耳をすませば
「なっ、なんじゃこウィウィウィッ!?」
「いや有り得ないですよね、ビックリです」
翌日、ファミレスの店内には明らかに以前よりも仲良くなっている赤星くんたちの姿があった。雨降って地固まるとはまさにこの事だ。ちなみに、私と怪人は電柱の陰に隠れている(隠れきれてないけど)。結局彼には何も報告しないことにしたので、私は今ナチュラルに驚かなければいけない。
「一体どうしたんですかね?昨日の今日であんなに絆が深まるなんて……」
「……」
「先輩?」
あれ、なんかカシオペ……もう長いし色々面倒だからカッシーでいいや。カッシーの様子がおかしいぞ?背中丸いし、顔色悪いし、お腹でも下したのかな。
「ど、どうしウィ……」
「え?」
「デストロイ様に殺されるウィ……」
「!!」
そうだ。赤星くんたちのことばっかり考えてたけど、こっち――カッシーだって任務を遂行できないと大変なことになるんだ。……相手はあのロイだもの、失敗した奴のことは本気で殺しかねない。
「ウィウィウィ……」
「……」
ああ、なんかとっても可哀そうに見えてきた。悪役だからとか見た目がアレの使徒っぽいからとか、きっとそんな理由でないがしろにしちゃってたけど、カッシーにも心があり、皆と同じく命があるんだ。
ううっ、どうしよう……。“先輩、なに落ち込んでるんですか!もう一回能力使ってあいつらの絆ブチ切ってやりましょうよ!”って励ましてみる?いやでも赤星くんたちが心を痛めている姿はもう見たくないし。でもこっちは命がかかってるしな……
「ウィウィ、母ちゃん……」
「……」
いや考えろ。考えるんだ。人生32年の知識と経験を働かせて!えーっと、つまりポリスメンズを傷付けずにカッシーを救える方法があればいいんだよね?うーん、うーん……あ、ロイに賄賂でも送る?いや、奴はそんなんで傾くほど生易しい男じゃ
『あなたと合体したい!』
「ん?」
『一億年と二万年前からラブしてる~♪』
あれやこれやと考えていると、ふと、どこかから聞き覚えのある歌とセリフが流れてきた。あ、パチンコ屋か。この曲懐かしいな、確か中学か高校の時に流行って……
「!!、あれだっ!!」
「ウィ!?」
「先輩、科学班の所に行きましょう!」
「ウィウィ??」
気が付くと、私は最早ウィしか言えなくなっているカッシーの両肩をつかみ、前後にブンブン揺らしていた。……そうだ、あれだよ、あれしかない。いざ、ドーベルマンさんの所へ!!
ひゅぅぅぅぅ
「やあ、君か。今日は何の調査かね?」
「ロボットって作れます?」
「え?」
黒いお目目がクリンとなった。ちょ、可愛いな。
「いきなり何を言い出すのかと思えば……一体どうゆうことだい?」
「はい。今、デストロイ様のご命令でこの先輩と一緒にポリスメンズ抹殺計画を遂行中なんですけど、奴ら想像以上に手強くてですね。これはもう巨大ロボで対抗するしかないかなと」
そう。特撮ヒーローものといったら、ほぼ100%の確率で巨大ロボが出てくる。だからこの世界でもアリなはずだ。絶対に作り出せる。そしてロボを誕生させてロイの興味をそっちに持っていかせ今回の心理作戦はしれっとフェードアウトさせるという、そうゆう心理・心理作戦だ!
「おい!お前一体なにを考えウィ……」
「任せて下さい先輩、もう大船に乗ったつもりで」
「出来ないよ?」
「え?」
「いやそんなものココでは作れないよ」
「……」
なんでだー!だって商品化して売るためにロボットって必要でしょ!?諦めるなよ!ここでは作れないとかそんな……
「あ。ここでは、ってことはどこか別の場所だったら作れるんですか?」
「ああ。惑星089なら機械技術に特化していて、巨大ロボを一台所有していたのだが……」
「いたのだが?」
「先日、デストロイ様が惑星除去装置で破壊した。ロボットもそれきり行方知らずだ」
うぉぉぉぉい!ロイィィィ!なにやってんだよっ、なんでそんな大事な星を破壊して……って、ん?破壊?
「あの、ロ……デストロイ様が、その星を破壊したんですか?」
「?、ああ。正確に言うとデストロイ様が発案した惑星除去装置が、ということになるが」
「あー……」
うわ、なんか嫌な感じがしてきた。この先は詳しく聞きたくないし、深く考えたくもない。ないんだけど……残念ながら私の口は、けっこう簡単に動いてしまった。
「……すいません、私ホントにぺーぺーで色々分かってないんですけど、デストロイ様が調査資料を基に作っているのは、その除去装置ってことですか」
「!、ああ。……君は本当に、何も知らないのかね?」
「はい、すみません。だから知りたいんです」
「……他に聞きたいことは?」
「あの、さっきの話に戻っちゃうんですけど、破壊された星はロボットを持ってたって言ってましたよね?ってことは、その星には住んでる人がいたってことですか」
「そうだよ」
「その人たちは……」
「一瞬で消し飛んだが」
「……」
「……大丈夫かね?顔色が」
「あ、ハイ、ちょっと貧血気味で」
ああ、世界がぐにゃぐにゃする。貧血ではなくメンタル的に。そうだ、今まで直視してこなかったけど、ここは悪の組織。しかもヒーローたちの宿敵サイドだ。そこにいる人たちがソフトな悪さしてるわけないじゃん。基本的に他人の命を笑って踏みにじってるはずじゃん。私、そんな所で何やってんだろ……。あ、ダメだ、なんかよく分かんなくなってきた。
「先輩、すいません。ちょっと休憩してきていいですか」
「ウィウィ!?」
「ホントすいません、また戻ってきますんで」
「お前っ、さっきからなんなんウィ!?」
ダダッ!
怒り喚くカッシーに頭を下げて、私はドーベルマンさんの研究室を出た。……カッシーには本当に悪いことをしていると思う。でもダメだ、いったん整理しないと。このままじゃ何もできそうにない。
そんなカオスな気持ちを抱えて、私は地球にパァァァッとした。
「あー、どうしよ」
公園のベンチに座って10分が経過した。今はお昼時なので敷地に子供たちの姿はない。たまに犬を連れたご老人や、コンビニ袋をさげた会社員さんが横切って行くくらいだ。
さわさわっ
……
さっきから考えがまとまらなくてホトホト困っている。……いやたぶん考えたくないんだろうな。だから色んな言い訳が脳内を錯綜して、大事な部分をボヤッとさせてるんだ。ウン、じゃあちゃんとしろよ自分。原因分かってるんだから。意識を集中させて、雑念をとっぱらい……
……ザッ
「……山本さん?」
「!、あ」
ふいに聞こえた窺うような声に顔を向けると……学ラン姿のリュウくんが立っていた。
「え、リュウくん??あれ?学校は……」
「テスト期間なので、もう終わりました」
「あ、なるほどねー」
「……」
「……」
ん?なんだこの空気。もう帰ってくれていいのに。リュウくんとはまだそんなに喋ったことないから、オバサン面白いこと言えないよ?別にいつも面白いこと言おうとしてるわけじゃないけど。
「……この間は、ありがとうございました」
「え」
え!?嘘っ、バレてる!?あの恥ずかしい恰好した人が私だってバレてる!?
「あいつの替わりに、ノート持ってきていただいて」
「!あ、そっちね」
「え?」
「いやいや。あ、テスト大丈夫だった?ってリュウくんは問題ないか。ヤバそうなのは赤星くんだ」
「ええ……」
“赤星”という言葉に、切れ長の瞳がふっと緩んだ。ああ、こうゆう表情も出来るんだ。
「今日はお休みなんですか?」
「うん。あ、でもこの後もう一個のバイトなんだ」
「え、大変ですね」
「そうなの!今いろいろゴチャゴチャしててさ、行くの気が重いわっ」
「……」
あ、愚痴っちゃった。そんなこと言われてもって感じだよね。ダメだ、この辺で明るく挨拶してササッと別の場所に移動しよう。
「俺は、全部を上手くやらなくてもいいと思います」
「え」
思ってもいなかった言葉に反射的に顔を上げる。すると、いつもクールなリュウくんが、ちょっと複雑そうな瞳で遠い地面を見つめていた。
「俺、最近まで全てを守ろうと思ってて……そのせいで、自分が大切だと思うものに気付けなくなってたんです」
……それは、この間の赤星くんとのことだろうか。
「でもそれじゃ本末転倒だ。だから、ちゃんと見ることにしたんです。夢とか理想の前に自分の心を。そしたら、本当に守りたいものなんてそんなに多くなかった」
「……」
「ちっちゃい人間だなって思ったけど、でもそれが俺なんです。だからまずは、自分が守りたいものを守ろうって……まあ、それすらも難しいんでしょうけど」
首を傾けて自信なさげに、でもどこか嬉しそうに話すリュウくんは、まるで別人のようだった。いや、違うか。きっと元々こういう子なんだ。何かのきっかけで壁が崩れて、本来のリュウくんが顔を出しただけなのかもしれない。……ああ、すごいな。自分で投げたブーメランが特大ジェット機になって返ってきた感じだ。
「あ、すみません。なんだか違う話になってしまって……」
「いやいや、そんなことない!すっごく参考になったっ!!」
あっ、年甲斐もなく大声出しちゃった。もう32歳なのに。
「……私も、自分の能力とか、本当に思ってることをすっ飛ばして“こうあるべき”ってものばっかり見てた気がする。だからきっと、考えもまとまらなかったのかなって。でも、リュウくんの話聞いてスッキリした。いや、スッキリしなくても良いんだと思ってスッキリした」
「そうですか……」
ふっ……
あ、また笑ってくれた。きゅーん……。アレだな、やっぱり普段笑わない人が笑うと破壊力半端ないな。アラサーの心を鷲掴みとは。これは冗談抜きでマダム大キラーだ。
「よっしゃ!捜しにいくか!」
「?、さが……?」
「あ、うん、ちょっと大事な物品が行方不明中で、それ見つけなきゃいけなくて」
「ああ、いろいろ大変ですね」
「そうなの、でもガンバルーッ!バイバイッ!!」
「あ、さようなら……」
タッ!
私のテンションの高さに戸惑っているリュウくんに、ブンブン手を振りながら公園を後にする。……やろう。モヤモヤしてても、やろうと思えることをやるんだ。
そんな決意を胸にビル陰に入り、私は新たな気持ちで悪の組織へパァァッとした。
ひゅぅぅぅぅ
「え、惑星089があった場所を教えてくれって?そんなの聞いてどうすんだよ」
「ロボットをゲットしようと思いまして」
「ワフッ!?」
私はアジトに帰るや否や、最近挨拶を交わすようになった下っ端C(チャウチャウ顔)を捜した。なぜなら前回会った時に、惑星089の調査をしていると言っていたからだ。さっそく赤茶を見つけて野望を告げると、彼は毛をビビンとさせて犬のように吠えた。
「おまっ、何言ってんだよ!そんなの見つかるわけないだろ!?デストロイ様の惑星除去装置は半端ないんだぜ?まあ、あのロボは特殊素材で出来てるから壊れることはないかもしれねえが……。それでも確実に遠くまで吹き飛ばされてるって」
「え、マジすか」
ええっ、早くも絶望的!?その星の周辺を探せば何とかなると思ってたのに。いやいや、諦めるな自分!リュウくんだって絶賛頑張ってたじゃないか。
「あの、とりあえず星があった場所を教えてもらっていいですか?まずは行ってみます。後のことはそれから考えるんで」
「べつに、いいけどよ……」
Cの呆れ顔を尻目に、私は言われた事をメモした。なんか他にいい案が思いついたら良かったけど、凡人である私の脳はそう簡単に閃いてはくれない。うん、こればっかりは仕方ない。人間そんなに都合よく進化できるもんじゃないからね。だったら可能性が低くても、いま出来ることをちゃんとやろう。
「と、いうわけです」
「ウィウィウィ!?何を言い出すウィ!?」
「いやだから、巨大ロボ捜しに行きましょう!」
「お前バカ!?そんなもの見つかるわけナウィッ!時間の無駄ウィ!」
「(むー……)」
想像はしてたけど、やっぱりカッシーに猛反対された。バカ呼ばわりだし。いや、私だって見つけられるものなら一人で行くよ?でも人手があった方が絶対いいじゃん、見つかる可能性2倍じゃん。
「……先輩、よく考えてみてください。このまま対ポリスメンズの心理作戦を続けて、成功させる自信がありますか?」
「!ウィッ」
「あいつらの絆は並大抵じゃありません(私が修復手伝ったけど)。それは先輩も見たでしょう?だったら他の手を使う方が賢明じゃありませんか?」
「ウィウィ……」
赤星くんたちが絆を取り戻したことはカッシーにとって相当痛手だったようだ。今の彼には出会った時の過剰過ぎる自信が窺えない。プライドが高い人ほど、失敗した時キツイんだろうな。失敗させたの私だからそこは罪悪感を感じざるを得ないけど。
「先輩、可能性は低くても巨大ロボを捜しに行きましょう。それが見付かればきっとデストロイ様はお喜びになるはずです。そしたら先輩……と、私は殺されずにすむんじゃないですか?だったら頑張りましょうよ。最後まで後悔しない生き方しましょうよ」
悪の組織の構成員に何いってるんだろう?と自分でも思う。でも隣にいる人げ……怪人が殺されるのを黙って見ているのも嫌だ。だったら、私が何とか出来るんだったら、何かしようじゃないか。私たちは星を破壊するために生まれた親玉の元にいて、星が消えればたくさんの人が亡くなって、それは嫌だし、絶対によくないって思うけど、そうゆう大きなものに囚われて、目の前が見えなくなっちゃうのはダメだ。私は私。いつだって自分の声を聞かなくちゃ。
「……そうウィな。最後まで頑張った方が母ちゃんも……」
「!、そうですよ、行きましょう!」
よし、カッシーがその気になった。鉄は熱いうちに打て、だ。再びガシッと彼の両肩を摑む。そして先ほど聞いた089のことをイメージして、私は思いっきりパァァっとした。
ヴンッ
「うわっ!着いた」
「ウィウィッ!?お前何をしたウィ!?」
「テレポートです。あ、コレ内緒にしといてくださいね」
いやったぁぁぁ!飛んでこれたよ089に(しかもカッシーも引き連れて)!!だがしかし、これで喜んでいてはいけない。問題はココからだからね――下っ端Cが言ってたように、もうこの場所には何もない……。光る塵とか岩みたいなのがフヨフヨ浮遊しているだけだ。うーん、なにか手掛かりになる物はないかな?ロボの破片とか、装置的なものとか、
ヴーッ、ヴーッ
「え」
なに着信?もう、なんだよこんな時にー!
「先輩、ちょっとすいません」
「ウィ?」
ピッ
「もしもし?」
「やあ、久しぶりであーる」
「あ、はい。何でしょうか」
「つれない返事だな」
「ちょっと今急いでるんで」
「巨大ロボ捜しでごわすか?」
「えっ」
何で知って……ってそりゃそうか。ゆで卵たちはずっと見てるんだもんね。多分あのでっかい図書館で紅茶すすりながら楽しんで……あっ、なんかイラっとしてきた。
「じゃ、また後で掛け直すんで……」
「どうする?もう出しちゃう?」
「いや、まだ5話ぶんくらい早いのでは?」
「悩ましいでごわすな~」
うん?今なんて言った??
「……あの、もしかして、巨大ロボって貴方たちの匙加減で出せるものなんですか?」
「「「そりゃ神だから!」」」
うっわー、なんかコイツらが黒幕に見えてきた。ってゆうか実際そうか。こっちが必死こいて慌てふためいているのを空調設備のある図書館から優雅に眺めて……いやいや落ち着け自分。とりあえずロボットを出してもらうことが現状の最重要任務だ。
「あの、じゃ、出してもらっていいですか?今すぐに」
「ええ~、キミ、はやく話を終わらせたいだけじゃないの~?」
「(くそムカツク)いやそんなことないですよ、ほら、初期でロボ出した方が面白いじゃないですか。こっちが強くなればポリスメンズも強くなるでしょ?」
「でもすぐに強くなってしまうと、その後の展開が厳しいのではないか?バトルがマンネリ化するし、パワーインフレが起こる可能性も濃厚になる」
「最初は面白かった作品もそれでグダグダになって、残念な結末を迎えがちでごわす」
ちっ、さすが暇と時間を持て余しているゆで卵たちだ。痛いところついてくるな。でもこっちだってココで折れるわけにはいかないんだ。
「バトルばかりに重きを置かないで、登場人物の心理を描いていったらどうですかね?戦いメインじゃなくてそれぞれの葛藤とか、恋愛とか、そうゆうプライベートな部分に光を当てていけばバトルの回数も少なくて済むし、キャラクターの人間味も増して視聴者がより感情移入するというか、応援したくなるんじゃないですか?」
ああ、私は一体誰と何の話をしてるんだろう。プロデューサーと脚本家みたいな会話だ。
「ふむ。まあキャラクターの心理を深いところまで描いた大きいお友達向けの作品はあるけれど、小さいお友達向けのものは、まだそこまで多くないであるな」
「でしょ?」
「でも君にできるかい?彼らの心を引き出すことが」
「彼らより一回りくらい長く生きてるんで、たぶん何とか」
「あっはっはっはっ!亀の甲より年の功でごわすな!」
「「「あっはっはっはーっ!」」」
スマホの向こうから爆笑が聞こえる。うん、自分で言うのはいいけど他人に言われるとウザイな。バルス。
「よしわかった。君の話に乗り、巨大ロボットを提供しよう!」
「!、ありがとうございます!!」
「うむっ、よきに使うであーる!」
「ごわす!」
ブツッ、ツー、ツー
……よし、やったぞ。
「!あっ、あれは何だウィ!?」
「!(おおっ)」
カッシーの声に振り返ると、輝く塵の向こうにボーンと大きな鉄の塊が浮かんでいるのが見えた。二人で慌てて近付くと、それは紛うことなき真っ黒な巨大ロボだった。
「先輩っ!」
「やったウィー!」
こうして私たちは特に何の努力もせず、数分間の電話会談で巨大ロボを手に入れたのだった。
ひゅぅぅぅぅ
「ほう。よくやった」
「「ははっ!」」
アジトに帰って早速ロイに現物を見せた。すると奴は珍しく青い瞳を見開いて満足そうに口角を上げた。へへんっ、どんなもんだい。私だってやれば出来るんだよ。
「して、ポリスメンズ抹殺の件はどうなった?」
「え?いや、ですからこのロボで襲撃をして……」
「しくじったか」
スッとコバルトブルーが細くなる。あ、ヤバイ。私の隣にいるカッシーは……
バッ!
ザシュッ
「!」
「!!お、お前っ、なぜ俺を庇ったウィッ!?」
「不死身だからです」
危ない危ない。カッシーは生身の人げ……怪人なんだから、あれを喰らったら一発で死んでしまう――瞬時にそれに気が付いた私は、32歳の体に鞭を打って迅速に彼の前に飛び出したのであった。あ、なんか筋が痛い。どうしよう明日筋肉痛になったら。
「……どうゆうつもりだ」
「はい?」
「どけ」
「え、イヤです」
あー、なんか、だんだん腹立ってきた。なんなんこいつ。こっちは巨大ロボ持ってきたんだよ?それってこの組織にとってはカナリの収穫じゃない?なのに別の作戦失敗したから殺すとか……バカじゃない?あ、ダメだ、またしても口が勝手に開いて……
「え、そっちこそどうゆうつもりですか?こちとら結構デカイもん持ってきたと思うんですけど。それとこれとは別ってこと?あのさあ、上に立つ者としてそれはどうかと思いますよ。自分の命令を完璧にこなせなかったらそいつは無用ってことなの?他に良いトコあるかもしれないのに、そうやって部分的に見て殺しちゃうわけ?いやカッシーってすごいじゃん。人の心操れる奴なんて早々いないよ?悪趣味だけど。でもすごい能力には変わりないじゃん、その逸材をさあ、一つのことが出来なかったから殺しちゃうとかおかしくない?いやバカだよ。バカバカバカッ、お前はバッ」
ザシュザシュザシュザシュザシュザシューッ!!
うわ、すごい殺された。
「ちょ、タンマタンマ」
「……消えろ」
「……」
「死なぬなら、二度と俺の前に現れるな!!」
「!」
初めてロイが怒鳴った。いつもは冷たい瞳が熱を持って揺れている。……なんか、すごく悪いことをした気分だ。
「……ごめんなさい」
「……」
「あの、言い過ぎました」
「……」
ロイは下唇を噛みしめて、こちらを睨み続けている。あ……そうか。この人まだ子供なんだ。いつも威圧感バンバン出して、容赦なくザシュザシュしてくるけど、もしかしたら、その方法しか知らないのかもしれない。
それってやっぱりナンカ、なんかだ。
「……申し訳ありませんでした。どうかお傍にいさせてください」
「……」
親玉は何も言わなかった。そして私も何と続けたらいいのか分からない……。しだいに沈黙が苦しくなってきたので、とりあえず深くお辞儀をして、回れ右して部屋を出た。