかもしれないけど、メリットだってあったでしょ?楯になったり(ならなくても無事だったかもしれないけど)、ロボ持ってきたり(いずれゲットできたかもしれないけど)色々やっ……あれ、意外と少ないな。いやでも何か、ナンカさ!
「あの……なんか他にないんですか?」
「なに?」
「私の印象」
「……印象?」
「(……え)」
なんだその反応は……。眉間に皺寄せてるからキレてるようにも見えるけど、でもちょっと違うような。ザシュリも飛んでこないし。あ、もしかして言葉の意味がわからないのかな?いや、だけど小学校レベルの単語だよね。くそっ、分からん。もっとはっきりリアクションしくれればいいのに。
「あのー……私はですね、日々デストロイ様を見ていて色んな気持ちになるんですよ。基本的に不条理さを感じているんですけど、たまに真面目だなって感心したり、純粋だなって和んだり……つまり、一面じゃない。あなたの色んな面を見てその度に印象が変わるんです。あなたはどうですか?私のことちゃんと見てくれてます?興味ないと思うけど、私は見て欲しい。そしたらたぶん、ただの嫌な奴じゃなくなると思いますよ!」
「……」
……
シーンとしちゃった。あれ、なんか変なこと言ったな私。おかしいな、ロイの感情がどんなものでも大丈夫なようにグレーな返答をしたかったのに、すごい気持ち悪いことを述べてしまった気がする。え、どうしよう。どうすんのこの空気……
「貴様はなぜ、そんなに喋るのだ」
「へ?」
え、なに?なんだって?
「……」
「……」
ちょ、何で黙ってるんですか。なんで青い瞳をコッチに向けっ放しなんですか。おーい、喋ってくれよう!もういい、ザシュリでも何でもいいから、とにかく動いてデストロイ様!
「あ、あのー……」
「……」
「ええっとー、なんで喋るかってお聞きになられたんですよね?それは私のマシンガントークのことを言ってるんですか?そうですよね?ああー、これは幼少期からの癖ですね。何で?って聞かれたことないんで今考えてる次第なんですけど、うーん、おそらくテンションですかね?気持ちがガーッってなった時に喋り始めると止まらなくなるってゆうか、つまり、発散?一言じゃ片付かないどうしようもない気持ちを発散しつつ整理すために喋ってるっていう、そうゆうメカニズムなんじゃないでしょうか。……ってゆう答えで大丈夫ですか?」
「だから俺は殺すのだが」
「え?」
「なぜ貴様は邪魔をする」
「うん??」
なんだ?なんかダメなAIと会話してるみたいになってきたぞ。だからってなに?何に掛かってるだから?
「どうしようもないから殺すのだ」
「!」
ええー、なにそれ!なんでそうゆう話になるの!?これが異文化コミュニケーションの壁ってやつ……?うわあ、どうしよ。何て言えばいいんだろ?
「あのー、殺す必要はないんじゃないですかね?」
「なぜだ」
「いや、だって気持ちを発散させる方法って他にもあるじゃないですか。ヤケ食いするとか、誰かに話すとか旅に出るとか……」
「……」
スッ
あ、ヤバ。ザシュリくる。いやダメだ、この話をこんな歪んだ解釈のまま終わらせるわけにはいかないっ
「た、例えばっ、私はデストロイ様のことを好きになりましたよ!?」
「……なに?」
お、止まった。ヨシきた。怒ってるのか疑問を抱いているのかよく分からないけど、続けよう。このまま勢いで押し切るべし!
「最初は理不尽で冷酷な人としか思わなかったけど、今は(どちらかというと)好きです!でもそれは今日まで生きてきたから思えること、生きてるから変わったんです、そう、つまりはそうゆうこと!人は変わることがある、だから殺すのは勿体ないっ」
「……」
「それまで俺が我慢しなければいけないのか?というご意見もあると思いますが、私は待ったことを後悔させませんっ。必ずやこいつを生かしておいて良かったと思わせて見せます!」
「……」
「思わせてみせます!」
なんとなく二回言ってみた。
「では、一刻も早くポリスメンズを抹殺しろ」
「え……あ、はい」
クルッ
コツ、コツ、コツ
それだけ言うと、ロイはいつもと変わらぬ靴音で淡々と部屋の奥に去って行った。……なんだろう、なんか謎の敗北感だ。いろんな思いを詰め込んで全力でボール投げたのに、目もくれずに避けられたみたいな。あー、なんか疲れたな。いいや、もう寝よ。風呂に入って牛乳飲んで……
「……ア、アケミ殿」
「あ」
班長のことスッカリ忘れてた。