悪役と一緒。
「……」
「……」
苦しいくらい、痛い。ロイの腕が容赦なく体を締めつける。でもそれは出会ったころに感じた殺意とか憎しみじゃなくて……。ただ、言葉通りの
“……きえるな……”
「……うっ」
「……」
「ぅうっ、うっぐ」
ふっ……
ふいに胸と背中が楽になった。ロイとの間に冷たい空気が入り込む。
「……」
「ぅうっ……」
「泣くな……」
「いや……」
「……」
「っデストロイさまもじゃないですかっ」
「……」
……ぽたっ
今度は血じゃない。青い目から流れた透明な水が私の首元をくすぐる。ああ、これじゃ同じだ……。何度も言われたことを、そのままロイに返してしまう。
「っ泣かないで」
「……」
「悲しくて、どうすればいいかっ、わかんない……」
「……」
「ぅうっ……」
「……」
「……なんか言ってくれませんっ?」
「……殺すぞ」
「なんでやねんっ」
「……」
あ、初めてロイにつっこんじゃった……。なにしてんだろ、なにやってんだろ私たち。こんな状況なのにロイの言葉は痺れるくらい嬉しくて、それもふくめて、どん底に悲しい。こんなに悲しいことってあるんだろうか。泣いても何も変わらない。でも泣きたい。めちゃくちゃに泣きたい。そんで、そんで、そんでもって
ぐいっ
ぎゅぅぅっ
「!」
「……」
きつくきつく、抱きしめたい。
できた隙間を今度は私が埋める――ロイの体は硬い。怖がってるのかビックリしてるのか……そんなことも愛しくて、これでもかってくらいに胸がいっぱいになる。……離れたくない。このまま、ずっと一緒にいたい。
「好きです……」
「……」
「デストロイ様のことが、大好き……」
「……」
「なのに……」
「……」
「なんで離れなきゃいけないのお……」
……すっ
背中に腕が回る。ロイの腕だ。……嘘みたいに温かくて、優しい。
「……」
「(……あ)」
この感覚、知ってる。前に思いの丈をぶつけて貧血みたいになったとき、やわらかいものに包まれた……
“お前気絶してたから分かんねえか”
“??”
“倒れたお前をデストロイが抱えてたぜ?俺はこの目でしっかり見た”
あれは、本当にロイだったんだ。
「……」
「……」
ロイは何も言わない。でも、喋ってるみたい。温かい腕が、胸が、心臓が、ここにいるって伝えてくれてるような気がする。
……
……
「……消えるのか」
「…………はい」
「……いつ」
「……はっきりはわからないけど、5、6ヶ月とか……」
「……」
「……ごめんなさい」
「なぜだ」
「……」
「なぜ、お前が謝る」
「え?」
予想もしなかった言葉に顔を向けると、澄んだ青い瞳と目が合った。
「お前は悪くないのだろう」
「あ、はい」
「なら謝るな」
「……はい」
ふっ
直後、ロイの瞳が閉じられた。
「……」
「……」
「……」
「……うん?」
すぅー、すぅー……
耳に神経を集中させる。すると、健やかな寝息が聞こえた。え……寝た?ウソ寝たの、この人?この状況で?この体勢で??
カシャーン!
「……あ」
「すっ、すまな……いや、失礼いたしましたっ」
ささっ
……
班長が現れて、そして去って行った――割れた瓶と謎の液体を床にぶちまけて。……あ、ってかあれ止血液じゃない!?
「あの、班長!」
グイッ
「え」
ぎゅぅぅ
「いくな……」
「え」
「いくな……」
「……」
ロイはきつく目を閉じている。まるで悪夢にうなされてる子供みたいだ……。どうしよう、どうしたらいいんだろう?私は消えるのに。絶対いなくなるのに。
ぽん、ぽん……
「……」
「……」
今だけでも、少しでもロイの力になれるように……。自分のちっささに泣きそうになりながら、目の前の壊れてしまいそうな背中をさすった。
どろんっ
「「「どもども!お久しぶりー!!」」」
「!、どうも」
あのあと、なんとか班長を呼び戻し(超大声で叫びました)二人で丁重にロイを引きはがして医務室に運んだ――もうパイレーツは去ったようで、アジト内では珍獣たちが破壊された箇所をトンチンカンしていた。意外と原始的な風景だった。で、班長曰く、ロイは命に別状はなく、出血と疲労で寝ているだけとのこと。そう、気絶ではない。ガチで寝てるだけらしい。……目が開かないのは心配だけど、復活するための睡眠なんだ。じゃあ大丈夫、あとは待つだけ。
「……z……zz」
と思ったら急に眠気がきて、ベッドで眠るロイの横で瞼を閉じたら夢の中……。即寝たね。気持ちいいくらいカックリと。で、そしたら目の前に大きな本棚が現れて、ドロンと神たちが登場いたしましたとさ。
「うむ!説明ご苦労であーる!」
「いえいえ」
「で、何か聞きたいことがあるのではないかい?」
「あ、ハイ」
「さあ、言ってみるでごわす!」
「じゃ、お言葉に甘えて……私の世界とこの世界、行ったり来たりできるように……」
「「「なりましぇーん!!」」」
「(……ウザッ)」
「そんな骨◯いの井戸じゃないんだから」
「いや、あれも最後は通れなくなるぞ?」
「そういえばそうでごわす」
「……」
「あ!じゃあれだ、レ◯アース(漫画版)の最終回みたいな!」
「あの読者振りは斬新だったなぁ……」
「ビックリしたでごわす」
「……」
「ってことで無理だから!キミはあと2クールのそれなりのところで強制送還されるし、戻ったら二度とポリスメンズの世界にはこれないのであーる!」
「!あと2クール、ってことは、やっぱり半年くらい?」
「うむ、それくらいだな」
「延長も無……」
「「「ナッシング!!」」」
「だよねー」
「ルールはルールでごわす」
「そのとーり!生まれればいつか終わりがくるように、変えられないものは変えられないのであーる!」
「え、でもこれって貴方たち次第でどうにでもなるんじゃ……」
「ばっかもーん!!何事も本気でやらねば面白く
ないだろうが!!」
「ごわす!!」
「こちとらガチで遊んでだよ!あ、遊んでんのであーる!!」
「「「ルールは絶対!!」」」
「……」
くそ、まるでアリンコと巨人だ。全く太刀打ちできないし、向こうもこっちを同等になんか見てくれない……。ああ、なんか今さら恐ろしくなってきた。やっぱりこいつら神なのか。完全に違う世界線にいて、私たちが足掻いてるのをワイン片手に眺めてんのか。……話しても、きっと通じない。通じないってゆうか、心は動かせないってゆうか、
“ユウジなんかは、話せば分かり合えるって言うと思うけど俺は違う。分かり合えない相手は、絶対にいると思います”
「……」
数ヶ月前のアタルくんの言葉に、私は「じゃあ、どうすればいいかってことを考えていきたい」って答えた。この神たち自身をどうかすることは出来ない……。これは、こればっかりは自然現象と同じだ。どんなに訴えても、努力しても、こっちの意志で変えることはできない。
じゃあ、どうするか。ここからが、どうするかだ。私はあと半年くらいで還される。その間になにが出来るだろう……。
「お、どうやら理解したようであるな?」
「あー、まあ、ハイ」
「よかった!他に質問はあるかね?」
「えー……いまんとこダイジョブです。あ、またなんかあったら電話していいですか?」
「いいけど出れない時は出れないでごわすよ?特に月曜はジャ◯プが出るから忙しいでごわす」
「(暇人じゃん)ワカリマシタ」
「では、引き続き頑張ってくれたまえ!」
「ハイ」
「「「まったね〜!」」」
ぱちっ
「……あ」
「……」
ぱっちり目覚めると、コバルトブルーとぱっちり目が合った。いや、合ったってゆうか見られてた、みたいな。……ちがう?自意識過剰?
「えっと……どうですか?体調」
「なんともない」
「(ホントか?)そうですか」
「何をしている」
「え?」
「ここで何をしている」
「あ、ああ、えーと、つきそい……いや見守り?ですかね」
「みまもり?」
「(意味分かんなかったのかな?)いや、デストロイさま大丈夫かなって、近くで見てました。ちょっと寝ちゃってましたけど」
「……」
スッ……
ふと、青い目が伏せられる。……どうしたどうした?ってか睫毛長いなあ。なんて思っていたら、ロイがゆらりと体を起こした。……なんともないって言ってたけど、やっぱり動きが鈍い気がする。
「今から俺の下につけ」
「え?」
「世界を増やす」
「え」
世界を増やす……ってなんだっけ?えーと、えーと、
“繋がった人の数だけ、世界って増えるんですよ。星を消すより、世界を増やしていった方が面白そうじゃありませんか?”
あ……私が言ったこと?
「どうすればいい」
「!あ、えっと」
「……」
「ちょ、待ってください、いま頭整理するんで!」
うそ、嬉しい……。でも驚きだ。星を壊す、銀河を闇で覆う、そのために生まれてきたって言ってたロイが、世界を増やすって……奇跡だ。この物語最大の転換期かもしれない。
慌てるな……。落ち着いて、ロイにとってなにを一番最初にするのがいいのかを考えよう。えーと、“ザシュるのやめましょう”とか?いや、違うな。なんか“やめる”っていうのはよくない気がする。やめるより“◯◯しましょう”の方が健全っていうか印象が良いっていうか、
「(うーん……)」
「……」
かといって、いきなり“ポリスメンズと友だちになりましょう”っていうのもハードルが高過ぎる。今まで敵対してた相手だもの。それを180度ひっくり返すっていうのは無理がある。ロイじゃなくてもキツイ。フツーの人間でも無理だ。となると、まずは45度とか20度あたりのものを平らにするところからスタートするべきで。えー、なんだろう?ちょっとロイと良い雰囲気というか、他に比べれば一歩前進してるような物事って……
あ。
「モグラ・イグアナ星……」
「……?」
そうだ、あそこはこの宇宙の中で最も希望がある星だ!
「お礼を言いに行くのはどうでしょう」
「礼だと」
「はい。使者の方が教えてくれたとおり、宇宙海賊が来たじゃないですが。来るの早すぎてビビリましたけど」
「……」
「もしかしたら、あとちょっと遅かったらあの方も巻き込まれていたかもしれない。それでも、その危険があっても、わざわざうちに伝えにきてくれた。だからその思いやり……デストロイ様のことを心配してくれた心に、お礼を言いに行くんです。向こうはこっちに来てくれたわけだから、今度はこっちから行ってもいいんじゃないかと。そんでもってウチは使者ではなく、デストロイ様が行っちゃうんです!」
「なに?」
「使者ではなくご本人が行く。これはビビリます。なにか企んでるのか?と思われるパターンもあるかもですが、あの星はちょっと違うと思うんです。過去に裏切り許してますから。怪しむんじゃなくて、ひょっとしたら興味を持ってくれるんじゃないかって」
「興味だと?」
「はい。知りたい、気になる。その気持ちは、世界を増やす一歩目だと思うんです」
「……」
……
ロイは口を結んだままじっと私を見ている。……続きを促されている。
「興味をもたなかったら、世界はそこで終わってしまうと思うんです。相手がどんなふうに生きてきて、何を考えて、今そこにいるのか。それを知らないまま終わってしまう。それって目の前に面白そうな星があるのに寄っていかないのと同じだと思うんです。星に降りたらすごい生物とか見たことない不思議な植物があるかもしれないのに知らないまま終わってしまう。それを知らないで生きていく。でも興味があったら降りてみようって思うじゃないですか。私たちもそれと同じです。興味があれば相手の心を覗いてみたいと思う。覗いてみたら知らなかった気持ちに出会う。そうするとまた相手が違って見える……ほら、確実に増えてません?興味を持つ前と後で、少なくとも二つ世界が存在してるんですよ!」
……
青い瞳はパッチリ開いたままで、ピクリとも動かない。ちょ、ちょっと無理があったかな……。星に例えたら分かりやすくなるかなって思ったんだけど、かえって混乱させてしまったかもしれない。
「同行しろ」
「え?」
「034に向かう」
「!、畏まりましたっ」
こうして私は、ここに居られる残りの時間をロイの世界を増やすために使うことに決めた。




