世界のみんなと友だちになろう
「おはようございますっ、デストロイ様!」
「……」
フイッ
あ、普通にシカトされた。もはや殺すこともしないみたいだ。これはこれで精神にくるな。
【前回までのあらすじ】
先日、ロイに消えろと勘当された後(もともとそんな縁はないけれど)、私は自ら傍にいることを願い出たのだった。※あらすじ短かっ!
だって、ちっちゃい子供みたいで放っておけなかったんだもん。よくよく考えてみれば、彼は見た目は青年だけど、つい最近お生まれになったわけで。そして色々教えてくれる両親や親戚の類も周りに居なかったわけで。
それってなんか、フェアじゃない。
「あ、デストロイ様!そういえば今日中に巨大ロボのメンテナンスが終了するってドーベルマ……アクロス班長が言ってましたよ!いやあ、乗れるの楽しみですね!!」
「……」
コツ、コツ、コツ
悪の貴公子はピクリとも表情を変えずに、黙って去って行った。うーん、和解への道は果てしない。
ポンッ
「ドンマウィ」
「!、カッシー先輩」
右肩に重みを感じて振り返ると、あの一件以来、急激に心の距離が縮まった怪人・カッシーが「お前も大変ウィな」的な顔で立っていた。いや表情分からないけど、なんかそんな雰囲気を醸し出している。
「アケミも物好きウィな。あれだけ嫌われて、まだ付きまとうなんて」
「……まあ、ストレスで禿げそうなことは事実ですけど、“あいつ苦手”“じゃあ話さない”、じゃ何も変わらないと思うんで」
「ウィウィ?」
白い仮面がハテナ?と傾く。ちょ、なんか可愛く見えてきたぞ。よし、カッシーにはきちんと胸の内を明かしておこう。どこまで伝わるかは分からないけど。
「ほら、嫌いな人を前にすると、反射的に嫌な態度とっちゃったりするでしょう?そうゆうのって、相手をもっと嫌な奴にしちゃうと思うんですよ」
「!」
「だから、逆にこっちが好意的に話しかければ、相手の心を良い方向に動かす事も出来るんじゃないかなって。最初は本心じゃなくてもいいんです。嘘でも相手を好きだと思って接していけば、いつかホントになることもある気がする」
名づけて“世界のみんなと友だちになろう”作戦だ。あ、世界じゃなくて宇宙か。この作戦には赤星くんの“興味を持とう”という教えが大いに反映されている。ありがとう、師匠。この物語の主人公。
「……アケミが怪人だったら、俺の弟子にしたのウィな」
「!あははっ、ありがとうございます」
ほら、カッシーだって良い奴だった。……あのまま死に別れてたら、この事にも気付けなかった。
「ではっ、行って参ります!」
「ウィッ!」
ざわざわ
ざわざわっ
「―――に行って――を」
「はっ!――は――ですので――」
「いや、――という手も――」
「(よく聞こえない……)」
ロイの後を尾けて長い廊下を進んで行くと前方に大きな部屋が現れた。彼が中に入ると扉は直ぐに施錠され、それから話し合いのようなものが始まった。(なに喋ってるのか分からないけど、たぶん作戦会議だ)ってゆうか、親玉って皆と混ざってなんかするんだ。てっきりあのロイの間から偉そうに指示出すだけだと思ってた。
「――だと思われ――」
「はい、―――の方は―」
そういえば、扉が閉まる前にそこらへんの構成員より明らかに強そうな、像とかライオンっぽい珍獣たちが見えた。確か、あの獣たちはロイが生まれた時も近くにいた。彼らが純デストロの幹部なのかな?誕生を見守ってたってことは多分そうだよね。ってゆうか人間はいないの?ここの構成員は、みんな動物的な何かなの??
ガチャリッ
「(わっ)」
とか色々考えていたら鍵があいた。どうやら終わったみたいだ。とりあえず小さくなってドアの脇に隠れていよう。
ギィッ
コツ、コツ、コツ
「(あ)」
扉が開くや否やロイが数枚の書類を持って出てきた。……あの人、自分で物とか持つんだ。部下には任せられないとか、そうゆう考えなのかな?何にしても、ものすごい違和感……
ひらっ
「!」
驚きつつも少し感心していると、ふいに細い指から紙が零れ落ちた。おーい、落ちたよー?って、気付いてないな。意外とニブイ。よしっ、渡しに行こう。苦手なお友達に接触するチャンスだ。
タタッ
「デストロイ様~っ、落としましたよ~?」
「!、……」
「はいっ、どうぞ!」
バッ!
コツ、コツ、コツ
「(あー……)」
奴は差し出したそれを力ずくで奪うと、何事もなかったようにまたコツコツと去って行った。……うーん。今は、まだガツガツいかない方がよさそうだ。でもだからといって何もしなかったら心の距離は縮まらないし。あー、なんか無いかな?本人にそこまで関わらず、ふわっとお近づきになれる方法……あ。
そうだ!
キュキュキュッ
ゴシゴシッ
「ふう~」
バイト先から掃除用具を拝借して研究部屋の前と付近の廊下をキレイにしてみた。ザ・秀吉の草履作戦だ(ちょっと違う?)。ホントはあの紙で溢れた室内を整理整頓したかったけど、さすがにプライバシーの侵害だし、なにより即ザシュられそうだ。とゆうことで、モップ&雑巾で謙虚にその周辺のみを掃除することにした。うん、我ながらイイよ。床とかこんなにピカピカになっ……
ゾクッ
「あ」
「……」
悪寒を感じて振り返ると、青い目を細めたデストロイ様が社会的距離を保った位置でズズーンと立っていた。……これは、怒ってる?怒ってるよねこの顔は。よし、とりあえず今は去ろう。で、時をみて“清掃終了”の貼紙を……
ガッ
「っ!」
「……ほう、これは苦しいのか」
一瞬だった。ロイが腕を動かしたと思ったら、気が付いた時には褐色の手が私の気道を締めていた。眼前でコバルトブルーが愉快そうに笑う。
ググッ
「はははっ!いい眺めだ」
「っ……」
クソッ、何だよその嬉しそうな顔はっ!あー、やっぱり理解するって簡単じゃないんだな。だって分かんないもん。この人が今なんでこんなに楽しそうなのか。いや、言葉にする事はできる。気に食わない奴が苦しんでいるのを見られて楽しい、きっとそんなところだろう。でも私はこいつと同じ気持ちにはなれない。自分に嫌いな奴がいて、そいつがめちゃくちゃ苦しんでいたとしても私は……
「……」
いや、どうだろうな?例えばもし自分が殺されたとして、その殺した張本人がその後人生をエンジョイしていたとしたら……やっぱり腹立つよね?こっちは痛くて辛くて人生強制終了させられたのに何でお前は笑ってんだ?って……うん、思うかも。自分が悲しい思いをさせられたら、相手にも同じ悲しみをって。あ、ロイもそうゆう感じ?何度も私にイラつかされてストレス溜まってるから、その私が苦しんでるの見て今楽しんでる感じ?……だとすると
「う〜ん、否めないなあ〜」
「……なに?」
「あ」
ヤバ、声に出ちゃってた。ってゆうかもう苦しくないや、さすが不死身パワー。でもロイはまだ手を放してくれなさそうなので、このまま続けることにしよう。
「いや、自分が腹立ったぶん、お前も苦しめって気持ち、分からなくもないなあって。まあデストロイ様のは度が過ぎてますけど」
「……」
「あ、こうゆうトコですよね。すみません」
グググググッ
怒っているようですが続けさせていただきます。
「でも、私たちって一人で生きてるわけじゃないじゃないですか。あ、精神的にじゃなくて物理的にね。周りに自分以外の誰かがいる。それは抗えない現実なわけで。そうなると、私なんかは他人と仲良くしてた方が楽だなって思うんです。怒ったり、恨んだり、不幸になれって思うと疲れる。まあ、自分がそこまで辛い目に遭ったことないから、こうゆう考えになってるんだと思いますけど」
「……」
「あ、駄目だ、何が違う。えっと、つまり、こっちが正論だって言ってるんじゃないんです。他人を苦しめて楽しいって気持ちも……モヤッとするけど否定もできないなって。でも嫌いになる人は少なくしておいた方が体には良い気がしません?私はしょうがないとしても、他の部下のこととかは、ね。いやでも私はデストロイ様のこと嫌いじゃないのであわよくば仲良くしたいですけど」
うん、そうだ、そうゆうことだ。やっぱり私は世界のみんなと友だちになりたいんだ。その絆が浅くても、上っ面でも、嫌っているよりはよっぽどいい。
「……消えろ」
「あ、はい」
ま、そんな簡単には響かないよね。大丈夫、32歳だから。固定概念を変えるのは容易じゃないってことくらい、人並に理解しているよ。
スイッ
ガチャガチャ……
早々にロイの手を抜けて掃除用具を拾う。いかにもスマートに回収したかったけど、残念ながら指が思うように動いてくれなかった。くそうっ。
そんなこんなで地味にかさばるそいつらを抱えて、私は努めて軽快に去った。
数日後。
ひゅぅぅぅぅ
「あ、お疲れさまです。またどこかの調査ですか?」
「いや?今回は護衛だ」
「護衛?」
世界のみんなと(以下略)作戦開始から数日後。廊下を歩いていると、向こうから武装した下っ端C……デモンさんがやって来た。前みたいに甲冑とか剣を装備してたから、てっきり惑星調査かと思ったけど……護衛だって?
「あの、誰の護衛で?」
「そんなのデストロイ様に決まってるだろ!これから惑星034で会談があるんだよ」
「え」
あの人、外出とかするんだ!そして会談なんていう一国の首相みたいなことまでやるのか。先日の会議や研究といい、悪の組織の親玉って意外と仕事してるんだな。
こそっ……
「(ヒソヒソ声)ここだけの話、034はデストロ族に反感を持ってるって噂があるんだぜ?」
「えっ」
「(ヒソヒソ声)だから多勢に無勢ってことで、俺たち調査隊にも護衛の仕事が回ってきたんだよ」
誰にも言うなよ、と口の前であざとく指を立てながらデモンさんは去って行った。いや、あれ絶対いろんな人に言ってるな。皆に言い回ってそのリアクションを楽しんでるタイプだ。
って、それは置いといて。なんかヤバくない?不穏じゃない?つまり敵地に乗り込んで行くってことだよね。まあロイはこの物語のラスボスだから、そこでやられることは無いと思うけど。でも気になるな、ってゆうか興味もある。あいつがどうゆう感じで外に出て他の星の親玉と話し合うのか。
「……行ってみようかな」
うん、行こう、そうしよう。そうと決まればもう一度デモンさんを捕まえてナチュラルにいろいろ聞き出さねば。星の位置と、特徴と……あと今日のスケジュールも。
ヴンッ
「(!おおっ……)」
デモンさんから聞いたロイたちの到着時間に合わせて034にテレポートしてみた。出来た。いや、改めて私ってすごくない?実はこの物語で最強じゃない?という興奮を抑えつつ辺りを見回す。……なんか全体的に茶色くてゴツゴツした星だ。巨大な岩みたいな建物が至る所にあって、中央にはエアーズロック的なもの(いや、そこまで大きくないけど)がドドーンと建っている。うーん、住みたいか住みたくないかって聞かれたら断然後者だな。だって茶色いし(二回言う)砂埃すごいし、めちゃくちゃ生活しにくそうだもの。
シュゴォォォォ
ガコンッ
「(!あっ)」
「デストロイ様、お足元にお気を付けくださいませ」
ここでの暮らしに思いを巡らせていると、間髪を入れずに空から黒い宇宙船が降りてきた。ロイたちだ。彼らは地上に降り立つとエアーズロックに向かってゾロゾロと歩き始めた。やっぱりあそこで外交するのか……。物陰に隠れながらササッとその後について行くと、やがて鎧を着けたモグラっぽい珍獣がいる大きな門が見えてきた。多分あれが入口なんだろう。……不法入国者の私はどう言い訳しても入れてもらえなさそうだ。となると、やっぱりパァァァしちゃう?うん、今なら何でもできる気がする。だって私最強だし(※当社比)
とゆうことで、
パァァァッ
……
ギィィィッ
「デストロ族・首領、デストロイ様のご入室です」
「(!、って、あれ?)」
またしても完璧なテレポートを果たして会談室に忍び込んだ私は、完璧な場所(カーテンの裏)でチーム・デストロが来るのを待っていた。そして待つこと数十分、やっと扉が開いた。しかし、そこに現れたのはロイwith珍獣ブラザーズではなく……親玉一人だけだった。
スタ、スタ……
「おお、デストロイ殿。この度は遠路遥々ご足労いただ……」
「用件はなんだ」
おいダメだよ君、最後まで言わせてあげなよ。ってゆうかお前も挨拶しろよ。
「そちらの要求通り、他の者は外で待機させている。無駄話はいらん。目的を言え」
「ははっ!そうですね、本題に入りましょう」
でかいイグアナみたいな奴が心なしか下品に笑う。……なんかあいつ胡散臭いな。それに引っ掛かる。だってロイをわざわざ一人にさせたってことでしょ?向こうも一人っぽいけど……それにしては余裕が過ぎる。
「では単刀直入に言います。あなたに死んで頂きたいのです」
「(やっぱり!)」
ドザザザザッ!
待ってましたと言わんばかりに天井から無数のモグラ獣が飛び降りて来た。……囲まれた(ロイが)。モグラたちは切れ味の良さそうな爪をシャキンと構えて小さな瞳を光らせている。あーあ、駄目だよ、一人で来いって言われてその通りにしたら絶対こうゆうことになるって。
「……」
「……」
ロイは相変わらずのスン顔で敵の真ん中に立っている。あれは、お前らなど取るに足らぬって、そっちの解釈でいいのかな?いいよね?だってラスボスだし。ここで死んだら話終わっちゃうし。
「いけ!野郎ども!!」
「「「「「キュィィィッ!!」」」」」
イグアナの声に、モグラたちが一斉にロイに向かって走り出す。いやいや大丈夫、信じろ脚本家を。こんなところで最凶の敵が消えるわけ……
バッ!
「デストロイ様に触れるな!このモグラ共がぁぁ!」
「!」
「「「「「!?」」」」」
ぱちんっ
ちゅどーん、ちゅどーん、ちゅどーん!!
「なっ……なんだお前はっ!?」
ああ、ダメだ。大丈夫だと思ってみたけど体はそうじゃなかったみたいだ。気が付くと、私は自らあの恥ずかしい恰好になり、モグラたちと対峙していた。
「私はデストロイ様の忠実なる僕・アケミ!デストロイ様を一人にさせて卑怯なやり方でお命を頂戴しようなんて、言語道断、許すまじよ!さあ、今すぐ去りなさい、ゴーイング、ユア、ホーム!!」
「いや、ここ俺らの星だから」
「あ、そっか。じゃ、行きましょうデストロイ様!こんな土っぽいところサッサとおさらばして……」
「!さ、させるかっ!!」
ジャコンッ
え?大砲!?ちょ、そんなの、この星の外観と合わなっ
ドォォォォンッ!!
シュゥゥゥ……
……
「!」
「あ、ご無事ですか?デストロイ様」
「なっ、なにぃぃぃぃ!?」
ふう~生きてた、良かった。そういえば初日に赤星くんたちのジェット砲受けても大丈夫だったもんね私。またしても32歳の体に鞭打ってロイの前に立ち塞がってみた。丸腰の彼が破片とかで傷付いてないか心配だっだけど……大丈夫そうだ。怪我がなくて良かった。
「あ」
……そうだ。いいこと思いついた。
「デストロイ様、ご提案なのですが」
「……」
青年がジトッとした目で怪訝そうに私を見る。はんっ、そんな顔されたって怯みませんから。10倍返しでガン見したるわ。
「今後、私を楯として使うのはどうでしょう?」
「……楯だと?」
「はい、もし貴方に危険が迫ったら、いつでもこの体にその災厄を受けましょう。そうすればデストロイ様の身は安全ですし、私が攻撃を喰らうところも見られて(負傷しないけど)一石二鳥ではありませんか?」
「……」
ロイは黙った。青い瞳をこちらに向けたまま、頭の中で何か考えているみたいだ。……なんだろう、なんか知らないけどソワソワする。え、ひよってる?私ひよっちゃってる?いや、そんなわけないしっ、もう32だしっ!
……
……
無言の時間は、やけに長く感じた。ジッと答えを待っていると、褐色の頬に笑窪が出来て薄い唇がゆるりと開いた。
「悪くない」
「……ありがとうございます」
自分で提案してみたものの、嬉しいんだか悲しいんだか、なんだかよく分からない気持ちになった。