マイウェイ
数日後。
「お前たちに命令を下す。徒党を組み、ポリスメンズを抹殺しろ」
「え」
「ウィウィ!?」
ロイにいきなり呼び出されたので何だろう?と思っていたら、急に変な生き物(オペ〇座の怪人の仮面みたいなのをつけた、某使徒的な見た目の奴)とタッグを組み、赤星くんたちを仲間割れさせて殺してこいと言われた。……いや無理無理。そんなん絶対にイヤ。
「……デストロイ様、大変恐縮ですが、それは今でなければいけないのでしょうか」
「なに?」
「私の計画は順調に進んでおります。しかしながら、奴らを衝くには少し早いかと」
「待てん。すぐに結果を出してこい」
なんだよ!この間は期待してるぞって言って、待っててやるオーラ出してたくせに!!まあ悪の親玉は総じて理不尽なものなのかもしれないけど……でもそんな貴方のことを、私は気に掛けてあげてたんですけど?前回のハートウォーミングなモノローグ締めを返せ。
「デストロイ様~、こんな奴が本当に役に立つんですかウィ~!?」
「俺の命令が不服か」
「ウィッ、ウィウィィー!!滅相もありません!このカシオペラ座の怪人、身も心もデストロイ様に捧げる所存で御座いますッ!!」
「(うさんくさっ)」
ということで、私はこの〇ペラ座の怪人と二人三脚で、赤星くんたちの抹殺を試みなければいけなくなった。うーん、どうしよう?なんか上手いこと回避できないかな。
「あ、すみません。お待たせしました~」
「遅ウィ!!」
さっそく地球にやって来た。怪人の姿は目立つので、とりあえずひと気のないスーパー裏へいざなってコソッと作戦会議だ……ちなみに、私がテレポート的なことができるのは周りには内緒にしている(なんか皆できないっぽいから)。なので怪人とは一旦アジトで別れて、現地集合にさせて頂いた。
「で、あなたは何が出来るんですか?」
「フフフッ、“悪魔の声”を使ってターゲットを思い通りに操れるウィー!」
「え」
マジか。思ってたより断然ハイスペックな怪人だ。カニ星人の次に、いきなりこんな輩がご登場とは。……なんか弱点とかないのかな?
「貴様はポリスメンズの事を調べてるらしウィな」
「!あ、まあ、はい」
「奴らの所に連れてけウィ」
「あー……この時間だとまだ授業じゃないですかね?私、学校の場所は知らないんですよね」
「何だ、とんだ役立たずウィ!」
「すいません」
むむう、この後どうするかな……知らない、すいませんで通すのにも限度がある。ああ、何かアインシュタイン並みにスゴイこと閃かないかな?あ、そんなん思いついたら特許とれるな。そしたらもう思うがままにダラダラ生きて……
と、現実逃避をしていたら、放課後はあっという間にやって来てしまった。
ざわざわ
キュッ、キュッ、キュッ
「山本さん、また例の店長のことで悩んでんの?」
「あー……分かる?」
「うん。だってさっきから料理違う卓に運んでるもん」
「それな」
くそう、またしても業務に支障が……。だってうちの店長がいきなり人を操れるヤバイ奴を投入してきて君たちを殺せって言ってるんだよ?そしてそいつが今このファミレスの外でチャンスを狙ってスタンバってんだよ?動揺せずにはいられないって。
ウィーンッ
「あ、いらっしゃいま……リュウ?」
「……ノート」
「は?」
「(?)」
突如として店先に現れたリュウくんは、明らかに不機嫌だった。いつも開きがちな瞳孔が更に開いてしまってる気がする。
「お前が返してきたのお前のノートだったんだよ。返せ、俺のを」
「え!?うっそ!ゴメ……」
ピィィィィンッ
うん?今なんか耳鳴りが……
「……はっ、返した時に気付かなかったのかよ、バカじゃね?」
「(!え)」
「……何言ってんだお前」
おかしい、赤星くんの様子が明らかにおかしい。ふだん底抜けにあかるい彼が、こんな態度をとるはずが……あっ、
「ウィウィウィ♪」
「(!)」
ハッとして自動ドアの向こうを見ると、あの怪人が変なポーズでニヤニヤしながら立っていた(正直どこが口なのか分からないけど何か笑ってるのは分かる)。……あいつだ。あいつが能力を使って赤星くんを操ってるんだ。もちろん、ブルーは気付いていない。眉間の皺をググッと濃くしてクールな瞳を燃やしている。
「前から思ってたけど、お前ってバカだよな。いつも足手まといだしよ」
「何だと?」
「役立たずだって言ってんだよ。俺は最初に会った時からお前のことが大っ嫌……」
「ああ!大キラーね!!うんうん!赤星くんよく言ってるよね!リュウはマダム大キラーですげぇんだぞって!!」
「「え?」」
―――くるっ
!!ぬおっ、イケメン達の瞳がまたしても私にっ、目が、目がァァァ!!……とムスカしてる場合じゃない。このヒリヒリする争いを一刻も早く止めなければ。
「もうダメだよ赤星くん!いくら自分もマダム大キラーになりたいからってリュウくんっぽくクールぶっても。そりゃ形から入るのも大事だけど、そこで満足しちゃアカンよ。やっぱ中身から作らないとさ。君にはそこを目指して欲しいと私は思ってるよ?」
「……あの、何の話をして……」
「あっ!!店長―!!赤星くんノロウィルスみたいなんで、もう今日帰っていいですかねー!?」
「!!ちょっ、山本さん!お客様に聞こえるからそんな大声で言わないで!?」
「あ、すみません。さ、赤星くん行くよっ」
「え?」
グイッ!……ダダダッ
私は赤星くんを強引に引っ張って、無理やり男子ロッカーに押し込んだ。そしてその際に彼の鞄からしれっとブルーのノートを抜き取り、光の速さでリュウくんの元へ戻った。
……タッ!
「はい、お待たせっ!赤星くんが、さっきはゴメンって。体調悪くて頭の中がグルグルしちゃってたみたい」
「……どうだか」
「え?」
「いえ……。ありがとうございました」
スタ、スタ……
「……」
そう言って去って行くリュウくんの背中は、すこし小さく見えた。
じーっ……
「あ」
「……ウィッ、ウィウィッ」
あいつのことすっかり忘れてた。
「どうゆうつもウィッ!?」
「えーとっ」
退勤後、さっそく夜の公園で怪人に問い詰められた。そりゃそうだよね。同じチームなのにめっちゃ妨害プレーしたもんね私。
でも、ああゆうの嫌なんだよなあ。あのあと赤星くんも“なんで俺あんなこと言っちゃったんだ!?”ってめちゃくちゃ凹んでたし。……心理戦って想像以上につらいな。これだったら素手で殴り合ってる方がマシかもしれない。いや痛いのも嫌だけど。
……ザクッ
「……なんの用だ」
「「!」」
砂場の方から聞こえた声に振り向くと、白い電灯の下でリュウくんと赤星くんが向かい合って立っていた。……なんだか空気が重苦しい。とりあえず、怪人と一緒に茂みの中に隠れる。
「ごめんっ!あんな酷いこと言って……なんて言っていいか分かんないけど、本心じゃないんだ。なんか、口が勝手に動いて……」
「無理するなよ」
「え?」
その返事はひどく冷たかった。またオ○ラ座が操っているのかと思って横を見たけど……違った。怪人はニヤニヤしてるだけ。今はリュウくん本人が喋っている。
「お互い猫被るのはもうやめようぜ」
「リュウ?」
「俺もお前が大嫌いだ」
「え」
「頭で考えないで感情のまま突っ走る。危ない時でもケラケラ笑って……嫌いなんだよ、お前のそうゆうところ。見てて虫唾が走る」
「……」
「これ以上一緒にやっていけない。俺は地球勤務から外れる。明日にでも、所長に移動願いを出すよ」
ザッ……
細長い影が一つ、静かに公園を出て行った。残された影……赤星くんは、まるで足が縫いつけられてしまったかのようにそこから動かず、ただ呆然と夜の闇を見つめていた。
「あれ?ユウジ、どうしたの?」
「!」
ふいに、私服姿のグリーンが公園の前を通りかかった。よ、よかった!彼ならきっと赤星くんを励まして二人を仲直りさせてくれ……
ダッ!
「!ちょっ、ユウジ!?」
「(ああ……)」
逃げるように、赤星くんは反対の出口から公園を出ていった。……そうだよね。また自分が変なこと言って誰かを傷付けちゃうかもしれないもんね。だったら君は、一人で居ることを選ぶよね。
「ウィウィウィ!なんて愚かな奴らだウィ!こちらが少し手を加えただけで自ら崩壊していくとは!もう時間の問題だウィ!」
「そうですね」
そう、そうなのだ。これは時間の問題だ。冷静に考えてみれば、この作品はヒーローもの。そうゆうのって前半でヒーローがピンチになっても、後半には挽回して必ず敵をやっつけるんだ。だから、このまま放っておいても問題ない。きっと彼らは自分たちの力で絆を取り戻す。
でも……
「じゃ、お先に失礼します」
「ウィ!?」
「いや、先輩のお陰で奴らの負けは確定したと思うので、今日はここまででいいかなって。ほら、せっかくなら崩れ行くさまをゆっくり眺めていたいでしょう?一日でカタつけちゃうの勿体ないですよ」
「まあ、それもそうウィな。よしっ、続きは明日にするウィ♪」
「はい、お疲れ様でした」
私がペコリとお辞儀をすると、怪人は満足した様子でルンルンと公園を出て行った。……よし、これで自由に動ける。さっそく公衆便所に向かい、個室の中でシュインッとする。
そして私は、あの残念な恰好でリュウくんを追いかけた。
ザッ!!
「おーほほほっ!見つけたわよ、ポリスブルー!!」
「!お前はっ」
リュウくんが細い路地に入った瞬間を狙い、バッと目の前に立ち塞がってみた。ああ、今日の私ったらいつにも増して悪役みたいだ。
「……なぜ、俺の正体を知っている」
「(あれ?知らない設定だったっけ??)ふふんっ、我がデストロイ様の力を舐めてもらっては困る。お前たちのことなど、するっとまるっとお見通しだ!」
「ちっ……」
「おや~?今日はお仲間はいないのかしら?」
「俺に仲間などいない」
「ふーん。……じゃあ、私と一緒にこない?」
「……なに?」
端正な眉がピクリと動く。よし、ここからが勝負だ。
「前から思ってたのよ、あの三人の中で貴方の能力はズバ抜けてる。だから勿体ないなって。ほらグリーンはともかく、あのレッド?彼って、びっくりするくらいバカよね。あの子は確実に貴方の邪魔をしてる。思わない?あいつさえ居なければいいのにって」
「……ああ」
「殺してあげましょうか」
「え」
「貴方も邪魔者がいなくなった方が清々するでしょう?」
「いや、そこまでは……」
「半端な思いは捨てるべきよ」
「……」
「嫌いでしょう?憎いでしょう?」
「……」
「違うのかしら?」
「……」
漆黒の瞳が、だんだん地面に下がっていく。強く握られた拳も、もうすぐ解けてしまいそうだ。言うなら、今だ。
くすっ……
「自分の気持ちに気が付けないほど、愚かな者はいないわね」
「え……」
「見込み違いだったわ。貴方は何を信じたいのかも分からない人間なのね」
「!」
見開かれた目に光が宿る。うん、多分これでもう大丈夫。さ、あとは軌道修正して消えるのみさ。
ビシィッ!
「おーほっほっほっ!やっぱり仲間にはいれないわ!せいぜいバカレッドと地球を守るがいい!そのうちデストロイ様がやってきて、この星を滅亡させるのだから!では、さらば!!」
「あ、おい!」
ダダダッ!
劇的に指をさしてから、猛ダッシュで姿をくらませてみる。あー、恥ずかしかった。でも早く仲直りできた方がいいもんね。放っておいてもそのうち絆は復活するんだろうけど、それまでツライの嫌じゃん。一分、一秒と人生は進んでるんだから、誰かの力で助けられるなら、きっとお手伝いした方がいい。
「さっ、今日はコンビニでポテチのBIG買っちゃおうかな!」
うん、なんか大変だったけど一仕事終えてイイ気分だ。我ながら良いことしたな~
「……あ」
でも、このあとオペラ○に何て言おう?