床と刺さった剣のあいだに
ウーッ、ウーッ、ウーッ
『館内に侵入者あり!第六、第七ブロック、ならびに第三、第四ブロック突破、数、多数……ギャラクシー・パイレーツの襲撃と思われる!!』
「「「!!」」」
ギャラクシー・パイレーツ!うちを、ロイを攻撃しに来たってこと?こんなに早く……
『総員、第一戦闘配置!侵入者を殲滅せよ!!』
「!」
殲滅!?全員殺すってこと?そんな……でも、こっちだって殺されかねないんだ、不死身の私以外はみんな……デモンさんもカッシーも班長も珍獣たちも——ロイも。
ダッ
「アケウィ!?」
「おい!お前そっちは!」
「私、配置とかないんで!自由行動なんでー!」
守らなきゃ。盾になって。あいつが傷つくところなんて絶対に見たくない。
……
「愛だなぁ……」
「ウィ」
「ガハハハッ!観念しろデストロイ!この惑星066は宇宙海賊ギャラクシー・パイレーツがいただ……なんだお前はぁ!?」
「あ、すみません、お取り込み中に」
「……」
「ど、どこから現れた!?」
「空間?」
なんか咄嗟に走っちゃったけどテレポートすればいいんじゃんと思い直し、ロイをイメージして(これまでの失敗を逆に活かしたのさ!)パァァしたら、まさかのロイとパイレーツさんのドまんなかに到着してしまった。これ完全に空気読めないヤツじゃん。立ち位置わかってない役者じゃん。
それにしても……
「く、空間!?ってなんだよコラァァァ!」
「……」
なんか、弱そう。
ロイの失敗を受けてすぐアジトに襲撃してきたから、どんなに強い奴かと思ったら……眼帯つけてるワニさんだ。で、片手がフックだ。まぁフックってことはやっぱり海賊ってことなんだろうけど、いいの?こんなんで。もう3クール目でしょ?もっとビジュ凝った方がいいんじゃないの?これだったら前にウチに侵入してきたあいつの方が、よっぽど貫禄あ……
ダダッ
「キャプテン、何やってるんすか、早いとこデストロイぶっ殺しましょ……あ」
「あ!!」
「……なにやってんだお前、まんなかで」
「いや、ってゆうか、あ!宇宙海賊!?」
「そう言っただろうが」
どーん!
思い出してたら本人来たー!!銀に近い白い毛並み、無駄に美しいエメラルドの瞳。かつて私を騙してこの物語ギリギリのことをしでかし、でも二回目に会った時にはなんかちょっとイイ奴になっていた変形自在の山犬オオカミ——略してヤマオ!
ザシュッ
「!」
「おっと」
これまでのあらすじを思い起こしていたら鋭利なものが首の横スレスレを通り過ぎた。ロイのザシュリだ。その爪は私もキャプテン(でいいんだよね?)も越して数秒前までヤマオが居た場所にガガッと突き刺さった。
「ははっ、まだ恨んでんのか?」
「……」
「ちょ、おま、どゆこと!?ってか俺を差し置いて戦わないでくれる!?」
「あ、すいませんキャプテン」
そうだ、ロイにとってヤマオは殺したいくらいに憎い相手……脱獄されてめっちゃ怒ってたもんね、牢屋から出しちゃったの私だけど。え、どうしよう……。このままだと絶対流血沙汰じゃん。
もはやキャプテンはどうでもいい。早急にヤマオとロイを何とかしなくちゃ。
「あのー、そちらの要求はなんです……」
ピリッ
「黙れ」
「え」
「下がっていろ」
「……はい」
ささっ……
びっ、びっくりした……。ロイにこんなふうに言われたのは初めてだ。有無を言わせないっていうか、いや今までだって容赦なくザシュザシュされてきたけどなんかこう、圧が違う。空気だってピリピリして
ザシュ、ザシュ、ザシュ、ザシュ!
ババッ、ババババッ
「(!)」
「うおっ、間一髪だな」
ロイの連続爪攻撃をヤマオが素早く躱わす。早い。どっちもものすごく早い。
ザシュ、ザシュ、ザンッ!ザシュ、ザシュ!
バ……ババッ
「(あ!)」
「ち、ちと掠ったか」
ヤマオの左腕から赤い液体が滴る。……ダメだ、やめさせなきゃ。出会ったときはクソみたいな奴だったけど次に会ったときは私のために協力してくれた、悪いだけの奴じゃない。いやたとえ悪い奴だっとしても傷付けていい人なんていない。それに、ロイにそんなことさせたくない。
ダッ!
「「!」」
ロイの横を走り抜けてヤマオの元へ猛ダッシュ——あいつを別空間に飛ばす。そうすればこの戦いは終わらざるを得ない。
スッ……ガシッ!
「(ヒソヒソ声)ちょっとスイマセン!」
「は?」
よし、掴んだ。さあ全集中!……誰の迷惑にもならないような、宇宙のどっかをイメージして
ガッ
「え」
「ははっ、わざわざ飛び込んできてくれるとはな」
「は?」
あれ、美しい毛並みが私の首もとに……え、なにこれ。どゆこと?あ、絞め技?私ヤマオにプロレス技かけられてる?
ピタ
ロイの動きが完全に止まった。わ、どうしよ。なんかめちゃくちゃヤバイことした……!?
「(ヒソヒソ声)あの、今どうゆう状況ですか?」
「俺に聞くのかよ」
「(ヒソヒソ声)いや、聞きにくくて」
「はー!?……え、なに、もしかしてお前らまだデキてねぇの?」
「デ……だからそうゆうんじゃないんですって」
「ねえ!だから俺を差し置いて話進めないでくれる!?」
「「あ、スイマセン」」
キャプテンのこと完全に忘れてた。そうだ!こんな会話してる場合じゃない!こうしてる間にもアジトのどこかで戦いが起こってるんだから。今はとにかくヤマオを飛ばそう、さっ、もう一回集中して
「隙あり!覚悟、デストロイ!」
「「あ」」
放置していたキャプテンがなんの脈絡もなく刀を振りかざした。あー、ザコ感が半端ない。なんであの人がキャプテンなん
ザクッ
「「「え」」」
「……」
あれ?ロイの腕に剣が刺さって……
ブシューッ
「!!デストロイ様!!」
ダッ
血が、真っ赤な血が吹き出してロイや床を朱に染める。うそ、ヤダ、どうしよう、どうしよう!
……ッタ
ググッ!
刃が刺さっている部分を手で押さえて血が流れないように……しようとするけど何も変わらない、指の間から生ぬるい液体が出てきては零れていく——ヤバイ、エグすぎて意識飛びそう。って、ダメダメ!ここでぶっ倒れるわけにはいかない。こんな時に気失うなんてどこのヒロインだよ、腹立たしい。あーくそ!負けるな自分!何とかしろ、止まらないで考えろ!!
「あのー!御二方っ!こーゆー時どーすればいいんですか!?刀抜く!?抜かない!?」
「「俺たちに聞くのかよ」」
「だって他に誰もいないじゃん!!」
そうだよ、お前らのせいだけど私よりお前らの方が絶対こうゆうこと詳しいじゃんか!だから、だから教えろよコノヤロー!
「早く教えて!!死なせたくないの!ホント無理だから、こいつ死ぬとかぜったい有り得ないから!!」
「「……」」
「ちょ、黙んないで!?ねえ!早く!!はーやーくー!!早くしろよぉぉぉ!!……っ、どーずんの死んじゃっだら!!ぅぐっ、一生恨むがんな゛っ、ぅぅっ、宇宙の果でまで追っがげるがんな゛!!」
クソッ、頭回んない。目からも鼻からも水が出て、駆け引きとかそれどころじゃない。超ダサい。超カッコ悪い。でも口を開けばそんな言葉しか出てこなくて、ああ、私はこの程度の人間なんだって痛いほど思い知らされる。だけど、どうしようもない。今はこの私で頑張るしかない。
「……お前、テレポートできんだろ」
「え゛?」
「そのまま医務室にでもテレポートすればいんじゃね?」
「あ」
確かに。
パァァァッ
シュンッ
……
「な!?デストロイと女が消え……!!」
「キャプテン、戻りましょうぜ」
「え??」
「デストロイがいないんじゃ、この星とっても名誉にならんでしょう」
「ま、まあ、そうか」
「また改めてきましょう」
「お、おう!」
ザッザッザッ……
……ボソッ
「……嬢ちゃん、恩返しはここまでだ」
「!!アケミくん、デストロイ様!?」
「たすけてください!」
医務室なんて行ったことなかった私はこのアジトで最も頼りにしている存在——アクロス班長を思い描いた。班長はこれでもかってくらい目を大きく開いたものの、すぐに冷静な表情になり、速やかにロイの傷口に触れた。
「刃は、動かしてないね?」
「はい……」
「いい判断だった」
「!」
「もう大丈夫。すぐに止血液を持ってくるから、そうすれば剣も抜ける」
「あ、でも海賊が……」
「安心したまえ。ここは強固なシールドの中だ。ギャラクシー・パイレーツとて突破は出来ない」
「え」
言われて辺りを見回すと、見たことのない部屋だった。班長をイメージして飛んだからてっきり科学班の部屋かと思ってたけど……机も椅子もない、殺風景で薄暗い場所だ。床はコンクリートだけど、壁は剥き出しの岩になっている。
「少し待っててくれ」
「!はい」
そう言うと、班長は部屋の奥に去って行った。
「なぜ泣く」
「は?」
「……」
「え?あれ?デストロイ様、あれ、元気??」
「……」
腕に抱きかかえていた血まみれのロイがスンとした顔でこちらを見ている。……あれ?血まみれなのに、なんで普通なの?
「うん?あ、無理してます?無理して普通にしようとしてます?」
「……放せ」
バッ
血まみれのロイが私から離れた。え、なんで?なんで動けるの?相変わらず剣刺さって血ボタボタしてるよ?
「一緒にするな」
「え?」
「血など、なくとも困らぬ」
「え」
ええー!!なにそれ、なにそれ!?や、やっぱドラキュラなんじゃ……あ、違うか。ドラキュラは逆だ。血がないとダメだ。じゃ、なんなん??デストロ族って何者なん??
「泣くなと言ったはずだ」
「え?あ、あー……そうでしたね。えーと……すみませんでした。でも、だったら刺されないでくれます?」
「なんだと」
「だから、なんで簡単に刺されるんですか。言っちゃなんですけど、あのキャプテン?弱そうでしたよね。うちを脱獄したあいつよりも明らかにレベル低かっ」
ガバッ
「……え」
「殺すぞ」
冷たい床を背中に感じる。目の前にはロイの青い瞳……。あれ、これ……
「お前ほど気に食わぬ奴はいない」
「……」
「見るだけで不快だ、その声も、言葉にも、吐き気がする」
「……」
状況的には押し倒されている。押し倒されたうえで罵倒されている。なんだこれ、意味わかんない。こいつ剣刺さったままだし、血ボタボタしてるし——だけど残念ながら、一つだけ分かっていることがある。そう思いたくない、認めたくない。でも、だけど……悲しんでる。私は今、ものすごく悲しい気持ちになってる。
「いなくても不快だ。意味のないことを考え、手元が狂う、胸糞悪い」
「……?」
「どうすればいい」
「え?」
「どうすれば、お前を忘れられる」
……
目の前で、青い瞳が揺れている。苦しそうな、迷子のような、思わず手を伸ばしたくなる……
ボタボタボタッ
「!!ぎゃーっ!!……あ、すいません。つい」
「……」
気持ちの赴くままに手を伸ばしてみたら、めっちゃ血ぃ落ちてきた。いや恐いって。やっぱこのシチュエーション絶対おかしいって。でもロイは全然どいてくれそうにない。ってゆうか大丈夫?こんなに血流してホントに大丈夫なの?
「……あの、痛いの、我慢してませんか?なんか出来ることありましたら、なんでもしますよ?」
「……」
「デストロイ様……」
……ドサッ
ぎゅうっ
「……やめろ」
「……え」
ロイの声が耳元で聞こえる。熱を持った細い腕が、痛いくらいに体を締め付けてくる。
「……きえるな……」




